100話 かけがえのない仲間たち
「おい。は、死んだ?」
クレーターの底で、俺は拳の向こうにいる潰れたビートル人がどう考えても死んでいることに気づいた。
身体があり得ない方向に曲がって、地面と一体化している。
「え~……マジか……そう……」
命のやりとりなんて現代日本でやっているのはヤクザぐらいだ。
そして俺はヤクザではない。
なので命の取った取られたに免疫はない。
異世界に来てもうしばらく経つから人の死には慣れたけど。
やっぱ実際に自分の手でするのは重いな。
ちょっと引きずるかもしれないけど、今は切り替えないといけない。
もう1人を倒すためにクレーターからジャンプして地上に立つ。
……けど、異世界チート野郎のくせに妙に脆かったな。
なんてことを考えながら地上に上がると、潰したやつの隣にいたビートル人が腰を抜かしていた。
「よう、逃げてなかったのか……ええと、ああ手を動かすな。35番か」
「ひっ……お、お前、ユキノか!!クソ!クソ!ほんとに来やがった!!」
来ちゃ悪いかよ。
目の前にいるNo.35のビートル人は色白の童顔。
体格や雰囲気から察するに、超人系のチートじゃないな。
なんとなく、イタミとかユンクァン、それにカジマも、超人系のチート持ってるやつっていい体格してんだよな。
「というわけで。お前がユナ・ボマーだ。タオユエンの美しい公園を焼き払った罪、死んで詫びろ」
「ふ、ふ、ふざけるなあああ!!不良品のくせに調子こいてじゃねえ!!」
そう叫ぶNo.35の背後から出現したのは、ドローン。
ラジコン用よりずっとデカい、完全に人殺す用の兵器だ。
スマホに続いて現代兵器第2弾。
爆弾魔じゃなかったのか。
「【Vertigo】!全弾発射!!こいつを撃ち殺せええええ!!!」
機関銃から、俺1人を殺すにはあまりあるほどの銃弾を浴びせてきた。
半身になって頭を腕でガード。
俺の身体にどんどん穴が開いていくし。
周囲の地面がトムとジェリーのチーズみたいにボコボコになっていく。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
1分、ひょっとしたらもっと短かったかもしれないが。
ドローンによる機銃掃射が終わった。
「立ったまま、死んだか……ふはは、これは思わぬ収穫!!ユキノを殺したとあれば、一生遊んで暮らせる金が手に入る!!俺がビートルバムの王だ!」
早とちりしたNo.35が高笑いをし始めたので、早めに声をかけることにした。
「そんなルールになってんのか?」
だとしたら、これからバウンティーハンターみたいなビートル人に追われることになるじゃん。
追放したくせに今度はお前らの方から追いかけるようになりやがって。
勝手に決めんな。追われる側の意見も聞け。
「は?」
「ちょっとタンマ。体が鉛のように重い」
全身に力を入れて手足を振ったら、体中から弾丸が飛び出してきた。
そしてボコボコに空いた穴が一瞬で塞がる。
「はああああああ!?!?」
顎が地面に着くかっていうくらいたまげてるけど。
「お前、そんな隙見せちゃダメだろ」
ぼさっと浮かんでるだけのドローンなんていい的。
俺は弾丸を拾って、渾身の力を込めて投げつけた。
それも一発じゃない、何発か拾って一気に投げた。
ほぼ全ての弾丸がドローンに命中。
プロペラが2つおしゃかになって本体にも風穴があいた。
それに連動してNo.35の身体から血が吹き出す。
「うわああああああああ!!いたいいいいいいいい!!!!いたいいたいいたい!!」
本体と同じく正常さを失ったドローンがきりもみ上に回転して地面に墜落。
爆発はしなかったが、もう2度と飛べないだろうな。
「隙は見せるは、いつまでもドローン飛ばしっぱなしにするは、お前素人か?ただの馬鹿か?」
「あん!?だ、誰がバカだってんだ!!」
「お前だよ35。名前なんていうんだよ」
「てめえ!!!こぉろぉすううう。こぉろおすうう!!ぜってえ殺してやるうう!!」
足が変な方向に曲がっていて立って歩くことはできないが、憎悪によって気持ちを強く保っている。
そんな砂をかきむしる35番に気を取られていたら。
どんっ、と。
後ろから衝撃が来た。
何事かと思って振り返ると。
そこにいたのは、さっき潰したはずのビートル人だった。
しかも1人ではなく、3人。
3人同じ顔した人間が俺の背中や腰に掴みかかって動きを止めようとしてきた。
「……生きてたんだ?」
「「「きみが殺したのは数ある僕の1人でしかない」」」
3人同時に喋っているはずなのに1人が喋っているようにしか聞こえないことが気持ち悪い一方で、話の内容からこいつが影分身能力の持ち主だと察せられた。
「へえ。影分身チートか。さっきまで心に巣食っていた罪悪感が、しぼんでいくのを感じるよ」
「下手に殺そうとするのは悪手だね。嫌気がさすから」
「アドバイスありがとう。聞くわけないだろ」
さっきからメインで喋ってる、おんぶのように覆いかぶさってきているやつの顔面をメリケンサックで思いっきりぶん殴る。
腕の勢いで全身を回転させて、まとわりついてる他2人も力ずくで弾き飛ばす。
「おいシスウ!お前のステータス一般人並みじゃねえか!!」
「だってよ。お前シスウっていうんだな。見た目に特徴なさ過ぎてどう説明しようか困ってたんだ」
どうやら、分身能力と引き換えに基礎ステータスが異世界人としては弱めに設定されているみたいだ。
その証拠に、さっきぶん殴られた1人は動く気配がないし、こんな思考を巡らせながら、あとの2人を蹴り飛ばすことができた。
「お前ら……マジで、何の目的でやってきた?」
No.35は35番で、シスウはNo.37。
シスウはワンパンで倒せたし、ドローンは空しくプロペラを回転させるだけ。
こんな中途半端な実力の2人だけでタオユエンを奪還しに来たとは考えづらい。
「へん!そんなもん、裏切り者になんか教えるかよ!!そんなことより、油断してていいのか!!?シスウはな、2のカイジョーで増えるんだよ!!」
尻餅ついて逃げるだけしかできなかったNo.35が急に勝ち誇った顔で俺の背後を指さすから、振り返った。
「うわ、きっしょ」
これくらいしか呟く余裕がなかった。
もうすでにすぐそこにまで、シスウの大群が迫って来ていたからだ。
カモフラージュのためにプロペラ回して大声で喚き散らしてやがったのかあいつ。
襲い掛かって来るシスウの数、計測不能。
1000や2000じゃない。
ってことは、4096?
