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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
書物の街ウィンデル
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潜入!

「で、どこから入るんだ?」

「事前に調査して警備の少ない箇所を洗っておきましたので、そこから行きましょう」


 日本にいた時のように監視カメラを警戒したりする必要はないが、それでも真正面から堂々と入る必要もない。

 僕は用意していたメモをポケットから取り出そうとするが、指先に紙の感触が無い。おかしいな、どこかに落としたのか?

 そこで、先日フィーナと手合せした時もこのズボンだったことを思い出した。結構激しく動いたから、あのときにでも落としたのかもしれない。しかし、それほど問題視することでも無いだろう。

仕方なく、ある程度勘を頼りにして、僕達は事前に目を付けていた図書館を囲む高い塀の一角まで来た。そしてすぐさまミラに魔法を掛けてもらう。


「『中和(ニュートライズ)』、『隠蔽(ハイド)』、『夜目(オウルアイ)』、『透明(インヴィシブル)』、『幽体化(スリップ・スロー)』……」


 ミラがいつも持っている扇子は、どうやら魔導具であったらしい。

 『強化(リィンフォース)』のような教科書レベルの魔術から、本でしか見たことのない上級魔法まで、様々な付与魔法が掛けられる。流石はアリスの師匠にあたる人物。まるで別人になったかのように全能感が体を支配する。


「強化魔法なんて久しぶりに受けたけど、やっぱり魔法ってすごいわね」

「魔法というか、これはミラさんだからこそですかね。僕が同じ魔法を掛けても、ここまで力は溢れてきませんよ」


 フェルトの感想に僕は苦笑いしながら言うと、彼女は半眼で僕を見た。いや、これに関しては本当ですからね?


「今掛けた魔法の中には、壁抜けの魔法もある。この塀も飛び越えずとも問題ないだろうから、お散歩気分で抜けると良いぞ」

「まじですか……」


 体が透明化したうえに気配も薄くなり、結界も意に介さず、しかも壁も抜けられると来たか。日本でこんなことが出来たらどんなことでも出来てしまいそうだ。


「それじゃあ、行ってきます」

「うむ。『思念(メッセ―ジ)』は常に開いておるから、いつでも連絡してくるがよい」


 ミラに見送られ、僕らは塀をすり抜けて図書館の敷地内に入る。塀から図書館までは五十メートルくらい距離があるが、先ほどの魔法のおかげで見つかる心配はない。

 そのまま問題なく敷地内を踏破し(結界の存在など、あるかさえも分からなかった)、コンクリートの壁をすり抜けて中に入れば、事前の調査の通り、目の前に地下への階段が現れた。ここまでは怖くなるくらい順調だ。まあ、最近の事件が危険なものばかりで僕の神経も過敏になっているのかもしれないね。我ながらフラグになりそうだな……。

 声を出す必要もない。僕はジェスチャーでガトーにここに残るよう伝えると、彼は勝ち気な顔で頷いた。いや、何もなければ本当に大人しくしててくださいね?

 フェルトを連れ、そのまま地下二階まで降りる。その先は勿論階段など無く、フェルトがどうするつもりかと視線で問うてくる。

 そういえば、フェルトさんには結局見せたことが無かったね。

 僕は、近くの壁に魔力の気配を弱める結界を張ると、魔晶石を取り出した。

 躊躇いなくそれを砕くと、中に詰まっていた魔力が途端に表出、暴れ出し、フェルトはぎょっとした顔でこちらを見た。

 ――『霧幻泡影(デストラクション)

隣で唾を呑み込む音が聞こえた。

 一瞬で出来たドラム缶くらいの大きさの穴は相当深いのか、魔術で強化された目でも奥までははっきり見えず、ぼんやりと薄暗い床が見えるだけだ。


「僕から行きますね」


 小声でそれだけ言うと、僕は穴に飛び込む。なかなか足が床に付かず、少しだけ恐怖を覚えたが、五秒くらいしたのちに足に硬い感触が伝わった。

 カツン。


「ッ!」


 床までの距離が目測できなかったせいで、思ったよりも大きな足音を立ててしまった。

 視線を周囲に巡らせるが、人の気配も罠の類もなし、ほっと胸を撫でおろした僕の上からフェルトが落ちてきたので思わずキャッチ。お姫様抱っこまでしてあげたのに、フェルトは顔を俯かせて慌てて僕を突き離した。

 足音を立てても何も起きなかったということは、音センサーのようなものは無いと考え良いだろう。僕はフェルトに語り掛けた。


「どうやら、ここが噂の禁書書庫のようですね」


 書庫とはいっても、実際は銀行の金庫に近い。部屋には、ただっ広い白の壁と床が広がっており、中央の巨大な扉の他は何も置かれていない。その中央の扉も、中央に朱色の巨大な魔法石が嵌められており、まるで不躾にやってきた僕ら侵入者に睨みを利かせているようでもあった。


「……で、ここも何か策があるの?」

「え?」

「え、じゃないわよ。どう考えてもあの奥に目的の物はあるでしょ。けど、あの扉を上手く突破する方法はあるのかって聞いてるの」

「ああ、そのことですか。簡単ですよ」


 そう言って僕が新たに二つの魔晶石を取り出すと、フェルトは慌てた声を上げた。


「ちょ、ちょっと! もしかしてさっきみたいな方法で扉ごと破壊する気!?」

「勿論ですよ。そもそも、あんな見るからに頑丈そうな扉を、僕とフェルトさんで開錠できるわけじゃないじゃないですか。なので、扉ごと結界やらも消滅させます」

「いやいやいや、流石にそんなことしたら私達の存在がバレるでしょ!」

「そうですね。だから一階にガトーさんを置いてきたんです」

「! アンタもしかして、最初から……」

「ミラさんがこの扉の結界も解除出来たなら話は変わってきたんですけどね。まあ適材適所ってことで、ガトーさんには精々時間稼ぎをしてもらいましょう」

「……ガトーは、そのまま見捨てるの?」

「いやいや、流石にそこまで僕も薄情じゃないですよ。無事に目的の物を盗めたら、彼も回収して、予定通り脱出するつもりです」


 僕が扉に近づくと、扉に嵌められた石が警告するように輝き始めた。


「それじゃあフェルトさん、ここからは時間との勝負です。僕達が急ぐことが、結果的に他の人を助けることに繋がりますので、気合い入れてください」

「……分かったわよ!」


 自棄のように叫んだフェルトを合図に、僕は手元の魔晶石を二つとも砕いた。


読んでいただきありがとうございます。

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