22話「見たことのない景色」
粉屋さんで野菜と小麦粉を交換したあと、街で孤児院の子どもたちにお土産を買いました、チョコレートに、マフィンに、クッキーに、ケーキ、ちょっと買いすぎてしまったかもしれません。
リル様に連れられて市場に出ている屋台に行きました、串焼きのお肉を路上で食べるなんて初めての体験でした。
りんごを丸かじりしたり、古道具屋さんで骨董品を探したり、異国のオルゴールを聞いたり、とても楽しい時間でした。
夕暮れが近づいたときユニコーンの姿に戻ったリル様に、背中に乗るように言われました。
リル様の背中に乗ると「目的地に着くまで目を閉じてて」とささやかれ、言われた通りに瞳を閉じます。
「もういいよ」と言われ目を開けるとそこには……。
「わぁ……」
オレンジ色の海が水平線の彼方まで続いていました。
潮の香りが心地良いです。
「私海を見るの初めてなんです、ずっと王都にいましたから」
家と学校、家と王宮の往復をする日々でした。
海の事は本で読んだり、話には聞いていたのですが、実際に目にするのは初めてです。
「海に入ってみる?」
「いいんですか?!」
「ちょっとだけなら」
私は靴を脱ぎ捨て、海に向かって駆け出しました。
「気持ちいい」
ちょっと冷たいですが、打ち寄せてくる波に足を入れる心地よさには叶いません。
「いい眺め」
「えっ?」
リル様がニヤニヤしながら私の足元を見ていました。
私は自分の格好を思い出し、はっとしました。
シュミューズ・ドレスを膝の上まで託し上げ、素足をさらしています。
なんてはしたない格好なのでしょう。
「リル様……!」
「ごめんね、アリーゼが楽しそうだったからつい見つめてしまった」
「もう」
「許してアリーゼ」
リル様が猫耳としっぽのついた幼児の姿に変身しました。
顔の前で手を合わせ、瞳をうるうるさせて見上げてきます。
私がその姿に弱いのを知っていて、ずるいです。
「仕方ないですね」
猫耳&しっぽの幼児の姿に絆されて、なんでも許してしまう私も大概です。
「ありがとう、アリーゼ大好き」
幼児の姿の愛愛しいリル様のほほ笑まれ、つられて笑ってしまいました。
日が暮れて一番星が見える頃、
「アリーゼが見たことのない景色を見せてあげる」
大人の姿にもどったリル様が私の前にひざまずき、指輪の入った箱を差し出してきました。
「私が見たのことのない景色ですか?」
「ドラゴンの巣やドラゴンの赤ちゃん、人魚の暮らす入り江、エルフの隠れ住む里、ドワーフの工房、普通に暮らしていたら行くことの出来ない場所にアリーゼを連れて行ってあげるよ」
それはきっと聖獣のリル様だから知っている場所。
「獣人の姿になって猫耳をもふもふさせて上げるよ、子猫の姿になって好きなだけ肉球を触らせて上げる」
何という甘美な誘惑なのでしょう……!
私の答えは……。
「一日一回は子猫の姿になってくれますか?」
「もちろん」
「リコルヌのもふもふな体をなで、ふかふかのおなかに顔をうずめ、ふわふわのしっぽに頬ずりし、ぷにぷにの肉球の感触を堪能しないと生きられない体になってしまいました、責任を取ってください」
「喜んで」
リル様はそう言うと破顔し、私を抱き上げてその場でくるくると回り始めました。
「リル様……、目が回ります……!」
「ごめんね、嬉しくてつい」
私が苦しいと訴えるとリル様は私を地面に下ろしてくださいました。
「ふつつか者ですがよろしくお願いします」
「こちらこそ幾久しく、よろしくお願いします」
その日私は、リル様と初めて大人の口づけを交わしました。
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