103話 ロンドの王
改めて、目の前にいる男がロンドの王様か。
ロンド・フェフェル。
モデルみたいな体型に鋭い眼光、すっと通った鼻筋がどことなくワシを連想させる。
膨大な魔力が指先に集束することで、セーレと同じ金糸雀色の髪がイケおじにだけ許されたかっこいいなびき方をしている。
「異世界召喚を始めた理由は長らく膠着状態にあったカクラとの戦争を有利に進めるためだったか?めんどくさいことしてくれたよな、お前も」
魔力の量で脅されようと屈しませんよアピールも込めて煽ってみたが、一切反応はない。
鋭い眼光も目に光がなく焦点もあっておらず、まるで人形だ。
そう、人形。ゾンビというには肌が瑞々しい。
「妙です……フェフェル王が、ただ魔力を纏っただけなんて」
「そうですね。死んでしまっては属性魔法が使えない、ということでしょうか」
指パッチンして魔力を纏っただけのフェフェルのことがロウセエネとニコは疑問のようだ。
指パッチンって、確かラクのクジラの中にいた謎の人物もやってなかったか?
なんて他所事考えていたら、フェフェル王がこちらに掌底を打ってきた。
だが完全にリーチ外で、とても当たる距離じゃない。
なのにおでこに衝撃が来て吹っ飛ばされた。
隙を突かれたために受け身も取れず、後頭部を思いっきり地面にぶつけた。
「チッ。ヒイラギのことバカに出来ねえ」
【ヒーリングファクター】のおかげで景色がどろどろになる時間はほぼない。
だからすぐジャンプして立ち上がって、反撃する。
踏み込んで一気にフェフェルの懐まで接近。
メリケンサックに魔力を纏わせての右ストレート。
だが。
ふわっとした感触に全身が包まれて、さらにフェフェルに足払いをかけられる。
すっころんで宙に浮いた状態になった俺の喉ぼとけめがけて、フェフェルがカカトを振り下ろす。
その勢いのまま地面に叩きつけられた。
後頭部への衝撃で視界が明滅する中、抉れて舞い上がった土がパラパラと顔にかかるのを感じた。
並の人間なら頭蓋骨陥没、脳しんとう、頚椎損傷、窒息になるほどの致命的になる一撃。
だが。
「取った。足首!」
即刻回復した俺はフェフェルの足首を捻ってグラウンドに倒す。
そのまま右足首を脇の下に挟み込んで、腕の骨の硬いところでフェフェルのくるぶし辺りを思いっきり圧迫する。
「アキレス腱固め!!」
現代日本の昼休み、教室の端のノリがこんなところで役に立つとは。
「つっても効かねえだろうな」
そもそも関節を極める技じゃなく圧痛を与えてギブアップを誘う技だ。
靴が邪魔だし、なにより死んじまった人間には効果がない。
「だが実際肌に触れてみてわかったことがある」
なんてきめ細やかで柔軟な魔力障壁だ。
フェフェルはこの分厚いシルクみたいな魔力障壁を鎧のように全身にまとっている。
さっきのリーチ外からの掌底はこれをぶつけるためのもの。
俺の右ストレートを受けとめたのも同じ。
「今も俺を弾き飛ばそうとしてきてやがる……!」
だから俺も対抗して魔力障壁をぶつけないといけない。
こっちの方がアキレス腱固めよりよっぽどしんどい。
フェフェルも足首が痛いようには見えないが、かといってもがくわけでもない。
「……!?」
腕と脇で挟み込んでいるフェフェルの足首から、あり得ない感覚が伝わってくる。
どうしてフェフェルの身体から、脈を感じるんだ?
