神狩り 2
神を相手にした戦いは中盤戦へ。聖を地上に落とすことに成功したカナキ陣営だったが、ここからが山場だと誰もが感じていた。
「カレン・オルテシア! 生きてるか!」
「ッ、これくらいで死ぬほど甘い鍛え方はしてないわ……!」
聖から片時も目を離さず、背中越しに声を掛けたスイランになんとか返答したカレンだったが、それがダメージを隠し、あえて気丈に振る舞っているだろうことは誰にでも理解できた。
「スイラン、私を前に他の人の心配とは、本当に成長しましたね」
「ッ!」
一瞬たりとも目を離しはしなかった。それでも、スイランの目からすれば、気づけば聖は瞬間移動でもしたかのように手を伸ばせば触れられるような位置まで移動していた。
「ひと……」
「遅い」
刀を振り切る前に聖の掌底がスイランの腹部に食い込み、大きく後方に吹き飛ばされる。「ッ……!」
「おや?」
その直後、スイランを助けようとしたが間に合わず、出遅れる形でエトが飛び出し、聖に全力の拳をぶつけるが、聖はそれを右手であっさりと受け止める。
「くっ!」
そのまま連撃に繋げるエトだったが、それも全て完璧に防がれ、逆に攻めが甘かったり、強引すぎたりする際には手ほどきを受けているかのように鋭いカウンターを喰らう。
「その若さでこの練度は中々ですが、まだ粗削りですね」
「どこまでも上から……!」
「『召喚』」
言葉とは裏腹に、エトは攻撃を受け取められた拍子に後退。その直後にマサトが召喚
したカオナシとアルミラージが聖に向けて殺到する。
無論、聖からすればその二体を屠るなど指一本でもできるが、その時はそうせず、二体の攻撃を回避しつつ、再び上空へ移動することを選択する。上空にいってしまえば、カナキ陣営のほとんどが手を出せなくなる。だがその試みはカナキ陣営も織り込み済みで、聖を中心に高度な結界魔法が展開される。
「『迷宮作成』」
「これは……!」
周囲を覆い尽くした結界と、自身が浮上しようとしたがその動きがいつもより緩慢なことに聖が驚く。
「浮上を阻害する結界……」
「『破砕』……!」「二つ!」
そして浮上を許す前に前後から同時に襲いかかったエトとスイランに聖は意識を割かねばならない。左手の徒手でエトを、右手の光剣でスイランを、同時に受け止めた聖だが、スイランはともかく、威力を重視したエトの攻撃に表情が歪む。そしてその隙を逃さず、今度はスイランが『フラムルクス』による連撃を繰り出すが、それを聖は片手で全ていなしつつ、残る左の手足でエトの体術も相手取る。
「ぐ……くっ!?」「……ッ!」
自分達の攻撃が“片手間”に防がれるという未知の体験にスイランとエトは苦しい表情を浮かべる中、聖はさらに『天月』による術も発動させる。
「『英傑らの武心』」
二人に向けて放たれた幾つもの槍や剣は、咄嗟に後退したエトとスイランの薄皮を切り裂くのみで擦過する。それは二人の高い反射神経もあってのことだが、それとは別に聖の目に映った遠方から発動しようとしている数々の魔法も影響していた。
「これでも喰らえっす!」
「お願いだから通用してよね……!」
テオ、アリス、そしてアリスの操る複数の死体から同時に発動した魔法は上級、最上級魔法と強力かつ、他の魔法と干渉しあわないように速度、威力とを細心の注意を払って放たれたものであり、流石の聖もスイランとエトだけに注意を割いて防ぐことはできないものだった。
(あの数、しかもあの規模の魔法となると果たして完璧に捌き切れるでしょうか……?)
