二大巨頭を打倒せよ 11
新年明けちゃいましたよ
「ッ……!」
顔からまともに受けた聖天剋の体は重力を全く無視して一直線に飛び、しばらくした後に残っていた数少ない家屋の壁に突っこみ、ようやく体を静止させる。
遠巻きに戦闘を見ていた誰もがそれが勝負の終わりを迎えた瞬間だと確信した――――そう、当事者二人を除いては。
「……まさかこんな形で貴様の素顔を拝むことになるとはな」
「…………」
やがて破壊された壁の内から体を起こした聖天剋は、左手で顔を隠し、指の隙間から覗く右目でぎろりと閻魔を睨みつけた。その顎からは夥しい血が滴っていたが、聖天剋が体を起こし、未だ殺意を閻魔に向けていることは事実だった。
「衝撃が最大になるときに顔をのけ反らせたのと同時に足を地から離して衝撃を和らげたか。それでも“今の”俺の拳をまともに喰らえば首から上が千切れとんでも不思議ではないのだがな」
「他の凡愚と一緒にするな……」
「ふん、とはいえ、致命傷には変わりあるまい」
「……チッ」
家から出てきた聖天剋は足取りこそしっかりしていたが、その体は先ほどと比べ明らかに力が無く、一歩歩く度に決して少なくない量の血が地面に落ちた。
閻魔はその様子をじっと観察していたが、決して油断するわけでもなく、だからといって必要以上に警戒することもなく、あくまで入ってくる情報を淡々と整理しつつ歩き出した。最早『ゾルフォート』の遠距離攻撃も必要ない。ただ足元を掬われる可能性のみを排除しつつ、ただ淡々と聖天剋を詰ませるまでの手順を逆算し、実行に移すべく移動する。
「無駄だ……!」
一歩踏み出したと同時に聖天剋が発動させた『流動』に対し、閻魔はそれに先回りする形で退路を塞ぐ。再び地面に潜り瞬時に移動する閻魔の移動速度は聖天剋の『流動』よりも遥かに速いことは聖天剋自身も痛感していた。
「チッ……!」
「敗走など許すと思うか?」
振るわれた閻魔の拳を間一髪で躱し、そのまま転がるようにして閻魔の右脇を抜ける。閻魔が振り返りざまに足元に転がる聖天剋を蹴ろうとするが、聖天剋は蛙のように一気に体を跳ね上げた瞬間、両足蹴りを閻魔の顔にたたき込む――が、足裏から返ってきた硬い感触に聖天剋は自分の攻撃が額で防がれたことを察した。
「まだそれほど動けるのはたいしたものだがな」
閻魔が聖天剋の足を掴むと、そのまま思いきり地面へと叩き付けた。
「がっ……!?」
「……岩をも通さないか」
あまりの衝撃にさしもの聖天剋も喉から呻き声をあげるが、一方で閻魔の方も聖天剋の頑丈さに何度目か分からない驚嘆の溜息を吐く。聖天剋を地面に叩きつける瞬間に地面から鋭い円錐を出現させ、肉体を貫こうとしたが、実際は『ゾルフォート』で作り上げた岩石が砕かれ、聖天剋の体も健在だった。
「チィ!」
「フン」
聖天剋が掴まれていない方の足で蹴りを放つが、それが届く前に閻魔が握った足に力を加えることで体勢を崩したことで、蹴りは紙一重で届かない。
「無駄だ……!」
「ぐっ……!」
駄目元で放った足からの『破極』は閻魔も完全にタイミングを読んでおり、『破極』が流される直前で聖天剋の足から手を離し、後隙を見せた聖天剋の懐に渾身の猿臂を叩き込む。
「~~~~~~~~~~~ッッッ!?」
左腕をなんとかギリギリで差し込んだが、閻魔の肘打ちのあまりの衝撃に腕から聞こえた異音を聖天剋ははっきりと耳にした。
Side 聖天剋
――この木偶に左腕を潰されてから何分経った……。
