107話 連れられて新宝島
今回登場するビートル人
No.45 ムシマル チート名【The Beautiful People】:昆虫の能力を使用できる
シャイガイ。
アメンボ以外で目の前のそいつを形容するならそれがぴったりだ。
体格はあのSCP同様にひょろ長いしなにより腕と指が異常に長い。顔も面長いし目もギョロっとしているが、肌はむしろ日焼けしている。
そいつは手のひらを水面につけて4足歩行のような体勢でスイスイと水に浮かびながら、こちらを愛想のない顔で見つめている。
ほぼ確実にビートル人だし人魚王国からの使いだろうが、そんなことより。
「なんか話しかけづらいんだけど……難民アピールした方がいいよね?」
リイが困っている。
向こうからやって来たんだし向こうから話しかけてくるはずなんだが、向こうは黙ったままだ。
なんというか、あのアメンボ男、友達少なそうだな。
「ああ、なるべくぶりっ子で」
「た、助けて下さーい!!私たち、漂流しちゃったんですぅーーー!」
アメンボ男に向かってリイが助けを求める。
それを合図にセーレたちも手を振ってアピールする。
するとアメンボ男はニヤニヤと湿った笑みを浮かべて近づいてきた。
「タオユエンの戦争から逃げるために船に乗ったんですけど、流されちゃったの~~」
「ぐ、ふふ……た、助けてほしいんだ?」
リイの猫なで声に耳をくすぐられながら、近づいてきたアメンボ男は俺たちを品定めするように見まわしている。
その目つきがかなりいやらしく、隣でぶりっ子に努めているセーレたちの笑顔もぎこちない。
なんていうかこいつ、同じTシャツ何日も着続けてゲーセンでカードゲームしてそうだな。
「い、いいよ。みんな可愛いから。でも、男はダメだ。男は、海に捨てる」
「いないですぅ」
やはり男はNGか。
「じゃあOK。みんな人魚王国に連れて行ってあげる。君たちは人魚じゃないけど、チュラさんに気に入られると思うから」
「やったぁ~!ありがとうお兄さん♡」
「うひひひ、よしてよ」
「お兄さんってよそよしくてやだからぁ~、お名前教えてほしいなあ」
「僕はムシマルだよ。みんなは?」
リイのぶりっ子スキルが凄いな。
こいつがチュラじゃないこととムシマルって名前がもうわかった。
ほんとはドン引きしているはずだが、そんなこと眉毛にも見せない。
「私、リンっていいますぅ」
「アイナだよ!」
「セレナよ」
「ミココ」
「……」
みんなが偽名を教える中、俺は紙に「ユーノ」と書いて見せる。
「あれ、君は口がきけないのかな?」
そう問いかけるムシマルにこくこくと頷いて首肯する。
「で、でも耳は聞こえるんだね。ふ、ふふ……余計なこと言わない女の子はチュラの好きなタイプだよ。悲鳴を上げないからってさ」
ムシマルはニヤニヤと笑みをこぼしながら言っているが、もしかしてそれはジョークのつもりなのだろうか。
女性陣の笑顔が崩れるから慎んでほしい。
ムシマルに先導されて俺たちは人魚王国を目指すことになった。
案内ルートはミリゥの海流とも一致していて、どうやら人気のない場所に連れ込んでなんやかんやするつもりもなさそうだ。
「どうしてかわからないけど、今日はすいすい進めるから、しっかりついてきてくれるかな」
「「「「はーい!」」」」
「はーい!」と俺も紙に書いて見せる。丸めに文字を書いたのが功を奏したのか、ムシマルがびくびくと頬肉を振るわせて気持ちよさそうにしている。
「ところでぇ、ムシマルさんはあ、どうして水に浮いてるんですかあ?」
「んんん、気になるかい?それはねえ、チートっていう力のおかげなんだよ」
「チートぉ?」
「そそそ。チュラも僕たちも神から与えられた特別な力を持っているんだ」
ギョロ目をこちらに向けて口角を耳まで引き上げるチュラ。
これは聞いてほしくて仕方なかったって顔だな。
「僕のはねえ【The Beautiful People】って言って虫の力を使える能力で、今はアメンボっていう虫の能力を使ってる」
「え~~~すっご~い!」
「お兄さん、かっこいいいいいい!!」
調子こいて自分の能力をペラペラ語り出したムシマルを見逃すほど、うちの女性陣はバカじゃない。
リイの大げさなリアクションに、アキナが無邪気を装った称賛を重ねる。
「アメンボは足の先に小さい毛が生えててそれが水を弾くから水面に浮くんだ。こうすれば水の上を陸と同じように動けると思って」
「ムシマルさんって賢いんですね!」
「まさに知は力なりですね」
「(インテリ)」
唐突な知識マウントも受け止めてあげるというセーレとニコによる手厚いサービス。俺も便乗しておく。
「て、照れるなあ~。ほんとはカブトムシとかカマキリとかカッコいい虫の力も使えるんだけど、今だと溺れちゃうからなあ」
「あれ~?他の人が他の虫の力も使えるってわけじゃないんですかぁ~??」
「使えないに決まってるじゃん。チートは1人一つ」
「……じゃあ~、他の人はどんなチートなんですかあ?」
「ん~~~、それは自分で聞いて。他は4人しかいないし」
俺たちにしか聞こえない大きさでリイは舌打ちして「決まってるとか知らないんだけど」って吐き捨てた。聞こえたセーレが笑いをこらえている。
よく頑張った。
ムシマルのチートは昆虫人間。人魚王国にいるビートル人はムシマル含めて5人。
敵陣に乗り込む前にこれだけわかれば大収穫だ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
歌舞伎町か?
人魚王国に着いて俺が最初に思ったのがこれだった。
すでに日は落ちかけて海は暗い。
海唯一の灯りである太陽の代わりみたいな顔してその国はビカビカとけばけばしい光を放っていた。
赤、ピンク、白、水色、緑、黄色。
色とりどりの光は同時に、文字を作っていた。
それとどこからかノリのいい音楽が聞こえる。
「めっちゃまぶしいですぅ!なんですかこれ?」
「これはネオンだよ。僕たちの国では一般的なんだけど、この世界の人は刺激が強すぎるみたいだね」
「記号ですか?これ、文字?」
「僕たちの文字だね。看板としてどんな店かを教えてくれているんだけど、そうか、異世界人にはわからないか……」
本格居酒屋。マーメイドバー。カラオケ。リラックスマッサージ。ゲーセン。お風呂屋さん。〆のラーメン屋。
セーレたちからすれば図形の連なりにしか見えないだろうが、俺なら読める。
けばけばしいネオンは日本の歓楽街にありそうな酒類を提供するお店やいかがわしいお店の看板だ。
にしても、海鮮居酒屋で魚の民水産はダメだろ。パクるならせめて片方からだけにしろよ。
確かパリキールたちの人魚王国アトランティスは海を移動する回遊国家。こんな風に派手な装飾して定住なんかしないはずだ。
いやちがう。
ここはもう、アトランティスじゃない。
「ねえお兄さん、あの一番おっきなネオンには何て書いてあるの!!?」
アキナが指さしたのは国のど真ん中にひときわ高くそして明るく掲げられたオレンジの三文字。
ご丁寧に周囲には虹のネオンが添えられている。
ここは。
「あれがここの名前さ。人魚とぼくたちの楽園」
東方に浮かぶ黄金の国。
新宝島。
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私たまたま来ただけですねんという方は、また気が向いたら読みに来てください。




