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二大巨頭を打倒せよ 4

 その十数分後、セルベスが遂に目視でも見えてきた時、ドーは遂にここまで来たという感情より、ここまで来たにも関わらずカナキ以降一度も会敵しないことに対する不信感の方が強かった。

(一応『透化』しているとはいえ、向こうも馬鹿ではないし、対策は十分に取っているはずだが。しかし、ならばどうしてここまでこうもすんなり来れたのか……む)

 その時ようやくドーは遠く上空からこちらを眺める小さな飛行物体の存在に気付いた。まさにティリアがドーを捕捉したレンズだ。ドーは魔法師であるため、無機物であるレンズに対し気付くのが遅れてしまったが、自分が捕捉されていたことに対し逆にドーは安堵を覚える。ドーにとって脅威なのは自分の想定にない状況であり、たとえそれが自分にとってプラスに働いていても、気持ち悪さを感じられずにはいられなかった。そういう意味では、自分の想定通り敵が己を捕捉していることはむしろ吉報であった。

(ということは、これから向かう先に敵が迎え撃つ算段を用意しているというわけだ)

 ドーはそう判断しながらも『透化』を解かず、強化魔法も施さず、構わず歩き続ける。敵に少しでも自分が相手のねらいに気付いたと悟らせないためのドーの罠だった。カナキから逃げきった時もそうだ。味方を利用し、自分すら囮にし、幾重にも罠を張り目的を達成する。メルプル寺院に入る前、傭兵として数々の困難な任務を達成するためのドーにとっての定石だった。

(そんな戦場が嫌で修道院に入ったというのに最後の最後で……はっ、皮肉なもんだ……!)

 内心そんなことを考えて薄く笑みを浮かべたドーの体に直後衝撃が走った。

 頭部が後方にのけぞり、一瞬ふわりと浮いたドーの体はそのままうつ伏せに倒れた。

 『透化』も解除され姿を現したドーの眉間に銃弾がきちんと着弾しているのをレンズ越しに確認したティリアはそれでも油断せずポイントを変えながら周囲を警戒する。カナキの情報だと、相手は『傀儡』のような身代わりを使うということで、ティリアも注意深く確認して狙撃を敢行したが、カナキをも騙しおおせた魔法を相手がもっているならば今ティリアが倒したのもフェイクである可能性は高い。そして実際、ティリアのその予想は間違ってなかった。

(……やはり)」

 レンズ越しにティリアが見たのは、先ほど自身が撃ち抜いた対象であるドーの体が突然燃え上がったことだった。炎は青白く、しかもまるで意思を持っているかのように一人でに動き、まるで線を引くように炎が地を這い伸びていく。

 上空のレンズでそれを確認したティリアはやがて、その炎がセルベスの敷地内を囲むように動いていることに気付いた。それは逃がすつもりはないという敵からの明確なメッセージ。ティリアは相手の意思を確認したうえで僅かに微笑を浮かべた。

「それはこちらの台詞です……!」

 ティリアは付近に飛ばしていたレンズを全てセルベスへと向かわせ、一斉に索敵を開始した。

 魔力も探知できるレンズを用いてセルベス周辺の魔力を探知しようとするが、蒼白い炎以外に魔力反応は見つからない。ドーほどのレベルになると、魔力の熾りを極限まで殺せばレンズの索敵を逃れられるだろう。そうなるとティリア達としては相手が動くのを待つしかないわけだが……。

 ティリアがそう考えた直後、ドーが仕掛けた。セルベスを囲む炎から出てきたのは数十体ものドーの幻影。それらはカナキや先ほどティリアが倒した偽物と同じくどれも本物と一切区別がつかなかったが、その全てが本体であるわけもない。

――どれが本物か分からない以上、つまり出てきたこれ全てを倒さなければいけないということですか。

 四方からゆっくりと迫り来るドーの幻影を確認し、ティリアは冷や汗を拭った。相手が実力差を良いことに正面突破を仕掛けてくればよかったのだが、時間を掛けてゆっくり制圧してくるとなると一気にこちらは苦しくなる。

 ティリアがどう出るか思考を巡らせる中、一方ドーも校庭で起きた爆発を確認して苦笑いを浮かべた。

 やはり対策は万全だったか……。

 校庭で起きたのはドーの分身の一体が設置型の魔法を踏んだことによる爆発だった。罠を踏んだドーの分身と、その周辺にいた三体の分身が巻き添えになり四散する。戦況がいつ変化するか分からない状況で時間を使って制圧するのはドーもある程度のリスクがあると分かっていたが、やはり相手も迎撃の策を用意しているという予想は間違っていなかったとドーは確信する。残っている人員的にカナキ側の戦力はもう脅威となる敵はいないと思われたが、あの様子だと校内にもまだまだ罠は設置されているだろうし、万が一にも自分が不覚を取る可能性があったかもしれない。

 だがしかしそうなると問題なのは、当初の懸念通り時間だった。戦場全体を見れば、今は皇国側がかなりの優位に立っていたが、戦場は何が起こるか分からないということを傭兵経験の長いドーは知っていた。さらにこの戦場で未だ姿を見せず、かつ皇国にとって最大の脅威である聖天剋の存在もドーに二の足を踏ませる要因の一つだった。

(仮にあの旦那が出てくればわしは戦うどころか逃げるのもやっとになるでしょうからねえ)

 今皇国軍が最も警戒している姿なき最強の殺し屋である聖天剋。ここまで劣勢に追いやられているにも関わらず出てこないという現状にドーだけでなく、閻魔や聖も確実に気がかりな点だろう。六道クラスですら手を焼く化け物をどうして自分のような小物が相手取ることができるだろう。ここで徒に時間を消費すれば聖天剋、そしてカナキやエトと言った化け物の相手をしなければいけなくなる可能性だって十分あり得る。

 ドーの発動させている『幻影炎(ミラージュフレイム)』はイェーマの『傀儡(パペット)』に比べ、保有魔力も本体と瓜二つに見える幻影を生み出すことができるが、その反面で『傀儡』と比べ魔法を扱うなどいった緻密な魔力操作をすることはできない。つまりは戦闘能力はあまり期待できないということであり、そうなると徒に時間を浪費するのは回避できない。

「ならばやはりわしもある程度のリスクは背負わなければいけんか……」

 ドーは『幻影炎(ミラージュフレイム)』に紛れ、遂にセルベスへと足を踏み入れることを決断する。聖天剋という不覚的要素を考えると相応の危険もあったが、仮に出てくるとするならば、聖天剋が出てくるのはここではないだろうとドーは判断した。

 そうしてドーは遂に自分も前線へと足を踏み出す。いくつもの幻影に囲まれる中、対象となっているある少女を探して。


読んで頂きありがとうございます。

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