「いい加減諦めろ……!」
「ぅ……」
閻魔の蹴りを受け、地面を何度もバウンドしながら転がった聖天剋は折れた左腕の肘の部分と両足を使いなんとか立ち上がるが、それは聖天剋自身でも分かるくらい緩慢かつ無様なもので今閻魔に追撃を受ければまともに捌けるかどうか怪しい。
(だが、おそらくそれはない)
肩で大きく息をしながら(肩で息をするなど一体いつぶりだろう)、聖天剋は閻魔を見ると、相手は自分よりも負傷こそしていないものの、肩で大きく息をし、前髪が額に貼りつくほどに発汗し、息を荒げていた。閻魔も武人としてかなりのレベルに到達しているが、それでも聖天剋がここまで異常な粘りを見せることでかなり体力を消耗させることには成功した。
(だが、問題はここからだな……)
閻魔は疲弊しているとはいえ五体満足。それに比べ自分はというと唯一残った左腕を破壊され、体ももう既に満足に動かせないほどの怪我を負っている。神聖力には互いにまだまだ余裕があるが、聖天剋の魔法を使った移動方法は閻魔に既に読まれ始めており、逆に閻魔は未だ『ゾルフォート』の能力は『破極』に悉く無効化されており、お互いに決定打にならない状況だ。
「……ここからが、佳境だな……」
「馬鹿を言え……もう貴様に勝ち目など、ない……」
これで決める。
全身からそんな気概を感じる勢いで再び距離を詰めてきた閻魔に対し、聖天剋は普段と同じく両足を肩幅の二倍程度になるように足を開き、使えない左腕はぶらんと力なく下に垂らす。既に立っているのもやっとなほどに負傷している聖天剋だったが、しっかり構えられた体制は揺らがず、その足はしっかりと力強く大地を踏みしめていた。
「ぬぅん!」「……!」
聖の力で身体能力が強化されているとはいえ、元の技術まではそれまでの閻魔と変わらない。そして聖天剋にとって閻魔の守りについては自分と同格と評価していたが、反面責めについては自分よりも数段下だという評価を下していた。
だからこそ、その攻撃を紙一重で躱し、カウンターの膝蹴りを入れられたのも聖天剋の中では当然の事実だった。
「ぐっ……」
「どうした、動きが鈍くなっているぞ、木偶」
閻魔の体の内に潜り込んで膝蹴りを入れた聖天剋に対し、閻魔は即座に肘を振り下ろしたが、その前に聖天剋は閻魔の背後に回り込み、逆に猿臂を入れた。
(……チッ)
破壊されたのは二の腕だったことから無事な肘で攻撃したが、やはり返って来た人体とは思えない硬い感触に腕に激痛が走る。そして痛みごときで動きを止める聖天剋ではないが、直後に放たれたバックブローを躱しきれず、掠ったことで体勢を崩す。それを好機と捉え一歩前に出ようとした閻魔だったが、足を一歩出そうとして体制を崩し瞠目した。踏み込もうとした閻魔の膝上に足裏を当て動きを止めるとともに僅かに体勢を崩させる。
その間にたたらを踏んで両者の距離が開くが、その間にも閻魔は幾つもの岩石の砲丸を射出し、それを聖天剋は『流動』で躱し、閻魔を休ませないようにするために再び距離を詰める。
「いい加減に……!」
「!」
聖天剋のハイキックは躱される算段だったが、閻魔はそれをあえてノーガードで受け止めた。全快の状態であればそれで仕留めることができたかもしれないが、今の聖天剋の状態ではそこまでは敵わなかった。だが、それで閻魔も決して無視できないダメージを負い、血も流れたが、それでもその代償に聖天剋に大きな隙を作ることに成功した。
「終わりだ……ッ!?」
(馬鹿が……!)