「セーレ様。やはりあれはフェフェル王の闘い方ではない。正確には、ユイコが指示しないわけがない」
「たしかに……パパが火を使わないなんてあり得ないわ」
「セーレ!お前の父ちゃん、まだ生きてんぞ!!」
ロウセエネと話しているセーレに俺がそう叫ぶと、2人は愕然とした顔をした。
「……え?」
「脚が脈打ってんだよ!フェフェル王は死んでねえ!」
俺の発見を聞いたセーレが必死の顔で叫ぶ。
「そんなバカな……!?」
「パパ!!パパ!!気づいて!セーレだよ!!」
娘が悲痛な声で叫んでいるというのに、フェフェル王は眉一つ動かさない。
目の焦点は合わないままだ。
「あぁ、気づかれたみたい。案外頭が切れるのね」
「どうします?まだ収納にはもうちょいかかりそうなんすけど」
ユイコたちにとってはどうでもいいことのようだ。
いつの間にか人の墓に腰かけてリラックスモード。俺たちを一瞥した後は、オートメーションみたいにリュックに収納されていくゾンビたちを退屈そうに眺めている。
父娘の悲しい対面より人材確保に勤しんでいる。
「冷たく扱われるのもかなりムカつくもんだな」
「フェフェル王が火を使わないことも関係があるのか。喋る気がないなら力ずくで吐かせるまで!」
怒りの形相のロウセエネが背中から抜刀。
「伏せていろよ、ユキノ!!!」
鉄板くらいあるバカでかい大剣を横一線に薙ぎ払う。
分厚い三日月形の斬撃がユイコたちを目指して飛んでいく。
「フェフェル」
ユイコがそう呟いた瞬間、フェフェルが脚に思いっきり力を込めて強引に引き抜いた。
トラックとトラックの正面衝突みたいな金属の破壊音が辺りに響き渡る。
リッカの氷を真っ二つにしたロウセエネの斬撃をフェフェルが身体を張って防いだのだ。
「フェフェル王……そんな……」
「パパ……」
「出血してやがる」
魔力障壁が分厚ければ防ぎきれたのだが、あいにく俺との組み合いでフェフェルは消耗していた。
ユイコたちは無傷だが、フェフェルはそうはいかず胴体に一筋の太刀傷を受けた。
そこから溢れ出る血。
まだフェフェルが生きていることの何よりの証だった。
「パパ!!」
セーレが鎖を伸ばしてフェフェルの傷を回復させる。
「パパ……どうして?どうして、痛くないの?こんな傷、パパなら一瞬で回復できるのに……」
セーレが泣きそうな顔で回復魔法をかけながら語りかけるもフェフェルはうんともすんとも言わない。
セーレは気付いていないが、フェフェルは俺のアキレス腱固めから強引に脱けたせいで足首の関節が外れていた。
もう回復されているが、本来ならああやってぼんやり立つなんてできなかったはずだ。
「なんか、俺たち悪役って感じスね」
「ん~?ま、別に好きなようにやらしとけばよろしいよ」
「ヒータン!!全員焼くよ!!もうこんなの見ちゃいれないよ!!!」
「同感や!!」
目の前で繰り広げられる光景が辛すぎて、ついに我慢の限界に達したアキナとヒータンがゾンビたちに火炎魔法を発射した。
ゾンビたちは悲鳴も上げずにただ燃やされながら歩き続けて、そのうち炭となって崩れていった。
「おいおい現地人ども。何してくれてんだよ!」
「カカカッ。ユウセイ、あんたやられたなあ」
リュック持ちの名前はユウセイか。アキナたちに仕事の邪魔をされてブチギレている。
一方のユイコは乾いた笑いをあげただけだ。
あの女、感情が読めねえ。
「落とし前つけさせますんで、見ててくださいよ……!!」
「いいんちゃう。でももう充分兵は集まってるんだけど」
怒りに任せて飛び出したユウセイだったが、突如地面が盛り上がって胴体に激突した。
そのまま宙に飛ばされて地面に落下する。
「うぐぅ……!?な、なんだ。何が起こった……!?」
「あなたは」
よつんばいで腹をさするユウセイを見下ろしているのは、ニコ。
相変わらずの無表情だが俺には分かる。
未だかつて見たことないくらいにブチギレている。
「なんだよ……ガキが生意気な口利くんじゃねえよ」
「あなたは命を弄んでいる!!!」
意外な大声にあっけにとられたユウセイの服を掴んで、ニコはそのまま振り回して地面に投げつけた。
女子中学生くらいの体格のガキだが、ニコはドワーフだ。
人間一人くらいならバスタオルみたいに振り回せる。
「…………ガハァッ!!い、息が、息ができなかった……死ぬ……!」
地面に叩きつけられて意識を飛ばされたユウセイが復活するも、全身が千切れそうな痛みに地面をのたうち回っている。
ニコは争いごとが嫌いで武器は作らないしメリケンサックも無理言ってやっと作ってもらった。
……今度から怒らせないようにしよう。
「カカカ。ユウセイ、初めてが苦い思い出やねえ。ドワーフは人間の数十倍の筋力を持つ。これで忘れんじゃろ」
心配しているのかしていないのか、ユイコはおもむろにスマホを取り出す。
まずい。
「AWLを呼ばれるぞ!」
「フェフェル」
ユイコがそう呟くと、フェフェル王が鎖を振り払って魔力障壁を展開する。
広範囲への一斉攻撃に俺たちは吹き飛ばされる。
「あなたって生命力にあふれた人間なのね。おもしろいから特別に教えたげる。フェフェルは死んでない。火を取り戻せば復活するわ。でもそれまでは私のオモチャ。じゃあ、さよなら」
受け身とって立ち上がろうとした瞬間、いつの間にか俺の後ろに回り込んでいたユイコはそれだけ言って、振り向いた時にはすでにいなかった。
いかがでしたか。
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私たまたま来ただけですねんという方は、また気が向いたら読みに来てください。




