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・シャンバラ滅亡の危機を桁違いのマジックアイテムで覆す - 戦闘準備 -

「本当か? おいヒューマン、お前都市長のお気に入りなのをいいことに、やりたい放題やってると聞くが?」

「新参者が気に入らない気持ちはわかる。だが今は兵を――」


 中にはわからず屋もいた。

 どこの世界にもこういうやつはいるものだ。今は虚勢の張り合いをしている場合ではないというのに。


「信じられんな」

「信じてくれ、軍にも民にも被害を出したくない」


「ヒューマンなのにか?」

「そんなもの関係ない、手と足が2本あって頭が1つなら同じ人間だ」


「ふんっ、ならば猿も同じ人間だな」

「……わかった。もしこれが嘘だったら、お前に金貨100枚やる」


 伝令書をひっくり返して、そこにテーブルにあったペンを滑らせた。

 誓いと署名、信じてもらうために血判も足した。


「むぅ……。だ、だが……お前は信用出来ん……」

「隊長っ! ユリウス様は枯れたマク湖を復活させた英雄ですよっ!?」

「ごぶさたしております、ユリウス様! あなたのおかげで故郷は救われました! 隊長っ、派兵しましょうよっ、嘘のわけありません!」


 それでも決断しない隊長にイライラとし始めると、司令室に彼の配下が飛び込んで来て直訴をしてくれた。

 驚いたことに、どちらもマク湖の大工事で見た顔だった。


「わかった! だが嘘だったら金貨100枚だぞっ、わかってるな!?」

「約束する。……口添え助かったよ、武運を祈ってる」

「はっ! ほら隊長、急ぎますよ!」

「何ちんたらやってるんですかっ、お国の危機ですよっ、ちゃんとして下さい!」


 話が付いた。亜空間の扉を開き、俺はシャンバラ防衛戦の第2段階に移った。

 転移先は行政区画の冒険者ギルドだ。



 ・



「あらっ、ユリウスちゃんじゃないっ、いらっしゃい♪ ごめんなさいねぇ、今ちょっと立て込んでるのよぉ……」

「まさかあんた、前線に立つのか……?」


 ギルドに転移すると、冒険者たちが慌ただしく戦闘の準備を始めていた。

 受け付けのカマカマ野郎は、長身の肩にウォーハンマーをかけて、軽装の鎧を身に付けていた。


「むふふ……愛するアタシの町だもの。みんなの幸せを奪うクソ野郎は、アタシがスペシャルミンチしてあげるんだから♪」

「ミャァッ、ユリウス様! 出陣前に会いに来てくれたミャッ!? 感激ミャァッ!」

「いや、ここのエリクサーを取りに来た。前線で布陣中の正規軍に俺が届けるよ」


「フミャァ……。男って、男って……戦が絡むとみんなこうミャ……。戦のバッキャローッッ!! アンタたちっ、たらたらやってないで出陣するよっ、あと30秒で準備するミャッ、ブミャーァッ!!」

「なんで急に荒れるんだ……?」

「んもう、聞くのは野暮よ、ユリウスちゃん♪」


 ギルドには冒険者たちのためにエリクサーとポーションが備蓄されている。

 俺は受け付けから樽1つと木箱1つを受け取って、すぐに亜空間の扉を開いた。


「助かった、これがあればしばらく前線ももつだろう。またな、白にゃんこ!」

「アタイは猫じゃないミャッ、ネコヒトミャァッ!」


 頭を軽くモフったら姉御肌のネコヒトは静かになった。

 続いて世界の裏道をちょっと歩いて、回復物資をバザー・オアシス北部に展開する前線部隊に運んだ。


 動員された兵力はまだ100名にも満たなかったが、砂漠の向こうに動きの早いゴブリンとコボルトが群れをなしてこちらに迫って来ていた。


「ユリウスさん、援軍の方は?」

「全軍がこちらに来る。それとギルドからエリクサーとポーションを持って来た、使ってくれ」


「おお……どんな瀕死の重傷も瞬く間に治す奇跡の薬エリクサー……。これがあるとないとでは、まるで状況が変わってきますね。貴方が味方で本当に良かったですよ……」

「ギルドの連中もじきに来る。増援が集まるまでどうにか堪えてくれ。こんな状況で悪いが、俺は工房に戻る」


 兵の中には防具を付けない民間人らしき者もちらほらといた。

 義勇兵というやつだろう。中でもエルフは誰もが大小の魔法の才能を持っているので、こういった有事において頼もしい。


「ご武運を」

「そっちもな。お義兄さん」


「よして下さいよ、こんな状況だというのに、顔がニヤケてしまいます」

「死ぬなよ、寂しがりの都市長が悲しむ」


「ええ、あの方はそういう方です。……私たちは長寿であるからこそ、変化や死に対してとても臆病なのです。しかし貴方ならば――」

「その話は後だ、今は急ごう」


 彼に別れを告げて、世界の裏側を通ればちょっとそこまでの工房に戻った。

 あっち行ったりこっち行ったり、もう目が回りそうだった。


 それでも厳しい前線に立っているあいつらのために、俺は本棚から分厚い一冊を引き抜いて、そのページをめくり散らした。

 この状況を一変させる奇跡のマジックアイテムが必要だ。


 頭をフル回転させて文字を流し読んでゆくと、半分ほど読み進めたところで、今回向けの超危険なレシピを見つけ出した。


「フレアボム……そうか、これだ!」


――――――――――――

必要素材:

 ・フレアストン

 ・ルインタートル素材

 ・プリズンベリル

 ・基礎素材

 ただしこのアイテムは、材料費と威力の帳尻が合わない。……とある。

――――――――――――


 次に倉庫へと飛び込んで在庫を確認すると、幸いなことに全ての必要素材が既に集まっていた。

 机に材料を並べて、水瓶を抱えてオアシスの湖水を釜へと流し込む。


 最近はメープルの杖の代わりに、掃除用のホウキを使っている。

 それを錬金釜にコンと突き入れた。


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