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114話 選手交代②

 そのまま御殿の外まで蹴り飛ばされるかと思ったヒキガネだったが、運よく築地塀に激突して難を逃れた。


「アッ……アッ……女の蹴りじゃない、かわいくない……!!」


 内臓すべてがけいれんしているような苦しみにさいなまれて、えぐれた屋根の上をのたうち回る。


「全回復だな」

「すっごおおおおおおおい!!!!!」


 リイの蹴りは劣勢の空気さえ吹き飛ばした。


「あいつ腹太いね。蹴りが浅かった」


 だが本人は手ごたえに不満があるようだ。

 その証拠に、息も絶え絶えだがヒキガネは態勢を立て直している。


「ですが、この距離はヒキガネにとって有利……」

「大丈夫」


 自信ありげに答えたリイが半身になる。

 直後、後ろにあった瓦がはじけ飛んだ。


「アッ!?スナイパーライフルを避けた?」

「お姉ちゃん弾丸見えるのおおおおお!?!?!?」

「がんばったら見れるけど」


 今度は上半身を大きくのけぞらせるリイ。

 耳のそばを通り過ぎて、弾丸が夜に消えていった。


「見え……そうだった!やっぱ目でお姉ちゃんにはかなわないわあ!」

「それより指の動きと銃口の向き見たほうが確実だよ」

「がんばったら見える時点でお二人ともすごいと思いますよ」


 リイの目が白く光る。

 その細い光線がヒキガネに向かって飛んでいくと、次の銃弾が来なくなった。


「記憶喪失の魔眼。この距離なら10秒と効かないから、行くね」


 帰り道の水たまりみたいな感覚でリイは築地塀でジャンプしていった。



「リイは放っておいていいとして……、とりあえず、3人で行動するとしよう」

「私は瓦がないと能力が使い物になりません」

「はいはーい!!私は鉄球がないとてんでダメでーす!!」

「…………とりあえず、ユキノに報告しておくか」


「あ“あ”あ“あ”あ“あ”!!!いい加減この砂を止めやがれええええ!!!」


 延々と砂をかけられ続けていたフセが、ついに悲鳴を上げる。【TINTS】が発動しているのでダメージも何もないが、一定のリズムでただ砂を落とされるのは精神的にかなりキたようだ。


「もしもし。僕だ。ああ、アキナの連絡で人魚島にやってきた。それで……」



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「……じゃ、そういうことで。2人が一番の大仕事だなあ」

「ははは。結局僕たちもミリゥ様と同じ思考回路じゃないか」


「それより、さっきから後ろのほうでどす黒い叫び声が聞こえてるけど……ああそう、気にしなくていいんだ」

「貴様!!僕との戦闘中だぞ!」

「あ、こっちのも気にしなくていいぞ」


 エノンタケが振り下ろす木刀を片腕で受け止める。

 魔力障壁をまとわせた前腕を青い炎が駆け巡って、皮膚が焼け焦げた。


「あっつ。そんじゃ、チビのフセは任せた」

「なんでその程度のなんだよ!!聖なる炎だぞ!!悪なんだから苦しんで死ね!!」


 悪は死ぬときも苦しまなきゃいけないのかよ。危ねえ思想してやがんな。


「ってことは、俺は善なんだろ。てかもっとしっかりやれよ。燃やすより俺の治りのほうが早いぞ」

「黙れ!!正義とは僕たちのことだ!!」

「悪人の決まり文句!」


 腕を振るって木刀ごとエノンタケを弾き飛ばす。

 こいつに絡まれたせいでちょっとずれちまったが、方向はこっちだな。


 俺はそばにあった土壁をぶち壊す。

 壁の向こうの部屋はなんてことない広間。

 

「おい、キノコマン。竜宮城ってどこにある?」

「そのあだ名を誰から聞いた!!!」


 エノンタケの炎のボルテージが一気に上がった。

 くっそ。どこかの誰かと発想がかぶってしまった。なんか悔しい。


「多分こっちだな」

「待て!逃げるな!!正々堂々と勝負しろ!!」


 人魚に催眠かけて都合のいいハーレム使ってるやつに言われたくないね。

 背後から飛んでくる火をかわしながら、ふすまというふすまを殴り破いていく。


 ほんとに無駄に広い御殿だな。

 と、何部屋か突破したら廊下に出た。

 右側はすぐ曲がり角になっていて、その向こうの廊下はぼんやりとしたピンク色になっている。


「あれか!」


 ピンクの光の源はけばけばしいネオンの看板だった。

 現代日本語で書かれた「竜宮城」。

 どっからどうみても大人のお風呂屋さんだ。


「なんでこんなとこに入った?」


 単に迷い込んだのか?

 と一瞬立ち止まって思いを巡らせていたら、後頭部を思いっきり木刀でシバかれた。


「いってえな」

「だからなんで効かないんだよおおおおお!!!」


 知るかよ。もっと腰入れて殴ればいいんじゃねえの。

 防音のためなのかここだけ開き戸だ。

 だからヤクザキックで蹴り飛ばした。


「邪魔が入ったな」

「当然のことをいちいち言ってんじゃねえよ」


 部屋の風景が見えた瞬間、勢いそのままにチュラの股間に蹴りを入れた。

 だが、予期していたみたいに陣取っていたチュラの腕に防がれてしまった。


「ここは常日頃から気を使って守っているんで……ね”っ!?!?」


 防がれた上に得意げに喋られたのがムカついてアッパーカットしたら、チュラは舌をかんだらしい。

 痛みにひるんだ隙をついて、魚野郎の腕をつかんでドアの外まで投げ飛ばした。

 ついでにエノンタケも吹っ飛んでいったが気にしない。


「悪い、ちょっと遅れた」

「全然。ちょうど来てほしいなと思ってたところだったから」


 セーレはミイラ男みたいに鎖を全身にぐるぐるにまいてうずくまっていたが、俺の呼びかけに顔のあたりだけを外に出して答える。

 その顔には悔しさやら安ど感とかいろんな感情が浮かんでいたけど、何より目がウルウルしていたのが印象的だった。


 あたりには引き裂かれたバルーンベッドや砕け散ったバスタブ。

 どうやら防戦一方でかなり苦戦していたらしい。

 セーレは絶対認めないだろうが。


「ん」


 セーレが差し出した手を握って、立たせてやる。

 ちょっとだけ脚がよろめいたので回復魔法を発動した。


「ありがと。えっと、なんていうか相性が悪かったの。部屋狭いし」

「相性が悪いなら仕方ない。適材適所。お前はあのキノコ頭のやつのが合ってる」

「……そうかしら?」


 とりあえずこんなわいせつな空間から出て、とっと終わらせよう。




いつもお読みいただきありがとうございます。

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