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ALLFO星機構 続書薄物収容施設  作者: セクシー大根教教区長ミニ丸語
シリーズ: 死にゲー運び屋RPG〜法律人権さよならしてるクソゲーだけど楽しくやってます〜
17/19

5:デブでも食ってろピザ!

絶対一般向けしないって思って没にした記憶


5:デブでも食ってろピザ!

前回のあらすじ


三八(仮)トリオと御夕食(勝手に)

財布ロスト



◆1:7:19:14:否ヶ淵TC:KBフードコート前◆



 ぶるぁぁぁ!!



 俺は激怒した。必ず、かの邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)の小娘を除かなければならぬと決意した。


 せっかく暖かくなったお財布がアブソリュートゼロである。

 俺は周囲の知らない人を問い詰めた。すると、不幸中の幸い、俺の財布は天井異空間に引きずり込まれてロストした訳ではなく、あの電球頭がパクったらしい。幾つか目撃証言があったしなんなら証拠として録音もした。


 人の財布を取るなんて、許せねよなぁ!

 義憤に駆られた俺の魂の叫びに対して、ウニ太郎とアン二郎がどついてきた。


「テメェが言うなや!」

「そうそう!ボクたちのとったのバケツさんでしょう!」


 違うね!俺はロストしないように保護してやったんだよ。ありがたく頭を下げるんだね。頭が高いぞ、跪け。

 俺は堂々と嘘をついた。嘘をつく時大事なのは堂々としている事だ。


「んな訳ねーだろ!」

「バケツさんに限っては無い!このペテン師!」


 しかし穢れた心をお持ちの2人は根拠も無しに俺の善意を否定した。酷い奴らである。人の心がないに違いない。


「まあまあ、財布を持っている人はわかった訳ですし、その人を探しましょう」


 懲りもせずにまた揉め出した俺たちを仲裁するのはカキ三郎。通称だと末っ子みたいだが、精神年齢は1番上だ。悲しいことに多分俺より上。

 

「そうだな、わかった。まずはあのビビンバ野郎を探すぞ」

「見つかる可能性は低いと思うぜ」

「そうそう、難しいと思うよ」


「なんで最初から負け犬思考なんだ!常に勝つイメージを持つんだよ!今日からお前は、富士山だッ!」


「どこの熱血コーチだよ」


 俺の熱い言葉にクソガキンチョはシレッと切り返してくる。んだよこのやろぉ、と俺が再び喧嘩を売ってヤル気に火をつけようとすると、カキ三郎が割り込んだ。


「それがですね、話を聞く限り多分あれ最近噂の『喧嘩(マッチ)売りの少女』だと思うんですよね」

「だからどうして……って、そうか、なるほど」


 『喧嘩(マッチ)売りの少女』。

 暴力や暴言が御法度のエリアで、敢えて判定に引っかからない程度にバカに喧嘩を売り、バカがまんまと乗って御陀仏したところでハイエナすると噂の悪質なプレイヤーである。


 簡単そうだがやろうと思ってできる事じゃない。

 手段はシンプルなようでなかなか難しい。特に喧嘩を即決で買っちゃうバカを判別するあたりが。


 あと手段がバレてるのに未だに続けられるってのもソイツの手腕と頭のキレを表している。

 多分、何かしらカラクリがあるはずだ。でなきゃ『赤輪』にとっくにとっちめられてるだろう。

 噂になるくらいだ。相当な数似たような手段でハイエナしてるのだろう。それでいてまだ捕まっていないどころか身元もバレてない。相当の手練れだ。

 ウニ太郎とアン二郎が白旗をあげるのも分からなくはない。


 ぶっちゃけると、ウニ太郎もアン二郎もハッキリ言って…………その…………うん。三八(仮)トリオにカキ三郎がいなかったら大変な事になっていそうだ。

 三八(仮)トリオはカキ三郎がブレーンていうか本体みたいなところがある。

 例えるなら、おバカな良く吠えるチワワ2匹と賢い飼い主みたいな感じである。三八(仮)トリオをよく知らない奴は、チワワが大きな声でよく吠えるせいで、その性格も相まってトリオのリーダーはウニ太郎だと思うだろう。

 実際ウニ太郎は口は悪いが周囲をぐいぐい引っ張ってく力はあるし、アン二郎は後押し(サポート)が得意だ。しかしその2匹にはよく見ると首輪が付いているのである。本当のリーダーはその首輪の紐を握るカキ三郎だ。

 

 言い訳になるが、酔っ払ってた俺に対して2人とも素面でKBフードコートでやらかしてるしな。ケツも青い初心者ならともかくサービス開始からいる奴らがやっていいミスじゃない(大ブーメラン)。

 頭の良し悪しというか細かいことを考えるのが苦手な2人にとっては犯人探しなど面倒なのだろう。


「カキ三郎よぉ、マッチ売りはいつから本格的に活動してるか知ってるか?」


「うーん、3週間くらい前でしょうか?掲示板で被害報告を見た気がします」

 

 なるほど、3週間前の時点で掲示板で名前が上がるほど動いてはいたのか。俺が今まで遭遇しなかったのは偶然か?

