102話 あまりにもいけず
まるで死者の街かっていうくらい広がる墓地が見えてきて、ビートル人たちがすでに到着していることを知った。
タオユエンの闘いで亡くなった人たちを安置してある棺桶が軒並み開けられている。
「まずい……また出遅れた!」
だがそれ以外は異常がない。
死体を持ち出して何がしたいっていうんだ?
「これ……もしかして」
「ええ。我々を待ち受けるのはおそらくセブンの1人、ユイコ」
ミイラ盗りの正体にセーレとロウセエネは心当たりがあるらしい。
「ユイコってまた古風な名前だが、死体に用があるってことはそいつの能力は」
「そうよ。死者を操ることができる」
ネクロマンサーか。
セブン。
それは最初の異世界転移者アシハラが最初に召喚した7人。こいつらがロンドを征服してビートルバムを建国した。
最初だから気合入っていたからなのか、異世界に長くいて経験があるからかこの7人はビートル人の中でも別格の力を持つ。
ルナとユンクァンもセブンのメンバーだ。
俺も一応勝てたが、三途の川を渡る寸前まで行かされたり手足を切断されたりとかなり追い詰められた。
「ロンドとカクラと小国群を合わせたこの広大なビートルバム。その国境を守っているのは、ビートルバムと闘い敗れたものたちです。今のビートルバムはユイコが操る死者によって維持されているといっても過言ではない」
ビートルバムの征服に抵抗して死んでいった者たちが、死んでからはビートルバムを守るために働かされている。
なかなか残酷な話じゃねえの。
「……いたあああ!!」
アキナが叫んで指さす方に人影が2つ。
小さい和服の女の子とデカいリュック持った背の低い男。
日本人形と登山客ってまた変なコンビだが、ユイコっていうくらいだし不吉な柄の着物女子がネクロマンサーか。
「おい。あの男が持ってるリュック!」
「死んだみんなが、どんどん吸い込まれてる!」
「収納魔法……!超S級アイテムだ!」
セーレとロウセエネのいう通りなのだろう。
ユイコに操られている亡者たちが自ら男のリュックに入っていく。
まるでカービィだ。リュックはどれだけ人を吸い込んでも全く大きさが変わらない。
「私が最初に見つけたもん!!もー我慢できない!!!全力投球ううううう!!!」
色々分析している俺たちを尻目にアキナが立ち上がる。
さっきのシスウとヒイラギの所業を見てから、アキナはずっとブチギレている。
その高ぶった感情を一球に込めて、ヒータンの背中の上で投球フォーム。
見事な芯の通った一本立ちから、大地を踏みしめ全力で投げた。
「ふんぐぅ!」
「大丈夫か!ヒータン!」
「へーきへーき!ただ、メッチャ力入ってたあ!!」
投擲の瞬間の衝撃でヒータンが沈んだ。それくらいの力がこもった全力。
「下手したら墓地ごと吹き飛ぶぞ」
ユイコたちも俺体の存在にはとうに気づいている。
そして今まさに剛速球が放たれたことも。
だがユイコはこちらを見て微笑んで。
扇子を開いて顔を隠した。
その瞬間。
アキナの剛速球が曲がって空に消えていった。
「えええええ!?!?!?暴投!!!!!!!!」
「何が起きたんだよ……?」
見ると、ユイコを守るようにして何者かが立っていた。
どうやらこいつが、何らかの方法でアキナの鉄球に干渉して、弾道を捻じ曲げた。
具体的な方法は分からないが、とにかく超ド級の魔力だった。
「ユイコの野郎、神代の魔法使いでも召喚したようだ」
神話の時代に活躍した伝説の賢者かなんかの墓を暴いたか。
だが、誰であろうと容赦なくまた眠ってもらう。
俺はそう覚悟を決める。
だが。
ヒータンが近づいて徐々にそいつの姿が見えるにつれて、俺以外の間に冷えた空気が漂い始めた。
悲愴感、絶望感。そんな暗くて悲しい感情が俺以外に共有されている。
「ウソ……そんな……こんなのって……」
「セーレ様、気を強く!」
特に一番悲しんでいるのはセーレだった。
ただでさえ白い肌からさらに血の気が引いて、か細い声を出すのがやっと。ほとんど気絶しそうになっているところをロウセエネに支えられている。
そしてロウセエネのもその理由がわかっている。
「人質、いやそれ以上にひどいやり方です。これでは誰も、手を出せない」
「ううう……悪魔だよお……あの変な服の女、めっちゃくちゃ性格悪いぃ」
「やっぱそうなんだ!だって私もあの男の人ちらっと見たことあるもん!え、そんなのひどすぎる!」
ニコもアキナもそしてヒータンさえもそのおっさんを知っていて、ユイコのやり方に恐怖と怒りが混ざった感情をぶつけている。
異世界育ちなら知っていて当然の人物。
金糸雀色の髪がセーレによく似ている。
「だいたいわかった……セーレ」
俺の呼びかけに顔を上げるだけのセーレ。
まだ気持ちの整理がついていないようだ。泣かないのがやっとという顔をしている。
「闘ってくる、いいな?」
セーレはただ頷くだけだった。
アキナの鉄球を弾き飛ばしただけで、ユイコたちはそれ以上何もしてこない。
死体の回収を邪魔しなければそれでいいというつもりなのだろうか。
少し離れたところにヒータンが着陸して、俺だけが近づいていく。
俺以外に戦意を持てるやつはいない。
ユイコたちはにやにやと、いけずな笑みを浮かべてこちらを見物しているだけだ。
俺の前に、今やビートル人の使いになってしまったそいつが立ちはだかる。
セーレそっくりの金糸雀色の髪が太陽の光を受けて輝いている。
服装は紺色のスーツ。ネクタイまで紺色で、かなり乱れてしまっているが上質な生地なことが素人目にもわかった
近くで見てわかった。
この人、金と碧のオッドアイしてやがる。
そして何より、モデル並みのスタイルの良さ。
まるで神々しさの詰め合わせセットみたいな人物だ。
もし生気がみなぎっていれば、神話の人物かと思っただろうな。
だが、射抜くような目には光が宿っておらず、焦点が定まってない。
俺はふと、リュックサックに収納されるゾンビたちと比べてみる。
生気は感じないが、ゾンビたちに比べれば生きているって感じがするな……。
「聞こえているかわからないが、はじめまして、フェフェル王。俺はユキノ。最近建国した一応国王で、セーレの仲間だ」
返事はなかった。
ただ、おもむろに手をこちらに向けて指パッチンをした。
その瞬間、莫大な魔力が指先に集まるのを感じる。
ロンド・フェフェル。セーレのパパにしてロンドの王にして異世界召喚を始めた男。
「聞きたいことは山ほどあったが、とりあえず殴り合うしかないみたいだな」
いかがでしたか。
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私たまたま来ただけですねんという方は、また気が向いたら読みに来てください。




