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15話「ランチ~女子会・男子会」


あのあと「結婚!」「結婚!」「結婚!」とはやし立てる子供たちを(しず)め、授業を始めるのに苦労しました。


お昼休み、いつもはリル様や生徒たちと教室でお弁当を食べているのですが、今日はリル様と食事をするのが気まずいです。


「アリーゼ先生、今日は中庭で女子だけでランチしよう!」


「えっ?」


「男子は教室でリル先生とお弁当を食べるから平気だよ、早く中庭に行こう!」


「ええっ、ちょっと待って……」


女の子たちに手を引かれ、中庭に連れ出されてしまいました。





~中庭、女子会~


――アリーゼ・サイド――



「アリーゼ先生、本当にリル先生とキスしてないの?」


「はぅっ……!」


食べていたサンドイッチを喉につまらせてしまいました。


「な、なんですか? いきなり!」


なんとかリンゴジュースでサンドイッチを流し込みました。


「リル先生かっこいいし、頭もいいし、若いし、お金持ってるみたいだし、早くしないと売り切れちゃうよ?」


「売り切れって、人を物みたいに」


「ママが言ってたわ、優良物件を見つけたらとにかくスキンシップを取りまくって好感度を上げて、最終手段として宿屋に連れ込んで一緒に泊まれって」


「スキンシップ……?」


そういえばレニ・ミュルべ男爵令嬢は、進級パーティーでべナット様の体をベタベタと触っていました。


ミュルべ男爵令嬢は市井の出身だと聞いています、市井では小さな頃からこのような恋愛トークをお友達としているのでしょうか? 私のような恋愛初心者が、市井出身のミュルべ男爵令嬢に太刀打ちできる訳がありませんね。


「宿屋に泊まって何するの?」


「そこまでは知らない」


「トランプをするんじゃない?」


「読書かもね」


子供たちが宿屋に泊まって何をするのか、意見を出し合っています。


私とリル様の場合、宿屋に宿泊しなくてもリル様と一つ屋根の下で暮らして、猫型のリル様と同じベッドで寝ているので、スキンシップは充分にとれています。でもこんなこと子供たちにはとても話せません。


「アリーゼ先生、ぼやぼやしてるとリル先生を他の女に取られちゃうよ」


「えっ?」


「世の中には『肉食系女子』ってのがいるんだって」


肉食系女子……ミュルべ男爵令嬢のような女性のことでしょうか?


「肉食系女子ってなに? 肉しか食べない女の人のこと?」


「私もそこまでは……」


「でも私のお姉ちゃんもリル先生のことかっこいいって言ってたよ」


「えっ?」


「うちの叔母さんもそんなこと言ってた」


「べアノンのお姉さんもリル先生のこと素敵って言ってたよね」


「ええっ!?」


「お姉ちゃんたら、用事もないのにやたらと迎えに来たがるんだよね」


「うちの叔母さんも同じ、わざとお弁当を忘れて行けとか、忘れ物をしなさいとか言うの」


「教会に来てリル先生と話したいの見え見え」


「厚化粧して、たくさん香水付けて、本当に分かりやすいよね」


「リル先生にはアリーゼ先生がいるから敵うわけないのにね~~」


リル様がそんなに人気だとは思いませんでした。まさかリル様が生徒の保護者に好意を抱かれていたなんて。


「アリーゼ先生、早くリル先生と結婚した方がいいよ」


「急がないとイケメンは売り切れちゃうよ」


子供たちにいろいろ言われ、私は困惑していました。


リコルヌの正体がユニコーンだと気づく前は、リコルヌのことは大好きで絶対に手放せないと思ってました。


もふもふした体や甘えてくるしぐさや鳴き声に癒やされていました、


でも今は……リル様は大切な存在なのに変わりはありません。


でもリル様に対して抱いているこの気持ちは、リコルヌに対する好きとは少し違う気がします。


私のリル様に対するこの気持ちは……。







~教室、男子会~


――リコルヌ・サイド――




「父さんが女を落とすときは『押して押して押しまくれ』って言ってた、最終的には出来ちゃった婚もありだって」


「出来ちゃった婚って何だ? 何が出来るんだ?」


「知らねぇ」


子供とはいえ、なかなか興味深いことを言う。


でも婚姻前に無理やり子作りをしたら、アリーゼは怒って口を聞いてくれなくなるだろう。


それは嫌だな、ボクはアリーゼの体ではなく心がほしいから。


「オレのお父さんは『駆け引きが大事だ』って言ってたよ、押してもだめなら引いてみろって」


「駆け引きって何? 押したり引いたりするからのこぎり?」


「のこぎりで家具を作るの?」


「分かんない」


なるほど、駆け引きかそれもありだな。


「プレゼント攻撃は? パパはママにプロポーズするとき服やアクセサリーをたくさんプレゼントしたって言ってたよ」


「でもアリーゼ先生の実家ってお金持ちなんだろう? 服とかいっぱい持ってるんじゃねぇーの?」


「そっかー」


子供たちにはアリーゼは貴族の出身とだけ伝えてある。筆頭公爵家のバイス家出身なのを知っているのは修道院の院長だけだ。


アリーゼが田舎の修道院で暮らしていることから、アリーゼを男爵家か子爵家の令嬢だと思っている人間もいる。


市井の人間は貴族の身分について詳しくない。おそらく子供たちはアリーゼをちょっといい家に住んでるお金持ちの娘ぐらいだと認識しているのだろう。


それにしてもプレゼントを贈るというアイデアは悪くないな。


だがアリーゼは以前ドレスも宝石もほしくないと言っていた、筆頭公爵家には国内外から取り寄せた高価な品や珍しい品物がたくさんあっただろうから、アリーゼは目が肥えているはず。いったい何を贈ろうか?


「リル先生のお弁当美味しそう!」


今日のボクのお弁当はサーモンのサンドイッチに、スコーンとクロテッドクリームといちごのジャム、アーモンドマフィン、木いちごのタルト。


一人の男の子の発言により見事に話題は恋愛から、食べ物のことに逸れた。


「食べるかい?」


いろいろ教えてもらった情報料だよ。


「えっ! いいの!! わーいやった!」


「このサンドイッチうまい!」


「こっちのスコーンも絶品!」


子供たちは夢中でサンドイッチやスコーンをほうばっていた。


押してもだめなら引いてみろか……、ちょっと試して見ようかな。


読んでくださりありがとうございます!


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