 てかなんでカキ三郎止めてくれなかったんだよ。って思ったけど、カキ三郎は俺が2人の財布取った時も止めなかったしそういうポリシーなのかもしれない。


 なので責めるわけもいかず、やんわりと見てなかったのかい、と聞けば、カキ三郎は済まなそうに俯く。

 表情は見えないが、すまなそうにしつつなんとなく苦笑しているような気がした。


「私そんな事態になってた事に気づかなかったんですよね。夕食にそこまで集中していたつもりもなかったのでお恥ずかしい限りです」


「…………ふーん、なるほど」


 俺たちの座ってたテーブル席と、俺がビビンバ野郎と知らないクソとクロス事故を起こした場所は10m程度しか離れていない。

 確かに周りの席にもプレイヤーがいて騒がしかったし、席の向き的にカキ三郎は俺たちが事故を起こした場所に対して背を向けて座っていた。


 しかしだ、カキ三郎は猪突猛進傾向なウニ太郎アン二郎の頭脳だけでなく耳も目も担当してるので周囲の状況変化に敏感だ。

 特にあんときゃ俺は酔っ払ってたからな。ビビンバ野郎に罵詈雑言を投げた時の声は結構大きかったはずだ。

 なのにカキ三郎は反応しなかった。思えばあれだけ人がいたのに目撃情報が少な過ぎる気もする。


 なるほどなるほど、絞れてきたな。


「何黙り込んでんだ。なんか怖ぇよ」


「そうそう、赤バケツさん黙ってる時って何しでかすかわかんなくて怖い」


 うるせー黙って考え事くらいさせろや。デフォルトで喋り続けてるからって黙ると不機嫌なのを疑ってくるのやめろってんだ。

 第一ベラベラ自分の考えを口に出して動く奴がいるか?アニメじゃねーんだぞそんな奴リアルにいたらタダのヤバい奴なんだよ。


 更に言えばアン二郎に至っては被害妄想が入ってる。なんなら本当に何か起こしてやろうか、あ゛ぁん?

 腕を広げてシャーッ!と威嚇すると、アン二郎がヒッと悲鳴をあげてウニ太郎の後ろに逃げた。頼っているのか盾にしてるのか。その真相はアン二郎のみぞ知る。


「そういうことばっかやってるから初期組ヤバい奴ランキング絶対筆頭なんだよなぁ」


「攻略勢、廃人勢でも無いのに名を連ねてるの、凄いですよね」


 あーもううるさいうるさい。後で闇討ちしてやっから大人しくしてな。


「カラクリはだいぶ絞れてきたかもしれんな」

「ふかすなぁ。時間の無駄だし飽きたしミッション受けてくるわ」


 俺がそう言うと、ウニ太郎はちょっと呆れたように流し怯えるアン二郎を引きずって立ち去った。

 しかしカキ三郎はすぐには立ち去らず此方を見つめた。


「わかったんですか?」


「まあ賢いサルでも考えればわかるが、なんかの『遺観器』は使ってる。しかも結構厄介なタイプだ」


 怪奇現象には幾つか種類があって、その一つに特定のオブジェクトが原因となってるケースがある。これを歪位器という。

 歪位器はどれも危険なのだが、その中でもプレイヤーに使用が許可された歪位器を遺観器という。

 ファンタジーゲームに当てはめるなら、アーティファクトってやつが近いかもしれない。


 プレイヤーにとっては所有している遺観器の数も醜いマウント合戦の勝敗を決める非常に大きな要素だ。

 因みに考察班はクロック13や俺のバイクも遺観器ではないかと考えているが知った事ではない。サンプル提供しろとかふざけたこと言っているが絶対に渡してやらねぇ。


「…………侵標霊(エルド)の可能性の方が高くないですか?」


 この世界に於ける怪異の中で、プレイヤーに近しいレベルで自己意識がありそうな存在を侵標霊(エルド)という。

 ただ『KBフードコート』みたいなフィールドに棲みついてると思しき怪異もいるので、どっからどこまでがP案件でどこまでが侵標霊(エルド)は正確にはわからない。


 わからないので俺は怪異と呼ぶ方が好きだ。


「怪異が他の怪異を利用するってのが少し引っかかってな。財布だけ取るのも意味わからんし。立ち振る舞いはプレイヤーより怪異っぽく見えるが、多分それを誘発させてヘイトを下げる作戦だろう。なんなら掲示板で最初に騒ぎ出したやつが本人でも俺は驚かない。情報ってのは最初にデカい声で叫んだ奴が有利だからな。流れを自分で作るのは賢い手だ。イメージ操作ってヤツよ」


 因みにTC内にいる怪異の数はよくわかってない。目撃衝撃がまちまちだし、嘘だってつけるからな。内容がどうしても荒唐無稽になり易いから一々取り合うわけにもいかない。何がタチ悪いって事実の奇妙さが作り話を余裕で超えてくる事例が多々あるから真偽の判別がつかないって事だ。


