106話 助けてもないアメンボに
「フェフェル王とケンリウ王を復活させるためには、フジオウってやつから【フェフェルの火】と……」
「「【リウの雷】」」
姉妹が口をそろえて教えてくれた
案の定、カクラ帝国の王カクラ・ケンリウも自分オリジナルの魔法を持っている。
「カクラパパは電気使いか。フジオウの野郎、手強いな」
この世界の二大国の王の力を奪ってビートルバムを脱退したフジオウ。
今どこで何やってんのかさっぱりわからんが、いずれ会う気がする。
「だが今考えるべきはフジオウよりもチュラだ」
チュラが人魚王国を征服し海を支配している今、世界の交易はビートルバムに牛耳られているも同然だ。
ツガミの墓に入っていた書きかけの地図を見れば、人魚王国の回遊する範囲がちょうどロンド、カクラ、そしてハートランドへの中継地となることがわかる。
「つまり人魚王国は、その気になれば貿易で大儲けできる位置にいるってこと」
「左様。鎖国してはいたものの、カクラとセーレ双方との限定的な交易は行っておった」
「ハートランドとは?」
「ハートランドに人の国がないため皆無。たまにドラゴンが飛んでくるくらいでした」
「いるいるぅ。鳥を追いかけて海まで行くバカ」
アトランティス王家も賢い。すでに海上交易に手を付けている。
ビートル人たちじゃとても無理だ。
チュラがどれだけ異世界語を勉強しているかは知らんが、せいぜい喋れるのは人が使う世界語ぐらいだろう。
「ビートル人がフル活用できていないのがせめてもの救いだ。海の中継地なんて天然の要塞をどうして未だにただの酒池肉林ランドにしているのか。価値を理解していないのなら幸い。とっとと取り戻す」
「「「「「おー!!!!」」」」」
「それで問題は、人魚王国への行き方だが」
「わたくしが海流を操作すればすぐでしてよ」
ざっぱーん、と海の女王が顔をだす。
ミリゥはこの島に到着して以降、海の底で静かにしている。
理由は他の一般人魚が見たら恐縮しちゃから。
俺からするとお嬢様口調のでっけえ海龍なので時々忘れるが、実は神獣だ。
よく聞けば、みんな様付けで呼んで敬語だし。
一般人魚のみなさんが俺たちに否定的でないのもミリゥのおかげだ。
特に俺はその恩恵に一番与っている。セーレやカクラ姉妹は王族という肩書があるからすんなり入国を許されもすれ、ソコルルとニコは一般人。2人はまだアピアの友達とかいえばいいけど、俺に至ってはビートル人だ。
まさか人魚全員に長い長いこれまでの大冒険を聞かせて回るわけにもいかない。
そこで、俺はミリゥの頭に乗って人魚王国のみなさんに挨拶した。
何回も俺は洗脳能力なんて持ってないと強調した。
「それも考えたんだが、それだと正面突破になっちまうだろ。人魚王国を占拠しているビートル人はチュラだけじゃない」
スマホのマップを起動。解像度が現代日本のものから数段劣るために正確に数えることができなかったが、どうやら人魚王国であろう場所にある赤点は1つじゃない。
「では一度大波を起こして国ごと沈めてしまいましょう。人魚の方々も多少は苦しいでしょうが、呼吸は出来ますし」
「お前……そういうとこ神獣だな」
スケールがでかいというか、細かい命が見えていないというか。
「トライデントと囚われの人魚の女たちがどうなってるか把握できない以上、隠密に潜入するしかない」
「どうやってさ?」
「アイデアはある。あんまり気が進まないんだが」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「いってら~~~!!!」
「連絡待っておりましてよ~~~!」
ヒータンとミリゥに見送られながら俺たちは人魚王国へと出航する。
「ゆ、ユキノさーん!顔は触らないよう気を付けてー!」
「似合い過ぎていて、逆に面白いぞ。言葉遣いも注意しろ!」
「手伝ってくれてありがとなーーー!!」
心配そうな顔しているアピアと作戦の都合上待機することになったソコルルに別れを告げる。
「しっかしほんと顔の違和感がすごいな。髪が首筋にあたってかゆいし」
「それでも薄いメイクよ。にしても……」
「ユキノおおおお!めっちゃかわいいんだけどおおお!!!???」
俺たちの潜入作戦とは、漂流を装って保護してもらうというもの。
タオユエンからの避難民と偽って人魚王国に潜入。状況を把握して外と連絡を取りチャンスをうかがう。
避難民の中に羽の生えたドラゴニュートがいては不自然ということで、ソコルルは無人島に待機。いざとなったらミリゥとヒータンを連れて援軍に来てもらう。
またチュラの性癖を考えると、いきなり漂流してきた難民の中に男が混じっていてはまずい。下手したらその場で殺される。
そこで俺は女装することにした。女性陣総出で俺のメイクしてもらい、どこからかウィッグまで登場して、身長の近いソコルルと上着だけ交換した。
似合い過ぎてるぞって言ってたけど、ホントか?
「でもチュラの野郎、ブスも殺しそうな気がするんだよな。気合い入れていかねえと」
「でもユキノ、似合うの分かってて提案したよね」
リイに見抜かれた通り、現代日本でいた頃文化祭の悪ふざけで女装したことがある。
だから勝算があったといえばある。
「ミリゥが微妙に海流をいじってくれたおかげで明日にはどっちみち着くが、結構辛い船旅だな」
漂流民を装うので当然船は簡素だ。粗末に見えるようニコに作ってもらっただけなので、絶対に沈まないし、日よけもついている。
「狭さはどうしようもありませんねえ。もうちょっと寄ってくださいユキノさん。それらしく見せるために日よけを破いたので、ここ日が当たるんですよ」
「はいよ」
「うぅっ。こっちだってせまいの。ユキノが縮めばいいじゃない」
「無茶言うな」
なんてことをやっていると、舵を握っているリイが低い声で呟いた。
「…………ねえみんな。人って海の上に立てるんだっけ?」
そう言う天然ボケはどっちかというとセーレの領分なので俺は聞き間違いかと思った。
「お姉ちゃんへんなの!ユキノみたいに魔力障壁使えばできるかもだけどお!」
「あれだと跳ねなきゃいけないでしょ、海面で。あいつはそんなことしてないの」
リイは目がいい。魔眼を使えるだけあって目の機能が秀でている。
その視力が遠くの方にいるへんなやつを捉えたらしい。
「ん!?んんん!?!?!?何あいつ、海の上に立ってるよ!!!」
同じく目のいいアキナも気づいた。
ってことはそいつはホントに立ってるらしい
「敵か?」
「わかんない。けど、普通の人間じゃない」
「……なんか、変なのお!」
リイの首筋につぅっと汗が流れる。
暑いだけじゃなく、得体の知れなさに恐怖しているようだ。
「じゃ、避けよう。今は構ってる場合じゃないし」
「ダメ。あっちはもう気づいている。こっちに向かってきてる」
その一言をきっかけに俺たちの間に緊張が走る。
やがてそいつは俺たちも見える距離まで近づいてきた。
確かにそいつは海の上に浮かんでいる。
俺たちを目指して滑るように移動している。
「腕、長っ」
「あんな亜人、私は見たことないです」
そいつは体形に不釣り合いなくらい腕が長く手のひらが水面に触れている。
どういうわけかその手と足が水をはじいているようで、それによってスケートのように水面を滑ることができているようだ。
そうそれはまさしく、アメンボ。
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