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水魔法、訓練中

「それで、水魔法の何を覚えたいんだ? 水魔法は回復系統が主体だが、支援系統も豊富だ。それに、攻撃系統も僅かだがある。……貴女は令嬢だし、覚えたいのはやはり自分の怪我などを癒せる回復系統か? 他は必要ないだろう。従者に任せればいいのだから」

「いえ! 全部覚えたいのです! 覚えられるものは、全部!!」

「……全部?」

「はい! とりあえず、一番簡単なものからご教授をお願い致しますわ!」

「…………わかった。なら、水魔法の基本の回復系統から教えよう」

「はい、よろしくお願い致しますわ!!」


 覚えたい系統を問われ、力強く『全部』と答えると、何故か訝しげな顔をされ問い返された。

 それにしっかりと頷いて返すと、これまたおかしなものを見るような目を向けられたけれど、了承は取れたので良しとする。

 これで、いよいよ水魔法を覚えられる。

 その事に胸を躍らせ、期待に満ちた目でセレヴィンさんを見上げ、説明を待つ。


「呪文はこうだ。"清らかなる水よ、癒しの力を与えたまえ"。この時、治す対象を水の球が包むイメージを頭に浮かべると成功しやすい」

「水の球、ですね。わかりましたわ」

「ああ。じゃあ、早速やってみるか。魔法の修得は、実践するのが一番だからな」

「え? 実践と言っても、怪我をした方がいな……えっ!?」


 説明を受け、理解を示した後に言われた言葉に首を傾げながら口を開くと、次の瞬間、セレヴィンさんは腰に差した剣を抜き、なんとその刃を自分の腕に当てて引き、それを切り裂いた。

 セレヴィンさんの腕に、真っ赤な線がはしる。


「なっ!? 何を!?」

「怪我がなければ、実践できないだろう? さあ、やってみるといい」


 驚き、慌てる私に、セレヴィンさんは何でもないような顔をしてしれっとそう言うと、怪我した腕を私に向かって差し出した。


「……っ!!」


 魔法修得の為とはいえ、わざとこんな怪我をするなんて。

 そんな事をさせるつもりはなかったのに。

 そんな罪悪感を感じながら、私は震える手をセレヴィンさんの腕に翳した。


「き、清らかなる水よ、癒しの力を与えたまえ……!!」


 お願い、治って!

 それだけを考えながら呪文を唱える。

 しかし、私の手が微かに青く光っただけで、セレヴィンさんの腕にある傷はそのまま残った。


「な、何で……!?」

「……考えられる原因は、イメージだな。ちゃんと水の球が包む様を思い浮かべたか?」

「! あっ……!! き、清らかなる水よ、癒しの力を与えたまえ!!」


 セレヴィンさんの指摘に、イメージを怠った事に気づいた私は、慌てて頭に水の球を思い浮かべ、再び呪文を唱えた。

 けれど、今度は私の手とセレヴィンさんの腕の怪我した部分が青く光っただけで、やはり傷は治っていない。


「どっ、どうしてぇ!?」

「落ち着け。そうすぐに使えるわけがないだろう。さあ、もう一度呪文を唱えるんだ。光を放ってはいるんだ、そのうちできるさ」

「そ、そのうちって……!! だって、痛いでしょう!? 一刻も早く治さなきゃ!!」

「……焦ったところで、失敗するだけだ。落ち着いて、呪文を唱えるんだ」

「そ、そんな……!! ……っ!!」


 怪我が治らず()れる私に、セレヴィンさんはやっぱり何でもない事のようにしれっと言葉を発する。

 私がこれ以上焦らないように、気を使っているんだろうか?

 とにかく、早く治さなきゃ……!!

 私は言葉を飲み込むと、一度目を閉じ、深く深呼吸をして、再び目を開けた。

 心臓は変わらずどくどくと早鐘を打っているけれど、焦る気持ちは僅かに落ち着いたように感じる。

 これなら、たぶん、大丈夫。


「清らかなる水よ、癒しの力を与えたまえ……!!」


 セレヴィンさんの腕にある傷を睨み付けながら、再び呪文を口にする。

 すると、傷を青く丸い光が包み込み、赤い線がスーッとゆっくり消えていった。


「で、で……できた……?」


 傷の消えたその腕を、呆然と眺めながら口走る。

 それを肯定するように、セレヴィンさんが頷いた。


「ああ、できたな。じゃあ、今の感覚を忘れないうちにもう一度だ」


 そしてそう言うと、再び剣を持ち自分の腕に当てた。


「なっ!! ま、待って下さい!! 傷が必要なら、私の腕に!! 私が怪我してそれを自分で治しますから!!」

「何言ってるんだ。貴族令嬢にそんな事をさせられるわけがないだろう」

「ああっ!!」


 何をする気かを察した私が慌てて止め、代わりの案を口にするも、セレヴィンさんは速攻で却下して、腕に当てた剣を引いてしまった。

 そこに再び、真っ赤な線がはしる。


「ほら、呪文」

「うぅ……はい……」


 しれっと言いながら腕を私に差し出すセレヴィンさん相手に、私は涙目になりながら魔法の練習を繰り返すのだった。

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