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二大巨頭を打倒せよ 9

大変間が開き申し訳ございません。

Outside


「万策尽きたようだな」


 閻魔が冷淡に見つめる先で、エトは肩を大きく上下させつつ、未だ闘志の消えない瞳で閻魔を射抜いたが、反比例して体から迸る魔力は誰の目から見ても減少しており、エトの『魂魄進化(ソウル・アドバンスト)』の発動時間は確実に終わりを迎えようとしていた。

 一方閻魔は、ところどころ出血はしているものの、大きな傷も疲労もなく、ただ予想以上に手こずった敵を前にして眉間に深い皺を滲ませていた。


「未知の魔法があったとはいえ、聖の力を借りた俺がここまで時間がかかるとはな……向こうの気配からするにシズカも劣勢と見える……本当に忌々しい連中だ」

「ッ、まだ……!」


 既に勝敗は決したと断ずる閻魔の態度にエトは最後の気力を振り絞り飛び出したが、エトの拳を閻魔が掌で受け止めた瞬間、エトの身体は宙に浮き、大きく後方で吹き飛ばされた。


「がぁ……!?」


 僅かに残っていたいくつかの家屋にぶつかっても勢いは止まらず、遂にエトは『無限障壁』により作られた外壁部まで吹き飛ばされようやく勢いは止まった。エトはすぐに起き上がろうとするが、とっくに限界を迎えていた身体は思うように動かず、身体を這う赤い紫電も弱々しい。遂にエトのストックしていた魂魄も空になったのだ。


「お前の呼吸のタイミングは既に熟知した。もう貴様の拳が俺を捉えることはない」


 エトが吹き飛んだ位置まで一歩で飛んできた閻魔は、それでも油断することなくエトを警戒しながら拳を握った。「再生も打ち止めか。本当に面妖な生物だ……」


「……やはり、私では、厳しかった、ですか……」


 エトが喋るのを無視してトドメを刺さんと距離を詰める閻魔。だが、近くの岩壁から異音が聞こえ、ひび割れたのを閻魔の五感が確かに感じ取った時、エトは口角をつり上げた。

「なら、選手交代です」




 直後、壁が崩れ去り、中から聖天剋が飛び出していた。




「来たか……!」


 突然聖天剋が現れても閻魔は動揺は少なかった。いずれ現れるだろうことはこれまでの戦いで十分に織り込み済みであったし、自分より格上の翠連を屠ったこの最強の刺客ならば、たとえどのような形で姿を現しても不思議ではないと考えたからだ。

 だが、そんな心構えをしていた閻魔でも、聖天剋が魔法を使える可能性までは考慮していなかった。


――『流動』


「なっ……!?」

「久しぶりだな、木偶」


 完全に虚を突いて間合いに入った次の瞬間、空気すら切り裂く聖天剋の回し蹴りが閻魔へと炸裂した。






 そしてその一方で、天から地へと叩き落された静香も突如現れた紅蓮の髪の王女に苦渋を舐めさせられていた。


「――――少し考えればわかったはずよ。あなたじゃ私に勝つことは絶対できない」


 悠然と上空から見下ろすカレンの眼下には、両手足を地面に付け、必死に回復と防御に専念する静香の姿があった。


「ぐっ……!」

「無駄」


 静香が上空にいた三体の傀儡で魔法を発動させようとするが、その前に静香が周囲に浮遊させていた『光輝点(ビット)』が対象の急所を狙い誤らず撃ち抜く。

 だが、静香の狙いはハナからそこにはなく、一瞬でもカレンの視線を自分から外し、その間に体勢を立て直そうとする時間稼ぎが目的だった。


「まあ狙いはそんなところよね」

「!?」


 だが、静香の試みを平然と頷き、目の前に現れたカレンに対し、当の静香は手にした鉄扇でカレンの双剣による連撃をなんとか防ぐしかできなかった。


「素の状態とはいえ、ここまで防がれるのは久しぶりよ。本当に良い腕ね」

「ッ……お褒めに預かり光栄ね」


 既に『颶風纏う麒麟』を解き、『自由』以外の何の魔法による恩恵も受けていないカレンに対し、静香も最低限の身体強化魔法しか施していないものの、それでもカレンの猛攻を防ぐのが精いっぱいという状況だった。技量で言えばほぼ互角、しかし、カレン持ち前の恵まれた身体能力が、魔法を施しているとはいえ、体のピークからは確実に遠ざかっている静香よりも優位に立っているのは誰の目から見ても明らかだった。


「『傀儡』……!」


 このまま続けばいずれ自分は詰む。それを自身も察していた静香はそうなる前に手を打った。カレンとの間に自身の『傀儡』を生み出した静香は、『傀儡』にカレンの一撃を受け止めさせ、その間に『傀儡』ごとカレンを屠る魔法を組み上げる。


