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成り損ない勇者の異世界銃奏乱舞  作者: ディンキー
第二章
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第八話 見知らぬ森と振り返り、そして決意

お待たせしました。新章開始です。

「ん……んんん?」


 体中を襲う違和感に目を覚まし、薄っすらとだが目を開ける。薄暗くなった空が見える。


 どうやらダンジョンの外に出たらしい。上半身を起こして更に目を凝らして周りを見ると辺り一面、木、木、木、である。


 だが、リースとアリシアの姿が見えない。俺の側には小さな小枝が1本突き刺さっているだけでそれ以外は愛銃のSCAR-Hと自分のザック以外ない。


 ガサリと草と何かが擦れる音が聞こえ、咄嗟に音のした方へ銃を構える。


 僅かに揺れる草の間から小さなランタンを持ったリースとアリシアが出てきた。


 びっくりさせるなよ……熊かと思ったじゃないか。


「あっ! ヨシヒサ! 目が覚めたのですね!」


 今にも泣きそうな顔で駆け寄ってくるのはリースで、その後を心配そうな顔で見つめながら付いてくるのはアリシアだ。


 アリシアはりんごサイズの木の実が幾つか抱きかかえるように持っていて二人の話によると2時間ほど前にこの森へ転移し、二人はすぐに目が覚めたらしい。


 だが俺は全く目を覚まさず、取り敢えず食料の確保と地形の掌握と現在位置の確認をしようと歩き回っていたらしい。


 俺の側に刺さっていた小枝は獣と魔獣避けの結界の呪文を書き込んだものらしい。


 泣きそうな顔で抱きついて離れないリースの頭を撫でつつ、アリシアから報告を聞く。


「すみませんヨシヒサさん。私でもこの辺はさっぱりでした……。ですが、少なくともこの辺り一帯は王都周辺ではないことは確実です。魔素の濃さや森の雰囲気が全然違いますから」

「そうか、疲れているのに悪いな。後は俺の仕事だから二人共少し下がってくれ」


 未だに俺にしがみついて離れようとしないリースをアリシアが引剥して2メートルほど下がる。


そして俺はタブレットを操作してある物を召喚した。


 現在地がわからず困ったときに一番役に立つ立つスキル、それは広域走査・探索スキル、ソナーとタクニカルマップだ。


 先ほど召喚したのは信号弾用のピストルとソナーを広範囲にわたって発信させる弾だ。この弾を使えば、基本半径80㎞までしか走査ができないソナーでも空なら一気に2倍の160㎞まで走査が可能となる。


「よし、ソナーを打ち上げるぞ!」


 俺は合図をしてピストルを真上に向けて引き金を引き絞った。


 炭酸が抜けるような音と共に打ち出されたソナ―弾は空高く上がっていく。


 そして山の頂上を遥かに超え、雲まであと一歩、というところで落下傘を開き、発信を開始した。


 打ち上げてから3分後、タブレットからタクニカルマップと通常のMAPが更新された事を知らせる電子音が鳴った。


俺は20分ほど地球の人工衛星で撮影されたものより高い精度で獣道まで表示されたタクニカルマップとにらめっこし、今後の行動計画を練る。


「よし、二人共集まってくれ。これから今後の行動計画を説明する」


 下がらせていた二人を呼び寄せて計画を話し始める。


「じゃあまず現在位置の確認だ。ここはファムデル帝国にあるレヴェナントの森だそうだ。そして現在位置から北東に10㎞地点に大きな街道を見つけた。そこから西に40㎞進んだところに城塞商業都市ギルノディアというかなり大きな都市があるようだ。そこで今日はここで一泊して明日の朝、街道を目指して徒歩で移動を開始する。街道に出たら俺が移動手段を出すからそれに乗って一気にギルノディアまで行く。どうだ?」


「私はそれでいいと思います。ヨシヒサの言ったとおりここがレヴェナントの森だとしたら現在も相当危険な状況ということです。それならここで一晩過ごし、朝すぐに移動を開始して街道へ行くべきだと私は思います」


「私もそれに賛成ですね。いくら私が古代竜でも力には限度がありますから……それが一番いいかもしれません」


 二人から賛成が帰ってきたので早速野営の準備を開始する。ここで地獄のサマーキャンプで培った知識と経験が役に立つのだ。


 ものの5分でテントの設営を終わらせて少し大きめなコンロと寸胴鍋と各種材料を召喚した。


 本日の晩ごはんは熱々の豚汁に熱々の白飯だ。流石に白飯はレーションからだが。


「ほら二人共、飯ができたぞ」


 テントの中で何かをしていた二人を呼び寄せて器とスプーンを渡す。そこにできたてホヤホヤの豚汁ともう一つの器に白飯を入れる。


「わぁ……いい匂い……。これを本当に食べてもいいのですかヨシヒサ」

「私も何百年も生きているけどこんな料理は初めて見ますね」


 二人共興味津々のご様子。疲れを取るにはまずお風呂、睡眠、そして食事だ。

 

「ほら冷めちゃうぞ。遠慮せず食べろたべろ」


 俺も覚める前に食べるとしよう。……っ!やはり寒い日は豚汁と白飯に限る!


 二人も豚汁と白飯を気に入ったようで、用意していた大体6人分を全て食べ尽くしてしまった。いやぁ、満足満足。


 リースとアリシアに石鹸の粉を刷り込んで少量の水で体を清潔にできるタオルを召喚して渡し、俺は一足先に自分のテントに潜り込んだ。


 寝袋に入ると今まで体験したことが脳裏をよぎった。数ヶ月前では体験し得なかったこと、異世界に来て本物のお城と王様とお姫様たちを見たこと、初めて銃を使って魔獣を撃ったこと、対戦車ロケットでゴーレムを吹き飛ばしたこと、まぁ色々だ。


 だが不安になる。ここは異世界、しかも技術や考えた方は元の世界で言えば中世ヨーロッパとそんなに変わらない感じだ。そして元の世界にはない魔獣、地球の生物とは比較にならないほどの大きさと凶暴さを加えた獣達。

 

 そして一人になって初めて気が付かされるこの世界の苛酷さと残酷さを。人の命が軽いこと、昨日まではぬくぬく城で生活し数ヶ月前まで世界一治安の良いと言われる日本に住んでいたからこそ自分は気が付けなかった。

 

 町の外に出れば盗賊がたくさんいることを、気を抜けば次に血溜まりに沈むのは俺だということ、いつか人を殺す日が来るかもしれないという事実。もしかしたらこの圧倒的な強さを持つ能力に慢心し浮かれていたのかもしれない。


 昔のように一人ならこんなことを考えなかっただろう。だが、今は違う。


今俺には守るべき人がいる。リース、アリシア……彼女たちを守り、悲しませない為なら俺は喜んで命をかけて戦い、底知れぬ闇の奥底へ飛び込もう。それで彼女たちが笑顔で幸せに暮らせるなら。

大変お待たせしました。評価、ブックマークなどありがとうございます。

リアルで少しバタバタして投稿が遅れましたが、今後も楽しんでいただけたら幸いです。

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