再び『雨避けの加護』を発動し、自身に襲い掛かる数々の魔法を撃ち落とす聖。
『雷雷鳥』、『獄炎柱』などの上級魔法から、『落陽』、『雷光千鳥』、『地獄嵐』、『瀑布斬波』などの強力な魔法が全方位から聖に殺到する。それらは聖の剣の間合いに到達した瞬間、フルオートで神聖力をぶつけられ相殺されるが、爆発の余波により、聖も少なからずダメージを負う。
「ッ、邪魔ですね……!」
聖は爆風から逃れると同時にテオに向けて術を発動しようとするが、その気配を読み取り、先んじてエトとスイランが襲いかかる。それを当然のように防ぐ聖だが、二人の妨害に美しい顔が苦みを帯びたものに変わる。
「一人じゃ太刀打ちできないけど、スイランさんとなら……!」
「他人の協力を前提に戦うなど、業腹だがな……!」
「……そうですね。では、これならどうですか」
二人を弾き飛ばした聖は、そこで次の策に出る。
エトは、目の前で聖の体の輪郭がぼやけ、やがて二重になったところでその術の正体に気付き叫んだ。
「『虚ろなる天影』です! 聖が分身体を生み出しました!」
「「流石、よく調べていますね」」
姿形が全く同じ聖が同時にそう言うと、次の瞬間別方向に一気に駆けだした。
「ッ、分身体がそちらに行き~~~ッ!?」
叫びつつ、エトはこちらへ突進してきた本体の聖に対して拳を振るうが、逆にその拳ごと聖の光剣に右腕を両断される。
「エト!」
「遊びは終わりです」
それに一拍遅れる形で剣を振るおうとするが、振り下ろす前に受け止められ、空いた腹部に蹴りを入れられ、凄まじい勢いで吹き飛んでいく。
「所詮は即席の連携。こちらから攻めればいくらでも連携の綻びは生まれます」
「ぐっ……!?」
腕の再生が終わる前に攻めようとした聖だったが、またも多方向から押し寄せた攻撃魔法の数々に失敗に終わる。その隙に再生を終え、後退したエトは、スイランが消えた方向から戻ってこないことを確認し、『魂魄進化』を発動させる。
「なるほど、スイラン不在の穴をその魔法と後方援護で埋めますか。ですが、能力強化のその魔法、一体いつまで保ち続けられますかね?」
「生憎と、あなたの仲間のおかげで魔力はいつもの倍程度残っています!」
聖と戦う前に回収しておいた閻魔の魂魄により、魔力を大幅に保持しているエトだが、それでも目の前の閻魔を超える化け物をいつまで相手できるかと静かに汗を流す。
一方で、分身体の方はというと、こちらもかなりカナキ側が劣勢に立たされており、窮地を迎えていた。
「キョオオオオオオ!」「あっぼ!」
「邪魔です」
聖の侵攻を止めようと、多数の魔法と同時に飛び出したアルミラージとカオナシだったが、たった一撃により灰燼と化す。そして、迫る多数の魔法に対しても完璧な対応を見せる。
「『閉じる世界』!?」
発動したのはテオやアリスの頭上に存在する結界と全く同じ結界。全ての攻撃を無効化する結界は当然、最上級魔法だろうが構わず全てを無効化する。先ほどまで『閉じる世界』は同時に二つ以上発動することはできないと踏んでいたため、カレンとテオに動揺が走る。
「くっ、腹括るしかないっすか……!」
そして遂に攻撃範囲にまで迫った聖に対し、テオは人間の姿から龍本来の姿へと戻し接近戦に備える。
しかし、上空にいるテオに向かって跳ぶ直前で、地面から急速に近づく気配を察し、咄嗟に横へ跳躍する。
「これは……」
先ほどまでいた場所から飛び出した地帝蟲を見て、聖は目を細める。すぐさま斬撃を放ちその長い巨体を分断するが、直後にその地帝蟲の口から飛び出した小さな体躯に気付いた。
「『天叢雲剣』!」
ツバキの放った魔力の剣を弾き、反撃しようとした直後、背後に感じた敵意に振り返り、飛んできた銃弾を叩き斬る。聖の視線の先には、後方の建物の陰からこちらに銃口を向けるマサトの姿があった。
「あちゃあ、あれも弾かれちゃうんだ……まー君、やっぱり私でもあれの相手は無理だって」
『それでもやるしかない。それに、別に俺達だけで倒さなきゃいけないわけじゃない』
「『落陽』!」
全員が頭上を見上げると、完全龍化したテオが自身の体躯ほどある巨大な火球を二つ同時に聖に投げつけるところだった。先ほどと同じように『閉じる世界』を使おうと思った刹那、聖からそう離れていない地点で、取り囲むように『焔刃』が展開される。
「ッ」
『閉じる世界』では間に合わない。瞬時にそう判断した聖は、高速で飛来する炎の刃を手にした剣を振るって次々と撃ち落としていく。
(しかし、この刃、私の剣の軌道をぎりぎりまで避けようとしながら飛来してくる。こんな精度で魔法を操れる手練れがまだいたなんて……)
撃ち落としきれず、一度回避した刃も、ブーメランのように旋回し、再び襲い掛かってくることに、聖は術者の魔法の卓越した技能に目を瞠る。そして、全てを撃ち落としきった時には、既に『落陽』は『閉じる世界』が間に合わない距離にまで迫っていた。
「ナイスアシストっすよ!」
自身の最大まで魔力を送り込み放った『落陽』が聖を捉え、歓喜の声を上げたテオだったが、そこで信じられない光景を目にした。
「『時空遡行』」
「――――――え」
『落陽』が止まった。
聖を目前にして止まった自らの魔法にテオは最初自身の目を疑ったが、すぐにインカム越しに聞こえてきたアリスの絶叫に我に返った時には遅かった。
『逃げなさい! 投げ返されてるわよ!?』
「ッ……!?」
回避できず、防御魔法を発動しても無駄だった。
「がぁああああ!?」
皮肉にもテオが全力で放った魔法は、障壁を軽々と破壊し、テオのその巨体を炎で呑み込んだ。
苦悶の咆哮を上げ、落下するテオの下で聖が剣を持ち呟いた。
「まずは一人」
「やばっ――」
次の瞬間、聖の剣がテオの胴体を両断した。
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