111話 宝物庫のカギ、木刀とAK47
今回登場するビートル人
No.23 エノンタケ チート名【samurai】:聖剣フツノミタマ(見た目は単なる木刀)。この剣がまとう青い炎は邪悪のみを焼き払う。
ムシマルを蹴って砕けた壁の向こうは中庭だった。
「誰が造ったのか、幽玄な枯山水だこと」
月明かりに照らされた砂が白く光っていて、とてもきれいだった。
だった、というのはその枯山水にムシマルがダイブしているからだ。
胸が足の裏の形に凹んでいる青年が、砂で表現された山水を台無しにしていた。
「……また描き直せるしいいか」
さてと。
1人倒したし、みんなの現状確認をしておくか。
……一番心配すべきは、セーレかな。道に迷ってそうだし。
「…………つながんねえ。戦闘中か」
今誰かと闘ってる最中だから、呼び出し音が鳴ってることに気づかないようだ。
いや、つながった。
「ハーレム要因に便利なもん持たせてんのか、くだらねえ白人酋長よ!」
「チュラ……!セーレをどうした!!」
電話の向こうからチュラの見下したような笑いが聞こえる。
「そんなことより。お前らトライデントを取り戻したいんだってな。朗報だ。宝物庫のカギは分割して俺たち5人がそれぞれ持ってる」
「へえ……じゃああと4つか」
セーレから聞き出したのか、それとも断片的な情報から推理したのか。
「……誰か負けたのか。まあいい。お前の嫁の話だが。ちょうど、エアーマットに寝っ転がってくれてるし、マットプレイから始めるとするか」
エアーマットって流れるプールで使う浮き輪か。それでマットプレイ……なるほど。
「それ以上セーレに触れたら、殺す」
「中古は嫌いか?結局お前も俺とおな……」
大きな衝撃音によって、チュラの言葉がかき消された。
「してやられたわ。なんなのこのヒダヒダした布団?クジラの腸?現代日本のお風呂ってこんな感じなの?」
現代日本の文化が大いに誤解されているがそんなことはどうでもいい。
「セーレ!無事か?」
「一撃もらったけど、心配ご無用」
気丈に振る舞っているが、声は辛そうだ。
俺はムシマルのポケットから鍵の一部を強奪して、靴の履き心地を整える。
「加勢しにいく。それまで耐えてろ」
「……正直助かるわ。それと……私のために怒ってくれてありがと」
部屋の名前が現代日本語で、「りゅうぐうじょう」とルビが振ってあったことを教えたもらった後、俺は走りだした。
いちいち開けるのがめんどくせえ。
俺はふすまを殴り飛ばしながら直線で進んでいく。
だが。
「あっぶねえ!」
廊下を横断しようとしたら、どこからか火焔が飛んできた。
火焔と言いたくなるような、幻想的な青い炎だった。
「美しいだろう、僕の炎は。僕の剣はビートルバムに仇なすものだけを焼き払う。醜き裏切り者よ。灰となるがいい」
間一髪でかわして出火元を見たら、立っていたのはあのナルシストだ。
髪型はもう満足したらしい。
少々いじったところでどうせマッシュヘアだろ。何が変わるっていうんだ。
ていうか、仇なすものだけ?
「御殿燃えてんぞ!!嘘ついてんじゃねえ!」
避けた火が壁に燃え移って延焼してる。
木造の家ん中で火のついた棒振り回すんじゃねえよ。
「棒じゃなくて。聖剣フツノミタマだ」
「いやそれ、ただの木刀……」
うっとりした顔で振り回している聖剣とやらは、どっからどう見てもただの木刀だ。
修学旅行中に異世界召喚されたのか?
「チッ」
舌打ちされた。
名前も知らないビートル人に心底うざそうな顔で舌打ちされた。
「……僕が聖剣だって言ったんだ。頷くのが正解だろ」
「はいはい」
ナルシストなだけあって、自閉してやがる。
染めた茶髪のマッシュと明るい服装で柔和で草食系な印象を与えるけれど、眼が冷酷だ。
「ま、どうでもいいや。出会った以上カギはもらうし、俺はもっと大事な用事がある。えーっと……」
「僕の名前を知りたいのか?エノンタケだ」
「ふふっ……あー、エノンタケ。どかないならその細いスキニーごとへし折って叩き潰す」
上半身のダボっとしたトップスに比べて下半身を絞りすぎだろ。
俺の挑発を聞いたエノンタケは、その冷酷な目に静かな怒りをたたえて
「名前を笑ったやつは全員骨ごと焼きつくす、僕はそう決めているんだ」
木刀に青い炎をまとわせた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「せめて土があれば鉄球が作れるのですが……」
「土なんてないいいい!!!この御殿、木ばっかあああ!!!!!」
バァン!!という音が響いて、近くの柱が抉られる。
アキナが大声を出してしまったがために居場所を察知されたのだが、弾丸は当たらなかった。
「隠れたって僕には幼女の匂いがわかるんだァ、アッアッアッ」
「うるせえ、へたくそお」
「この暗さじゃいくら鼻が利いても私たちの居場所は特定できませんよ」
床下は暗く、身を潜められてしまえばヒキガネも狙いがつけづらい。
2人はその体格の小ささを活かしつつ、下からの波の音と上の喧騒の間に身を隠していた。
「ですが、このままではジリ貧です。打開策を考えないと……」
普通に魔法を駆使して闘うことはこの2人にはできない。
ニコはクラフト以外の能力は持っておらず、アキナもまた投擲以外はてんでダメ。
地面があると強い2人だが、海の上だと途端に弱体化してしまうのだ。
「そういえば、屋根は瓦だったような気が」
「屋根ですか?」
アキナは瓦に見覚えがあった。カクラの伝統的で大きめの家屋の屋根に使われているからだ。
ビートル人はレンガじゃなくて瓦の家に住むんだあと、この御殿に侵入するときに思ったのを思い出した。
「あれって鉄だよね?黒いし」
「いえ、レンガと同じ粘土ですよ」
「ええええ!!!?!?!?」
またしても弾丸が火を噴いた。
ニコたちは迅速にしかし静かに別の柱へと移る。
「ひぃ~~、ごめん」
「いえ。しかし、だとしたら使えるかもしれません。この規模の屋敷ならば軽量化のために金属が混ぜてあるかもしれませんし……」
ニコは考える。この床下から、あのヒキガネの弾丸をかいくぐって少なくとも床上に出るまでの方法を。
「アッ、もしかして、弾切れを狙ってるのかな~。でも残念だなあ、僕の銃は幼女相手だと玉無制限だァ。アッアッアッ」
横隔膜がバグってるような笑いのせいで単なる下ネタに聞こえるが、実際、リロード不要はヒキガネのチートをチートたらしめる所以の1つだ。
「じゃあ、銃を変えようか。僕の幼女にはこれがお似合いだァ。通称カラシニコフ銃、正式名称AK—47」
ダダダダダダダダダダダダダダダダ!!!
その瞬間、絶え間ない銃声が床下に響き渡った。
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