108話 非モテの5人
「まだ日が沈んだばかりだし、せっかくだから他の人たちにも会ってよ」
新宝島、コテージ。
ムシマルに目抜き通りを簡単に案内してもらった俺たちは、そのまま島の外れにあるコテージをあてがわれた。
このタヒチのプライベートアイランドみたい家がかつての人魚王国で客人の滞在するホテルだったらしい。
しばらくここで休憩した後、チュラとかビートル人に挨拶しなきゃいけないらしい。
好都合だ。
「うわあああああ!!!疲れたあああああ!!」
ムシマルの足音が遠ざかって聞こえなくなるまで待って、リイはそう叫んでベッドにダイブした。
一番ぶりっ子していたから当然だろう。
それより。
「(一応筆談続けるわ)」
ムシマルにしろ他の誰かにしろ、偵察系のチートを持っているやつがいるかもしれない。
みんなもこくこくと頷く。
「(にしてもこの島、徹底してやがる)」
「ほんとにね。よく私たちを案内できたよね」
ムシマルに案内された新宝島を一言で言うと。
男の楽園。
お風呂屋さんの看板がでかでかと掲げられている時点で怪しかったが、ムシマルに案内された俺たちが目抜き通りを歩いて見たのは。
「きゃームシマルさんー!」
「すてきー!」
「こっち向いてー!」
メイド服を着て黄色い声援を上げる人魚たちだった。
この人魚王国もとい新宝島は、浅瀬に固定された巨大イカダである。
多分、チュラたちが侵攻した時点でアトランティスのあった場所がここだったのだろう。
陸人たちが暮らしやすいように、どこからか木を持ってきてその上に繁華街を作った。
そのキッザニアみたいな張りぼての店でチュラに洗脳された人魚たちが働かされている。
ラーメン屋もゲーセンの店員もなぜかみんなメイド服を着ているが、誰の性癖だ。
そんな人魚たちはムシマルを見かけるや否や、仕事をほっぽり出して通路に飛び出してきた。
「(人気ものですね。陸にまで上がって来てくれて)」
人魚が働く以上店は水没しているから、俺たちは丸太の上からしゃがんで応対するのが基本だ。
なのにムシマルのときは、わざわざ陸に上がって、作ったお菓子を食べてくれとせがんでいる。
人魚って美人多いな。
「ぐふふふふ。やれやれ困ったなあ。悪いけど、今は受け取れないんだあ。彼女たちを案内しているから」
「えーー!そんなあ!」
「そんな女の子たちなんて放っておいて一緒に遊びましょお!」
両腕を別々の人魚に引っ張られているムシマルは、俺たちそっちのけで鼻の下を伸ばしている。
人魚たちの目はどう見てもキマっている。チュラのチートによって、ムシマルにアプローチをかけるよう仕込まれているんだろう。
「ええ、なにこれ……」
という声を俺以外の誰かが漏らしたのが聞こえた。
「あんなの見せられて、私たちどう反応すればよかったの?」
「俺ってモテモテだぜえっていうアピールなんじゃない?」
首をかしげるセーレに対しするリイの推測が答えだが、本質はもっと根深い。
この島は単に現代日本の歓楽街を再現したんじゃない。
モテないやつらの願望をそのまま具現化した街だ。
「(非モテの夢だよ。道を歩けば女の子に言い寄られちゃうなやれやれっていう)」
「うわあ」
「きっつ」
案の定、ドン引きする女性陣。
「ってことは、ユーノさんは羨ましかったですか?」
唐突にニコがそんなことを聞いていた。
「(ちょっとは)」
「少しあったんかい」
「(俺もモテてはいないけど、あそこまで淀んじゃいねえよ)」
って書いたら、みんなに変な顔された。
なんだよ。俺だって一応健全な男子だってこと忘れてたのかよ。
「ユーノさんはもっと自分の状況を把握した方がいいです」
「(マジで?)」
ニコに注意を受けてしまった。なんだろう。うっかりみんなの胸とかに釘付けになっているのがバレてるだろうか。
「(そんなことより気を付けるべきは今からの謁見だ。人魚じゃないから洗脳はされないとふんでいるが、いつまでこんなお客さん扱いしてくれるかは謎だ)」