『破極』。
足から触れた部分から発動された『破極』が閻魔の頭に叩き込まれる。頭部という急所に叩き込まれた絶技にさしもの閻魔の膝も崩れるが、それでも力を振り絞って突進し、聖天剋を体当たりで吹き飛ばした。
(『破極』を頭に流し込んで尚動けるだと……)
威力はかなり弱まっていたとはいえ、素の状態なら即死の攻撃だったうえに既に満身創痍だった聖天剋にとってはその一撃が致命傷だった。
「ぐ……ぅ、がはっ」
吹き飛ばされた後、なんとか立ち上がろうとする聖天剋だったが、それも叶わず、うつ伏せになって肘を着き吐血する。
「く、そ……」
そして霞む視界で見た先では同じく閻魔も膝を着いていたが、すぐに立ち上がり、ゆっくりとこちらへと歩いてくる。
「散々手こずらせられたが……これで終わりだ」
「…………」
迫る閻魔を前にしても慌てず、呼吸を整えることに集中するが、それでも体のダメージは限界を超えており、立ち上がることすら困難だった。
(あと一撃が限界、だろうな)
自分の体を冷静に分析し、そのうえであと一撃で本当に自分の体は動かなくなるだろうと確信する。そう判断したうえで聖天剋は戦意を殺し、攻撃の機会を窺うが、流石に閻魔もそれは見抜いたようだ。
「まだ何か策を残しているようだが……これで終わりだ」
残り数メートルの距離で閻魔は足を止めると、無数の岩の弾丸をノータイムで射出した。近づけば何かあるのではないかと考えたのだろう。大量の失血から緻密な神聖力の操作が必要なる『破極』はもう満足に放つことはできない聖天剋は舌打ちとともに最後の賭けに出た。
「またそれか……!」
『流動』。自身の体が動かないからこそ、魔力を使って距離を詰める聖天剋は、膝を着いた状態のまま地面を這うように移動する。途中で無数の岩の弾丸をその身に浴び、全身の部位を削り取られながら、それでも閻魔の下まで辿り着く。
「ッ、良いだろう! 最後の勝負、受けてやる!」
「……!」
一瞬驚いた表情を浮かべた閻魔はすぐに表情を引き締め、聖天剋を返り討ちにすべくと構える。それと同時に放った聖天剋渾身の下段から頭を狙った蹴りは閻魔が首を捻ることで頬を掠めるだけに留まる。外れた。
「――だが、それで終わりではなかろう!」
「なにっ!?」
だが、その後に蹴り足の膝を曲げ、踵で閻魔の側頭部を狙った聖天剋の蠍蹴りを閻魔が防御した時、聖天剋も思わず驚愕の声を上げた。
聖天剋の足からは『魔力執刀』が伸びており、たとえ蹴りの威力は弱くても、展開した魔力の刃で閻魔の首を獲る目算だったが、閻魔は直前で手甲である『ゾルフォート』を頭と足の間に差し込み、完璧に攻撃を止めていた。
「貴様では俺の“守り”は突破できん!」
聖典剋も一目置いていた閻魔の徒手格闘における防御力。それが最後の最後に発揮される形となり、勝負は決したと思われた――――そう、誰もが思うだろうな。
「――最後まで手を抜くな、三流」
「なに!?」
次の瞬間、聖天剋は閻魔に組み付き、口に含んでいた血を閻魔の目めがけて噴き出した。
突然の行動に閻魔は驚愕するが、今の聖天剋ならば数秒で引きはがせると冷静さを取り戻したのだろう。聖天剋の両肩を掴み、力を入れたところで、ようやく自分達の傍まで迫ったもう一人の気配に気が付いた。「まさか……!?」
「……迷うな。早く仕留めろ、エト・ヴァスティ」
「――――――――――ッ!」
『終末』。
次の瞬間、万物を分解する漆黒の光線が閻魔を聖天剋ごと貫いた。
今年もよろしくお願いします。
予定では2024年で完結予定だったのに……構想では本当にもう最後のところらへんまでは来ているのですが…。
2025年、最後までよろしくお願いします。