「くそ、きりがねえ!!!」
360度、とにかく近づいてきたやつからぶん殴り倒していく。
1人1人の力は弱い。
メリケンサックやキックの一撃で簡単に吹き飛んでくれる。
だが1人倒せば今度は2人に。2人倒せば今度は4人。
次から次へと湧いてくる。
しかも徐々に連携が取れてきやがった。
1人が俺を羽交い絞めにしてもう1人がぶん殴る。
両方ぶっ飛ばしたら、今度は2人で羽交い絞めにして2人で殴ってきやがった。
「無双ゲーは、自分でやるもんじゃないな!!」
疲労骨折と治癒を繰り返す拳と足首に、俺はそう語りかける。
ダメだ。
体力より先に心が折れそうだ。
シスウの野郎、怒るでも敵意をこちらに向けるでもなくただ無表情でつっこんでくる。
だからユニクロのマネキンを殴っているみたいで徒労感を強く感じる。
「魔力障壁!全包囲展開!!」
ドーム状に魔力障壁を射出して周りにいた全員を吹き飛ばすことに成功した。
だが。
それも一瞬だけだった。
次の瞬間には倍増したシスウに取り囲まれてしまっていた。
数十人で一斉に跳びかかってきて身動きを取れなくなったと思ったら、後から後から俺の上に圧し掛かってきやがった。
「圧殺しろ!轢死しろ!蒸し焼きにしろ!何でもいいからユキノを殺すんだ!!俺たち2人、ヒイラギとシスウの手柄だ!!」
喉声で叫ぶNo.35の声が遠くに聞こえる。
そうか、あのクソガキ、ヒイラギって名前だったのか。
「きみ、【ヒーリングファクター】持ってるんだってね。でも、このまま潰せばさすがに死ぬでしょ」
俺の顔のそばにいるシスウがそう囁く。
吐息の温かさがとても嫌悪感だ。
「……お前ら、寿命が短いんだってな。だから俺の【ヒーリングファクター】が欲しいんだろ」
「ふうん、知ってんだ。まあ誰から聞いたかぐらい想像つくけど」
「このチート、あげてもいいかなってたまに思うんだぜ。傷は治るが痛くないわけじゃないからな。今の俺にとってはもう一つの方が大切なんだ」
それを聞いてシスウは驚いた。
「えっと、チートは1人1つのはずなんだが」
「知るかよ。俺は2つ持ってんだ。【全言語理解】。この世界の人間はもちろんリヴァイアサンともドラゴンとも友達になれる最高のチートだ」
「なんだそれ!?おい!2つ目のチートだと!?そんなバカな!?」
「異世界転移してきておいて日本人どうして固まってるお前らにゃわかんねえだろうな……さてと。もしもし」
腰の周りにシスウの顔がなくてよかったな。懐かしい道具に感動されちゃ台無しだから。
なるべく大きな声で話さないと。
「もしもし」
「ユキノー!聞こえてるよおおおお!!もしもしってなにい!?」
「聞こえてるかどうかを確認する挨拶だよ。現代日本じゃ電話はこの挨拶から始めるんだ」
「おもしろーい!!もしもーし!!もしもーし!!で、どうしたの?ユキノ今どこにいるの?」
「何だお前、異世界語じゃないか!?いったい誰とどうやって話している!?」
「周り見回して、小さい山がないか。多分ちょっと動いてると思うんだけど」
「山!?あ、あったよ……ってあれ、ひ、人!?き、きも~~~~!!」
「その人間山を思いっきり吹き飛ばしてくれ。その山の下で俺は今潰れかけてるんだ」
「わかった!!全力で投げていいんだね!!」
電話が切れた直後。
とてつもない衝撃が俺たちを襲い、地面が抉られ、何もかもと一緒に吹き飛ばされた。
いかがでしたか。
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私たまたま読みに来ただけですねんという方は、また気が向いたら読みに来てください。




