119話 男2人だけの
「もしかして……洗脳されているだけでパリキール王の部下だったり?」
「その心配はない。言葉を話していなかった。ただのモンスターだ」
「にしても、おっきいカニ」
水槽はそのまま海につながっていて、セーレたちが近づいたら大きなカニのモンスターが飛び出してきた。
役目を果たすべく登場した番人だったのだが、相手が悪かった。
セーレの鎖レイピアに足の関節を破壊され、凶悪な鋏にソコルルの砂を詰め込まれ、自慢の硬い甲羅もリイのスパイクの前には無力。見ているこっちが悲しくなるくらいのリンチぶりであった。
「ところで、これは僕たちでも扱えるのだろうか」
トライデントを引っこ抜いたソコルルがいろいろ振り回してみるも、なにも変化がない。
「貸して……私でもダメね。多分、使い手が決まってる」
「パリキール王に渡す必要があるな。僕が飛んでいこう」
「じゃあ私たちは、人魚さんたちの避難を」
いずれやってくるアキナとニコたちに備えて、セーレとリイは人魚多たちを安全な場所に移すことにした。
彼女たちはみな、ユキノたちが闘い始めた時点で人形のように固まってしまっている。チュラの【新宝島】によってスリープ状態にさせられているのだろう。
トライデント片手に飛び上がったソコルルを見送って、セーレたちも人魚たちの回収に向かう。
中庭から影がソコルルを追うように飛び上がったのを見たものは誰もいなかった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「っはあああああああ!!!」
全身にまとわりついたカニを火属性の魔力障壁を展開して吹き飛ばす。
炭と化したカニが湯殿中に散らばった。
「ソコルルの上着、燃やしちまった」
服の中にまで入り込まれてたから、カニと一緒に燃やすしかなかった。
あとで謝っておこう。
「この弁償は高くつくからな」
「ふんっ。魔力が使えるなんて、まるで異世界人みたいだな」
「……確かに、お前らが使ってんの見たことねえか」
せいぜい回復魔法と魔力障壁くらいで、あとはチート一辺倒だ。
「教える人材がいないからな。もっとも、教わる必要もないが」
魔法も現地語も一切覚えず、チートという圧倒的戦力で異世界を蹂躙するのがビートル人だ。
現地人とお話しする必要なんかない。
「世界語学べば、いい女の子との出会いがあったかもしれねえのに」
「ロジハラだ。ならばそのいい女とやらをここに連れてこい」
ロジハラはさておき、ならば、か?
可能性と実在するかは別問題だろ。
「ま、いいや。お前の事情なんか関係ねえ。アピアの国を返してもらう」
「ふははははは。欲しけりゃ力づくで奪ってみるんだな。それが男ってもんだろう」
「男らしさに興味はねえが、話が早くて助かるよ」
俺のメリケンサックの右こぶしとチュラの拳が激突する。
メリケンサックといえど、とげが生えてるわけでもない。
にしたって。
「俺が負けるって、そりゃないだろ」
メリケンサックごと、俺の指の骨まで全部砕けやがった。
どんな馬鹿力……いや、ウロコのおかげか。
「柔道部で男子校。殴り合いは得意でね」
柔道にパンチねえだろ。
「ああそれと、魚人の力は人間の10倍だ」
一瞬で間合いを詰められて、下着の首を掴まれてぶん投げられる。
何投げってわけでもない、力任せの投擲。
空中で体勢を変えて受け身をとる。
にしても、男の世界ねえ……。
「女との交流がなかっただけだろっと」
接近戦で挑むのはやばい。
だったら遠距離で攻める。
「くらえサッカー!」
帰宅部だった俺が魔力を足に集中。球体に丸めて、相手に蹴り飛ばす。
転移してきたばっかの頃は物を蹴っていたけど、魔力を直接錬成できるようなった。アキナとかセーレの魔力の使い方を見て学んだんだ。
「はっ!サッカーボールか!ヒキガネが見たら泣きそうだ!!」
リイほどじゃないけど、俺のシュートだってチートのはずだ。
だがあのウロコが硬すぎる。
何発ぶつけても、チュラの歩みが止まらない。
「打撃じゃ埒が明かねえか!」
「タイムオーバーだ」
まだ中距離のくせに何言ってるのかと思った次の瞬間、チュラがロケットみたいに飛び込んできた。
低空タックル。
避ける間もなく激突。
腹にチュラの頭がめりこんで、そのまま湯殿の壁にぶつかって止まる。
「残念だったな。物理ダメージが効かないのは、お前だけじゃない」
「わかっている」
まだ何かしてくるつもりか。
背中に肘鉄食らわせたが無駄骨だった。
俺をベアハッグしたチュラは天井に向かってジャンプ。
頭の上に見えるのは、さっきカニが出てきた穴。
そこから見えるのは海。
夜のせいか、深さが全く分からなかった。
「異世界の海は初めてだろう。男二人なんてお前は嫌だろうが、楽しんでくれや」
「な!?」
俺の答えなんて聞かず、チュラはすさまじい勢いで穴に突っ込んだ。
着水の衝撃を感じた後、全身が冷たい感覚に包まれる。
魚人の泳力でチュラは、すさまじい勢いで海の底に向かっていく。
潜水の選手が時間をかけて潜る深さを、一瞬で追い越していく。
「慌てて口を押えても、もう遅い。常人なら意識がトぶ深さだ」
急潜行からの海底寸前での急停止。
魚人のチュラは平気な顔しているが俺は。
「…………!!」
ロードローラーで潰されたみたいな圧が腹にかかって、内臓全体が悲鳴を上げる。
口を押えた手の隙間から血が噴き出す。
鼓膜も破れた。何回目だよ。
「ダメージは上がるときにもあるんだぜ」
俺の吐血具合を見計らって、チュラが急浮上する。
その勢いのまま一気に地上に飛び上がる。
一本釣りされたカツオが甲板にたたきつけられるみたいに、俺も湯殿のヒノキの床にたたきつけられる。
全身がしびれて呼吸ができない。
「げ……げん……減圧症か……!」
「フハハハハ!俺との水中デートはどうだった!!」
いちいち男女関係で例えるなよ。発情期か。
なんて減らず口を利きたかったが、初めてくらうタイプのダメージに【ヒーリングファクター】による回復も少し遅い。
「ふぅ。しかし、あのユンクァンとルナが負けたと聞いて身構えていたが、ふたを開けてみれば肩透かしよ。もうすぐ夜も明ける。宴会もここらでお開きだ」
チュラはマグロと化した俺の髪を掴んで立たせた後、後ろから首を腕で締め上げる。
スリーパーホールド。
それも10倍の筋力での締め上げ。
「お前を倒してアシハラさんに引き渡せば、多少は俺たちの地位も上がるだろう。悪いが、俺たちが成り上がる犠牲になってもらう!」
腰に足を回され動きを封じられたグラウンドでのスリーパー。
絶対的ピンチにもかかわらず、うっ血する脳裏によぎったのは現代日本にいた頃の走馬灯ではなく。
ここに来る前セーレと何気なく話していた雑談だった。
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