115話 砂山と金属アーム
「カギ?」
「ああ。トライデントを保管している宝物庫のカギはビートル人が分割してそれぞれ持ってる。倒すだけじゃなくてそれを奪い取らないと俺たちは勝てない」
「なるほど」
けばけばしい竜宮城から、メリケンサックをはめた俺と腕に鎖を巻き付けたセーレが出てくる。
誰がやったのか知らないがふすまと壁が破壊されたせいで、御殿が荒廃してしまっている。
それもあいまって今の俺たちは非常に治安の悪いカップルにしか見えない。
「おいそこのくそアマ、よくも僕のことを断りやがったな!僕の良さがわからないその乏しい感性を叩き直してやる!」
「フンッ……メスを助けてオスは死ぬ、か。陶酔的なマチズモだ。いいだろう、俺が全力をもって無様に殺してやるとしよう」
好都合なことに向こうも対戦カード変更に乗り気なようで。
しかし物騒な思想の2人だ。
ルナに殺されてないあたり、直接喋ったことはないんだろう。ぜひ喋ってみてほしい。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「このガウッっていう鳴き方がイエスで、ガウガウはノーだ」
「へええええ!!!ガウッ!!ガウッ!!」
「ガウッ!」
「通じたあああああ!!!」
ソコルルからヒータンの鳴き声について簡単に教えてもらったアキナとニコ。
2人ともさっそく試してみて、ヒータンとコミュニケーションをとっている。
「最低限それだけ覚えておけば、ミリゥ様との会話も問題ないだろう」
「あ、そうだヒータン!今朝背中の上で思いっきりボール投げてごめんねええええええ!!!!」
「ガウッ!」
「それにヒータンにも僕たちの作戦は説明しておいた。よろしく頼む」
「ガウッ!(おっけー!)」
アキナとニコを載せてヒータンは飛んでいく。
新宝島周囲の海面下にはチュラのチートの支配下にある海棲モンスターが待機していて、近づく船を沈めたりしている。
ソコルルは万が一に備えて、ミリゥたちを連れてその領海の外まで来ていたのだ。
「貴様たちの中に空を飛ぶビートル人はいないのだろう?AWLが来るにしても、この夜の中ヒータンを見つけるのは至難だ」
「知らねえよおおおおお!!!」
フセが叫んでいるが、もはや勝負はほぼ終わったようなものだ。
サラサラと降っていた砂は、徐々にフセの周りに積もっていた。
ガラスの破片並みに鋭利な砂が、少しずつ少しずつ、足先から膝、腰まで。
座っているのもあってすでにフセは腰のあたりまで砂に沈んでいた。
もし今チートを解除すれば、服の隙間に砂が入り込んで全身の皮膚がずたずたになるだろう。
文字通り自分のチートにあぐらをかいているうちに、ソコルルの砂地獄にはまり込んでいたのだ。
「おい!!俺をこんな風にしたら余計にこの島を攻略できなくなるぜ!!ユキノの目当てはトライデントだろ!?あれを使って人魚たちをお前たちみたいに自分の思いのままにしたいんだろ!?!?」
「やれやれ。しかし、改めてユキノの例外さがわかるな。ビートル人といえば貴様のようにとにかく偉そうで欲望が露骨だった。だがあいつは、異世界人や神獣に対しても同じ目線で接してくれる」
余裕のない表情でぎゃあぎゃあわめく小男を目の前にして、余計にユキノのありがたみを実感したソコルルだった。
最初の出会いは最悪だったが、今となっては大切な仲間だと思っている。
ユキノがどう思っているかの確認はできていないが。
「……っと、よそ事を考えていたら、あったあった。これがカギの一部か」
「へっ?」
完全に砂に埋まらないうちに、フセの胸ポケットからカギを取り出す。
「なんで?なんでだよ?なんでそうやって俺のバリアを無視するんだよおお!?!?」
「何度も言っているだろう。僕は君に悪意を持って接していない。ただ胸ポケットに手を入れたらカギに触れただけだ」
「そんな理屈が通るかよおおお!?!?!?」
もうフセの首あたりまで砂は積もっている。全身が埋まるのも時間の問題だ。
「さて。貴様たちはユキノと違って自分だけの快適な世界で安住するのが好きなんだろう。お望み通り、貴様だけの砂の宮殿をこしらえてやった。繰り返すが、これは攻撃じゃない。貴様のためを思ってやった行為だ。あくまで善意だ」
「ふざけんな!!!クソ……こうなりゃ力ずくで……いってえええええええ!!!!」
半分やけになって【TINTS】を解除したフセだったが、途端に全身を針で一斉に刺されたような痛みを感じ再びチートを発動した。
「じゃあな。砂は重いが貴様のバリアなら大丈夫だろう。達者で暮らしてくれ」
ソコルルの別れの言葉にフセは何かわめいていたが、やがてそれも聞こえなくなって、御殿の屋根に残されたのは、月の光を反射して光る大きな砂山だけだった。
「さて。リイももうすぐ終わるだろうが、敵が敵なだけに近づけないな」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「すっげえ。オクトパス」
「タコタコ言われるから、あんまりやりたくないの」
背中から後光みたいに4本の鎖を出現させたセーレは、下方に向いた2本で自身の体を持ちあげている。
言い換えると、背中に4本の金属アームをつけた状態に近い。
「んだよ。またどっかの誰かと発想被っちまった」
「リイだけど」
じゃあいいか。
だがこれ。遠目からだとフランス人形みたいな色白のお姫様が宙に浮いてるように見えるわけで、非常に不気味だ。
「はっ!何だか知らないが、僕になびかないメスブタの考えることなんてたかが知れてる!」
エノンタケが木刀を振り回してセーレに接近。
さっき拒否られたのがよほど癇に障ったようで、もはやセーレを蹂躙することしか頭にないようだ。
怒りを表すように木刀から青い炎がメラメラ燃えている。
「正義の炎を食らえ!!」
だがエノンタケの一撃は、セーレの鎖によって防がれた。
「は?ちゃちな炎。こんなのパパの火に比べたら松明よ」
「なぁっ!?」
その先端は細くとがっている。
まるで、レイピア。
それも二刀流の。
「……別に、足の代わりの鎖は要らないのでは?」
4本全部レイピアにして四刀流のほうがより強いと思うのだが。
という疑問にセーレは、言いづらそうに顔を背けて、恥ずかしそうな顔をしながら答えた。
「……痛いのよ。剣術みたいな激しい動きすると、胸が……」
なんか、ごめん……。
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