第一話 ようこそ異世界、そして異世界と勇者の実情
トンネルを抜けるとそこは雪国であった……というわけではないが、まぁ、今回は異世界版ということで。
白い靄が取れはじめると3年間の間に2回買い換えた無駄に値の張る学園指定の黒いローファーの底が硬い地面の感触をとらえた。
「ようこそ勇者様! 我がアステリア王国へ!」
異世界召喚の第一声は歓迎の言葉だった。
目を開けるとギリシャのオリンポス神殿のような白い大きな柱が目の前にたくさんそびえ立っていた。
「こちらへどうぞ勇者様! あ、足元にはお気をつけ下さい。まだ身体がなれていないと思いますので」
案内してくれるのはさっきも歓迎の言葉を掛けてくれた巫女服姿の女の子だった。髪の色は黒で目も黒、髪は腰まである。日本人にしか見えないがここは異世界、日本に似た国があるのかもしれない……周りの騎士のような人は目の彫りが深く西洋人に似ている。
「私はアステリア王国の巫女を務めていますエリナと言います。気軽にエリナと呼んでくださいね。勇者様のお名前はなんというのですか?」
「俺は村井芳久、村井が姓で芳久が名です。好きなように呼んでください」
「では、ヨシヒサ様と呼ばせていただきますね!」
やっぱりこの子天使だ……ありがとう女神様! 俺、今異世界に来て本当に良かったと思えるよ! なんとなくだけどな! 「それは良かったけど私の時にはそんな反応無かったよねー」という女神様の不満顔と呟きが聞こえたような気がしたが、気のせいだ! 多分!
「それでエリナさん、どこに行くんですか?」
「はい、他の召喚されたヨシヒサ様と同じ服をお召になられた勇者様と他の勇者様も既に離宮の大広間の方に集まっているのでそちらの方に」
実は神殿の側に国会議事堂のような建物があり、そこで他に召喚された勇者こと、あまり親しくもないクラスメイト達が集まっているらしい。
「他の、ってことは俺達だけじゃないんですね」
気になったのでなんとなく聞いてみると、エリナさんは少し気まずそうな顔で頷いて説明してくれた。
「はい。実は今回復活が予言された魔王は過去1000年の中でも最も強力な魔王と言われているらしく、勇者1人では到底太刀打ち出来ないことが予想されましたので複数の世界から複数の勇者を召喚することが決まったのです。ヨシヒサ様が最後に召喚されて合計で60人程の勇者様が召喚されたことになります」
わかりやすい説明に感謝しつつ、魔王が強すぎて勇者一人じゃ太刀打ち出来ないなら複数人召喚して物量で潰せとかそれなんてソ連軍?第二次大戦のアメリカ軍?と考えてると、俺は無駄に豪華な15メートル程ある木製の扉の前についた。
「それではヨシヒサ様、ここが大広間となります。私は別の仕事がありますのでこれで失礼致します。またお会いしましょうね?」
「ええ、ありがとうございます。では」
エリナさんと別れた後、大広間に入ると60人程の13~18歳ぐらいの男女(美少女・イケメン・マッチョ等など見た目や服装は多彩だ。もっとも、うちのクラスメイトの一部を除くが。)が軽食のサンドイッチや飲み物が入ったグラスを傾けていた。
取り敢えず空腹だったので卵ハムサンドとオレンジジュースを給仕の人に貰ってクラスメイトの連中、特に不良グループに絡まれるのを避けるべく、広間の端っこの方でもしゃもしゃ食べていると、髪は腰まである銀髪で瞳は紅く、出てるところは出ているすらりとした美少女がこっちにやってきて話しかけてきた。
「失礼、今いいかしら?」
「ええ、問題無いですよ」
サンドイッチを皿に置いて返事をすると、美少女は笑顔で
「私はラシエル・アンダーセン、貴方と同じ召喚された勇者よ。よろしくね?」
「俺は村井芳久、異世界に飛ばされた者同士よろしく」
まぁ、本当は勇者じゃないんだけどね。
お互いの自己紹介をして握手を終えると、お互いの世界のことを話したりしているうちに豪華な服を着た国王と王妃様、3人の王女様らしき人たちが上座の方へ座り歓迎の挨拶の準備が始まった。
しかし、なんであの金髪のセミロングの王女様は俺の方をしきりに見つめて手をふろうとしてるんだろう……気のせいか?そうこうしているうちに挨拶が始まった。