 ただ、否ヶ淵TCだと『開かずの48番倉庫』、『欠番666番倉庫』、『1Fトイレ横の扉の絵(血の手形付き)』とかは明らかになんらかの怪異が関わってるんじゃないかと言われてる。

 真相は知らない。


「ぶっちゃけるとゲーム的にもヘイト買うだけの怪異増やしてクソゲー濃度を高める必要無いしね。下手人はプレイヤーだよ。てかそうであってほしい」


 でないと俺の聖なるグーが行き場を失う。刺す場所を失ったナイフが寂しさに俺以外の血の涙を流す事になる。


「なるほど、納得できました。では引き続き頑張ってくださいね。お先に失礼します。あ、もし見つけたらちゃんと連絡しますね。それでは。また一緒に遊びましょうね。お誘い待ってます」


 俺が義憤(私怨ともいう)に燃える一方で、1人残ってたカキ三郎もペコリと頭を下げて立ち去った。

 丁寧というかなんというか、カキ三郎は社会人っぽい雰囲気がある。ゲーム内なのに社交辞令すら言えるんだぜ。


 相手の素性なんてログイン周期で大体わかってしまうが、そこまでやると気持ち悪いので意識して記憶する事はない。

 ただ、なんとなーくわかってしまうのだ。

 ちな午前午後ログアウトせず両方いる奴は大体ニート。特に昼飯をこっちで済ませる奴だな。


 大昔のオンゲと違ってVRは24時間ログインはできない。健康的な観点から1日にログイン可能な時間数が限られており、結果としてニートと学生・社会人で活動時間がなんとなく分かれたのだ。


 はてさて、掲示板をペロペロクパァしたり知り合いに手当たり次第に電凸ならぬメッセ凸テロをしてみた結果、マッチ売りの少女に関する情報は予想より集まった。

 持つべき物はやっぱり都合のいい知り合いだね!

 …………みんな暇かァ?


 奴の活動時間のメインは昼間。俺と今までかち合わなかったのはそのせいか。俺は夜の生き物だからな、昨日は例外だったのだ。


 多分、被害者が多いのに捕獲活動がされないのは、マッチ売りの少女の被害者の多くがニートだからだ。

 奴ら掲示板だとはしゃぐのにリアルだと地蔵に早変わりするし無気力体質だから自分からなんかやってやろうって気が薄い。

 たぬきマ○オじゃねーんだぞバカやろー!ピザとチー牛ばっかだとデフォルメたぬきみたいに腹が出ちまうぞ。

 デブでも食ってろピザ!なんて罵倒された日にゃ俺なら悲しみのやけ食いしちゃうね。


 あとニートは成人女性にはちょっと厳しめな人が多いが、未成年少女には優しいところがある。いや、ニートってか男か。男って多かれ少なかれそういうとこあるよね。

 だからマッチ売りの少女を本気で捕まえる気がないんじゃ無かろうか。体つきは確かに少女だったし。

 

 でもこのゲーム課金すればアバター整形できるからね。性転換も簡単だ。喧嘩売りの少女の正体が『47才(♂ )職業ニート』の可能性だって十分あるのに、人間は愚かだ。

  

 しかし男は僅かな可能性に賭けて万馬券を握るのだ。


 もしかしたら、リアル美少女かも知れない。

 もしかしたら、リアル美人かも知れない。

 もしかしたらオフ会してその先に進めるかも知れない。

 

 そんな『有り得ない』を信じているのが世の男どもである。直結厨はどこにでも潜んでいるのだ。そう、誰の心にも。

 自分から財布パクったおッさんを鼻息荒くして追い回すより、可愛い美少女から取られてしまったんだ、いやもしかすると止むに止まれぬ事情があったに違いないと勝手に同情して溜飲を下げるのだ。その方が精神衛生上いいだろう。


 男ってのは前者より後者の方が何故かカッコいいと思う生き物であり、更にニートってのは言い訳の達人でもあるので面倒な事は何かと理由をつけてやりたがらない。

 あるいは都合よく物事を考える素質があるので、自分にとって嬉しい妄想に逃げる。


 そう考えるとニートってのは案外光るところがあるかもしれないと思ったが、世の人材活用について考えてる場合ではない。

 俺は別にマッチ売りの少女がマッチョ売りのゴリラだったとしても構わないんだ、金さえ返せばな。

 そもそもリアル美少女は人生割とエンジョイしてるのでニートに着地する確率は低い。かわいいニートゲーマーは空想上の生き物だ。

 故にマッチ売りはむさいおっさんの確率が高い。

 Q.E.D.


 見誤ったなァ、マッチ売りぃ!俺はオッさんの尻を鼻息荒くして追いかけでも金を取り返そうとするニュータイプなんだよぉ!


 さぁ、『喧嘩(マッチ)売りの少女捕獲作戦』始まりだぜ。いつまで逃げられるかな?

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