「『雷光千鳥』」

「『真断(トゥルーブレイク)』」


 静香が魔法を放ったとほぼ同時に、まるで発動するタイミングを読んでいたかのようにカレンが魔法を発動させた。

 静香の発動した音をも置き去りにする雷撃は拳大の真っ白な球体に触れた瞬間、完全に消失する。流石のカレンと言えど、あの至近距離でそれを見てから対処することは不可能。それを静香も分かっていたからこそ、尚の事戦っている相手がただ魔法師として優秀なだけではないと悟る。「私の手まで読まれていたということね……!」


「吹き飛びなさい」


――――『地獄嵐』。


 至近距離で発動された最上級魔法は静香の形成した障壁を容易く破壊し、術者である静香を吹き飛ばした。

 その圧倒的な魔法の数々に誰も近づくことはできず、ティリアはもちろん、皇国のS級精霊騎士の面々でさえも遠巻きに眺めていることしかできなかった。


「いい加減認めなさい」


 暴風が止み、遠くからカレンのそんな台詞が聞こえてきた時、静香は意識は保っていたものの、既に体は満身創痍ですぐに起き上がることすらできなかった。『賢者の石』の力を借り、『上級治療』で体を回復させるが、失った体力まではすぐには回復しない。カレンにとっては格好の好機であったが、彼女はそちらに目を向けず、代わりに剣を持ったまま指先を地面へと向けると、ぴゅんっと『魔弾』を放った。


「どさくさに紛れて地面に設置型魔法を仕込んだのは抜け目がないわね。けれど、あなた程度の魔法師じゃ完全に罠の魔力は消しきれない。四……いや五つね。一つだけ他の四つよりもさらに魔力の気配を消して仕込んだみたいだけれど、どのみちあなたでは私が見つけられないよう設置するのは無理よ」


 話し終わった時にはカレンの周囲の地面には五つの穴が開いており、そこからは設置型魔法が無力化されたことによる魔力の残滓が漏れ出ていた。それでも静香は変わらず微笑を浮かべていたが、その表情が強張っているのは誰の目からも明らかだった。


「考えてみなさい。あなたは先日、メルクースと手を組んでも私に負けたのよ? そんなあなたがどうして一人で私に勝てると思うのかしら。まあ逃げるのを追う手間も省けてこちらとしては願ったり叶ったりだったけれど」


 周囲を警戒しつつ(そしてそれをおくびにも出さず)、ついに静香の下まで辿り着いたカレンは冷淡に倒れる敵を見下ろした。


「……確かに、あなたの言うとおりね」


 そして静香も回復こそ終えたものの、最早立ち上がることなく、ゆっくりとした動作でカレンを見上げた。


「メルクースを利用してもあなたには勝てなかったもの。やはり、亮の邪魔があったとしても、あの時満身創痍のあなたを仕留め損なったのが最大の原因かしら」

「……皮肉なものね。あなたが産み、あなたと同じように歪な人間性を抱えているというのに、その子によって結果的に自らの死因を作ることになるなんて。やはりあなた達のような化け物は共存して生きるというのは難しいのかしら」

「あら、そんなことはないわ。私はカナキと二十年弱一緒に過ごしたし、家は空けることは多かったけれど、亮との関係は良好だったわ……成長していく亮を見ていると、本当に嬉しかったわね。彼の生き方、そして価値観は私が生きてきた中で初めて共感という感情を教えてくれたわ。やはり“あの子しかいないわ。”私は亮のためならばなんだってするわ。それが母親というものなのよね。うん、なんていっても私は亮のお母さんなんだから!」

「…………あなた、一体何を言っているの?」


 後半、最早カレンに話しかけるわけでもなく、今この場にいない実の息子を想い、ただ自分に言い聞かせてているようで、カレンは本能的な恐怖を覚えそうになる。そして、そんな感情をもつ前にケリをつけようと剣を握る手に力を込める。


「――だからね、こんなところで私は死ぬわけにはいかないのよ、母として」

「今更何をしたって……!」


 新たに傀儡を召喚しようとした静香よりも早く、カレンの剣が静香の首へと迫る。だが、それを読んでいた静香は鉄扇でかろうじて自分の首筋を護り傀儡召喚の時間を稼ぐ。「往生際の悪い……!」とカレンは舌打ちをしたが、その直後に静香が発動したのが『傀儡』ではなく、『空間転移(スペースリープ)』だということに気付く。


「だけど手遅れ!」


 誰を召喚しようがもう遅い。

 防がれたのとは逆手の剣を静香えへと突き入れようとしたところで“懐かしすぎる声”がカレンの耳朶を打った。


「おやめください、カレン様!」

「――――――ッ!?」


 聞き間違うはずはない、元従者の声。

 だが、瞬時にそれがやはり聞き間違いだということは、転移してきた女性がカレンの知っているフィーナ・トリニティとは全く似ても似つかない色白の少女だと分かったときだった。そして、その一秒にも満たないタイムラグは、この至近距離で静香に強力な反撃を与えるには十分の時間だった。


「ありがとう、楓」

「しまっ――」


 『絶対魔法・地獄嵐』。

 先ほどカレンが発動したものとは数倍の威力の魔法が静香を中心に全員を等しく巻き込んだ。


読んで頂きありがとうございます。

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