「余はアステリア王国の国王、エルベルト・フォン・アステリアである!遠い異世界から良くきてくれた勇者たちよ! だが、その前に皆に謝らなければならない事がある。我が民、我が国、そしてこの世界を救ってほしいとはいえこちらの都合で勝手に召喚してしまい本当に申し訳なく思っている」
国王は立ち上がり俺達に頭を下げた。
側近の人たちは驚いた顔でぽかーんとしている。どうやら本来の予定にはなかった行動らしい。
なぜだかこの王様には親近感が湧く。
「それではこの世界、そして我が国に来た歓迎の印として今日は好きなだけ飲み食いし楽しんでもらいたい!余からは以上だ」
それを合図にサンドイッチがあった大皿はメイドさん達がどこか持って行き、代わりに様々な料理が乗った大皿や酒の瓶とグラスが大広間に持ち込まれた。
その後、ラシエルと一緒に飲み食いして王城へ移動し、各自の割り当てられて部屋に入った。俺は興奮していたせいか中々眠れず、タブレットをずっといじくっていた。しかもこれ、どこかで見覚えがあるのかと思ったら地球で使っていた親父にもらった我が愛しのスマホちゃんだった。
とにかく自分がどんなものを扱えるかをしっか確認することが最優先事項だろう。カメラ、UAVモニター、戦術支援、音楽、設定、MAPなど、一部物騒な名前のアプリ名が並ぶ中、『召喚』と書かれたアプリを起こすと、上から『武器・兵器』の欄があり、その中は『銃火器』『刃物』『爆発物』『特殊武器』『対戦車兵器』『戦闘車両』『航空機』『支援車輌』『その他』と書かれたタブが並び、『銃火器』のタブをタップすると、アルファベット順に地球に存在している兵器メーカーの名前が並び、アサルトライフルからショットガン、ハンドガン、スナイパーライフルやサブマシンガン、PDWなどがある。
他の欄も同様で画像付きで見ているだけでも結構楽しかった。
武器・兵器以外にも服や防弾ベストなどの『装備品』『服』や『資材・資源』、『携行食・飲料水・調味料』『固形燃料』『拘束器具』『医薬品』などがある。
変わり目としては装備品の中にコンドームなどがあったことだ。親父曰く、本来の使用目的以外に水筒としてや銃口にかぶせるために使うらしい。味や匂いはゴム風味で大変微妙とのこと。
各銃器や装備品、兵器はアクセサリーや追加の装甲板などが装着できるらしく、バーチャルグラフィックで外見や性能などをチェックしてから召喚ということになる。
召喚方法は簡単で、必要な物をタップして右側の召喚予定欄にいれてその下にある『召喚』と書かれたボタンをタップしてするだけでいい。しかも、召喚する位置や距離なども指定できる。
『召喚』のボタンをタップすると膝の上が突然光に包まれたかと思うとそこには、黒色とクリーム色の真新しい匂いがするEOtechのホロサイトと同じくEOtechのマグニファイアやフラッシュライト内臓のフォアグリップなどのアクセサリーをゴテゴテと装着したHK416A5とSCAR‐Hが鎮座していた。
服も学校の制服からPMCのオペレーターのようなラフな格好になる。
ベージュの高性能な防刃機能を追加した防弾インターセプターボディアーマー(股間を防御する部分は外してある)、FASTヘルメットと(防具類はすべて最上級の防御加護が付いている)少し濃いベージュのベースボールキャップ、コンバットブーツとコンバットグローブ、ブラックホーク社製カーボンタクニカルホルスターのドロップレッグタイプ、(どちらもベージュで統一)を装備して、予備として他の迷彩色(UCP迷彩)などを召喚してランダムで与えられたらしい容量無限のチート級スキル、『インベントリ』と『武器庫』に放り込んだ。
武器もサイドアームはお気に入りのHK45、アウトドアナイフ CKSURGと141SBKニムラバス(反射防止のためにグレーの皮膜を付けている)を腰と背中の鞘に収め、予備の弾薬やポーチに入りきらないマガジンなどをインベントリや武器庫に入れておく。
これで一様自分の荷物は完成したといえよう。
準備を終えると唐突に眠気が襲ってきて俺はベットに倒れこみ意識を闇の中へ手放した。
修正 ナイフを一部変更しました。
修正 HK416A5に変更しました。




