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・オカマさんと一緒!1/2

 俺たちツワイク人からすれば、シャンバラの夜明けはいくら見ても飽きることのない光景だ。

 何せここには山がない。そのため地平の彼方に太陽が昇ると、恐ろしくノッポな影法師が生まれる。


 真横から日の光を受けるこの感覚は、山や森の多いツワイクで生まれた俺には、住み慣れようとも世界の不思議そのものだった。


 さて、今日はがんばる日だ。

 まだ肌寒い中、オアシスの湖水で顔を洗い、手足だけを軽く布で拭うと俺はすぐそこの自宅へと戻っていった。


「ん……なんかあっちが騒がしいな……。まさかもう準備に入ってるのか……?」


 市長邸の方が騒がしい。これは急いだ方がよさそうだ。

 玄関をくぐるとキッチンに入り、そこにある有り合わせで簡単な朝食を作ってから、二階の嫁さんたちを起こしに行った。



 ・



「そうならもっと早く起こしてよっ! もうっ、都市長ったら急なんだからっ!」

「すまん、そこは俺の提案なんだ。朝食が済んだら調合を手伝ってくれ」


「え、ユリウスが作ったの……?」

「ああ、早くに目が覚めてしまったからついでにな」


 シェラハは昨晩のことを覚えていないようだ。

 あまりに普通にしているので『好き好き大好きあたしの旦那様』と、そう言われたのが幻覚のような気がしてきた。


「もっと、旦那様らしいこと、してくれたっていいのに……。どうしてしてくれないの……?」


 そんな俺の内心をまさかとは思うが読んだのか、メープルがボソリと昨日の言葉を復唱した。


「何言ってるのよ、朝ご飯を作ってくれるだなんて最高の旦那様だわ」

「そだね……」


 どうやら昨日のことは綺麗さっぱり忘れてしまったようだ。

 メープルと俺は目と目を合わせて、まあその方がいいだろうと密かに笑いあった。


「それより早く飯食わないとやつらが来ちまうぞ。ほら……」


 少しは旦那様らしいことをしようと、俺はベッド中のシェラハに手を貸して起き上がらせて、同じことをメープルにもした。

 それからバルコニーの方に出て、市長邸の方に再び目を送ると、人だかりのようなものが見えた。


「急げ、もう集まってるぞ」

「だ、だったら早く出てってよ……。き、着替えられないでしょ……」

「むしろ、ここで嫁鑑賞モードに入っとく……?」


「そんな時間はないっての。じゃ、下で先に食ってるぞ」

「つまんない……。ペロン……」


「なっ……ぬ、脱ぐなアホーッッ?!!」

「はぁっ……。そういうの男女でリアクションが逆じゃないかしら……」


 不意打ちで肌をさらしてくるメープルに、俺はとっさに顔を覆って下の階へと逃げていった。


 男女が逆というより、メープルが男で、俺たちが女だった方がバランスが取れたのかもしれないなと、どうでもいいことと、一瞬見えてしまった肌を思い返しながら逃げた……。



 ・



 で、そういうわけだ。急ピッチで朝の身支度と食事を済ませると、うちの工房に総数50名ほどの有志が集まっていた。

 彼らは俺と姉妹を取り囲み、追加生産分の白銀の導きが支給されるのを固唾を飲んで待ちかまえていた。


「お、おおおおお……!!」


 今回は工業的に大量生産しようということで、オーブと水槽を使っての調合だ。

 ツワイク生まれのこの独自技術は、有志(半数がジジババ)たちを多いに驚かせた。


 急ぎの動員が出来て、かつシャンバラの緑化を切に願う者たちとなると、こういった現役を引退した連中が中心になるのは仕方がなかった。

 20分ほどの調合時間をかけると、ついに完成した。


 沸き上がる蒸気が工房を白く包み込み、乾燥した砂漠の気候により瞬く間に晴れてゆくと、水槽の中に現れたのはおびただしい数の『銀の導き手』だった。

 ニーアが拾ってきた白銀のコインを入れていないためか、それは白銀色ではなく銀色だった。


「すまん、どうも作りすぎたみたいだ」


 乱暴に言ってしまえば、100対くらいはありそうだった。


「凄いのぅ……」

「ワシも長いこと生きたが、こんな凄まじい術は見たことがないぞ……」

「は~、最近の子は凄いのねぇ……」


 続いてメープルとシェラハがてきぱきとくじ引きのヒモを配っていった。

 彼女たちは同じ模様がペアだと説明して、俺もそのうちから一本を引いた。


 ヒモの下部には赤と黒の線が7本走っている。

 同じ模様のペアを求めて、人でごった返す工房の中をうろうろとする。


 知っているやつだと気楽でいいな……。

 なんならあのときみたいに、シェラハとくっついて砂漠をラクダで歩きたい。


「おっ……」

「あらぁん……♪」


 俺の相手は秘めたる願い通りの『知っているやつ』だった。ただし……。


「出たな、妖怪……」

「やーだぁ♪ タマタマ坊やじゃない! 今日はあなたとずっと一緒なの? やだぁっ、うーれーしーぃーっ♪」


 その中でも一番濃ゆいやつだ……。

 顔見知りでかつ同性である分、気楽ではあるが、どんな精神攻撃をしてくるのやら今から既に恐ろしかった。


「ミャァァァーッッ、なんでまたメープルとミャァァーッッ!!」

「ニャンニャンパラダイス……始まりました……」


 メープルはあの姉御肌のネコヒトとペアになったようだ。

 手をワキワキさせながら、白い毛並みの持ち主ににじり寄っている。


「あら……」

「参ったな。よりにもよって弟子の嫁さんかよ……。おい、よろしくな……」


 シェラハは工房の隅の壁で、だらしなくもたれていた男――うちの師匠とペアになっていた。


「はいっ、よろしくお願いします、お師匠様。うちのユリウスがいつもお世話になっています」

「はっ、そりゃこっちのセリフだ。うちのバカ弟子を選んでくれてありがとよ」


 ……意外と仲良くやれているようだ。

 しかしそうなると、師匠が余計な話をしないか心配になってくるな……。


「さ、イキましょユリウスちゃん♪」

「あ、ああ……。わざわざ朝っぱらから悪いな……」


「いいのよ、アタシもシャンバラに緑が生まれる姿を見てみたいもの。それに……」

「それになんだ?」


 ためるような思わせぶりな言い方をするので、早く言えと急かした。

 外にはよくこれだけ確保できたなと、総数50頭に及ぶラクダが待機していた。


 都市長も手伝いたがったが、政務を優先しろと義兄さんに止められたそうだ。

 偉くなると大変だな。


「タマタマ坊やと一緒の朝立ち(・・・)も悪くないわぁ、んふふっ♪」

「どうしてアンタは無理矢理にでも下ネタに繋げたがるんだろうな……」


「だって、坊やの恥ずかしがる顔がかわいいんだもの♪」

「そうかよ……」


 俺はオカマと一緒にラクダにまたがって、まだ肌寒い朝の砂漠に旅立った。

 メープルの仕込むクジは、どうもおかしな結果ばかり出るような気がするのは、俺の気のせいだろうか……。

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