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21話「粉屋」


「この量の野菜なら、小麦二袋と交換だ」


二十分ほど歩いて、院長様に指示された粉屋さん到着しました。


粉屋さんの第一声がこれです。


「ですが院長様は小麦六袋にはなると」


院長様に頼まれてきたのです、四袋分も損して帰るわけにはいきません。


「あんたいいとこのお嬢さんだろ? 世間知らずのお嬢様はこれだからこまるぜ。物価は日々変動してるんだ、今は野菜の値段が下がっていて、逆に小麦の値段が上がっている、だからあんたの持ち込んだ野菜は小麦二袋にしかならないんだよ、嫌ならよそにいきな」


粉屋のおじさんが「しっしっ!」と言いながら手を振りました。


「こっちの服装を見て足元を見てるね」


リル様はジュストコール、私はフレンチ・ジャケット、確かに二人とも市井の人間には見えません。


「リル様、どうしましょう」


リル様の服の袖を引っ張ると、リル様は口角を上げました。


「大丈夫だよボクが交渉するから、アリーゼは後ろを向いて目を閉じて耳をふさいでて」


なぜでしょう、このときのリル様の笑顔が黒く感じました。


「はい」


私は言われた通りに後ろを向き瞳を閉じ、耳をふさぎました。


二分ほど経過して「アリーゼもう目を開けても大丈夫だよ」リル様の声が聞こえたので目を開けました。


振り返ると「すみませんでしたーー!」と床に頭をつけて謝罪する粉屋のおじさんの姿が。


「野菜を小麦六袋、いえ七袋と交換します、いえ交換させてください!」


粉屋のおじさんのこの変わりよう、私が目をつむっていた二分間に何があったのでしょう?


「リル様、粉屋さんに何をしたのですか?」


「何も、ただ誠心誠意お願いしただけだよ」


そう言ってほほ笑むリル様からはやはり黒いオーラが……。


世の中には知らない方がいいこともあるといいます、深く探るのはやめましょう。




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