数日のんびりした後カクラに送り返してくれるなんてことはない。絶対に俺たちもメイド服着ることになるだろう。
そうなって身元がバレたら速攻で殺される。
「(だが同時にトライデントを奪い返すチャンスだ。これさえ奪い返せれば、人魚たちとこの人魚王国の周囲にいる水棲モンスターの洗脳を解くことができる)」
そこまで言ったところで。
扉をノックする音がした。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「御館様がいらっしゃいます。しばしお待ちを」
新宝島のど真ん中にビートル人の住む御殿があった。そこに連れて来られた俺たちは、玄関入ってすぐの応接室に通された。
ヒノキみたいな香りの漂う、だだっ広い板間の和室の端に俺たちは正座して待機する。
社員旅行の宴会にうってつけくらいの広さだから、30畳くらいか。
向こうの端には、カラオケ大会によさそうなステージまで用意されている。
使用人として辺りを走り回っている人魚たちは、やっぱり御館様なんて言葉遣いが似合わないメイド服を着せられていた。
「さっすがビートル人の御殿、水没していない」
「さっきもだけど、陸を移動するときの人魚さんたちは乗り物に乗るのね」
「おそらくですが、ファクトリーの配膳マシンを転用したものです」
「私も乗りたい!」
なんて喋っていたら、そのカラオケステージから音楽が鳴った。
この音楽が御館様の来た合図なので、俺たちは平伏して出迎えなければならない。
そうメイドに教えられた。彼女も目がキマっていた。
「まったく、なんでこんなこと」
俺とニコは別に平気だし、アキナも意味そっちのけで面白がっているからいいとして。リイはまだ我慢できたが、セーレはやっぱり不平を言わずにはいられなかったようだ。
やがて人の動く気配がして、「面を上げい」というムシマルの声が聞こえる。
カラオケステージに5人の男が一列に並んで座っていた。
彼らの周りをそれぞれセクシーな人魚たちが取り囲んでいる。みんな頬を赤くして、艶めかし手で5人の肌に触れていた。
こいつらがこの新宝島を支配するビートル人だ。
みんな品定めするように俺たちを眺めている。
これじゃあまるで集団面接だ。
一番右端に座っているのがムシマル。ギョロ目の変態。
その左にいるのは、なんか覇気がない。死んだ魚のような目をしているけど、アキナとニコばかりをジロジロ見つめている。それに侍らせている人魚の年齢がこいつだけ低い。
一番左端にいるのやつは背が小さい。いったい何が不満なのか知らないが、眉間にしわを寄せてこちらを睨んでいる。
そのチビの右にいるのはナルシストだ。一発で分かる。ずっと鏡片手にうっとりした顔で髪型をいじっている。だがそんなことより気になるのは木刀を持っていることだ。
そして、真ん中にいるのがチュラだ。間違いない。他のやつらとは強さのレベルが一段違う。
だがそんなこと問題じゃない。
あいつはビートル人。現代日本から転移してきた人間のはずだ。
だったらどういうことだ。
てらてらと光る緑色のウロコが全身を覆っている。首筋から背中にかけて大きな背びれがついていて、耳があるはずの場所にもヒレがついている。鼻筋はなく2つの穴が顔の真ん中に空いているだけ。目に一応まぶたはあるらしい。唇はくすんだ緑でたらこみたいに分厚い。
チュラは、魚人だった。
チートのせいか?人体改造手術でもしたのか?
っていうかなんでこんな重要なこと、アピアたちは教えてくれなかった?自分が人魚だから忘れてたのか?
そんな疑問が、俺たち全員の頭の中を駆け巡っていた。
さぞかし戸惑いの色を顔に浮かべているであろう俺たちに向かってチュラがほら穴みたいな声で問いかけた。
「ご機嫌うるわしゅう、異世界の人間。俺は、醜いか?」
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