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直上の天使

 特級魔法。この世界の魔法の中で最も高位に位置する魔法であり、それにはこれまでの魔法の概念を覆すオリジナルの魔法と既存の魔法を最上のものへと高め極めた『絶対魔法(アブソリュートマジック)』の二種類がある。

 では、下級魔法に位置し、本来は小さなものの形のみを透明にさせる『透化(インヴィジブル)』の魔法を『絶対魔法』の領域まで押し上げたらどうなるか――


「クソッ、一体どうなってんだ!」


 叫んだ精霊騎士が必死に周囲を警戒する中、突然背後から飛んだ『風刃』に切り裂かれる。何もない空間から突然飛んでくる魔法の数々に前線は混乱に陥っていた。


「『透化』の魔法だ! かなりの手練れだが、魔力の熾りは僅かでも必ず見えるはずだ!」

「分かってるけど、全然見えねえぞ!」


 本来であれば『透化』してる術者を捜すには周囲の魔力の動きに注意すればいい。ここにいる猛者達であればそれで必ず見つけることができる。だというのに、その場にいた誰一人としてセシリアを見つけることができないのはそれがもう彼らが知る下級魔法『透化』

の領域から遥かに逸脱しているからだった。


 ――――これがシズカも扱う『絶対魔法』、か。


「シズカ、そちらから見えるか?」

「難しいですね。体内の魔力すらも完全に周囲に同化させています。むしろ魔力を追うより、殺気などの気配を辿った方が有効かもしれません」

「……それは分かっているのだが、な」


 閻魔は造り出した高所から狼狽える戦場を見下ろすが、敵の気配を読むのは難しかった。混乱状態に陥っている戦場で気配が乱れているのもそうだが、先陣を切った敵方も相当気配を断つ術に長けているな、と閻魔は思った。実際、セシリアはこの数十日間、スイランやエトから気配を断つ指導を受けていた。その結果カナキやエトほどはいかないが、隠密行動が得意なフェルトと同等程度のレベルまで習熟していた。


「止むを得ん、か……全軍砲撃用意。前線にいる者は可能な限り自身の身を護ることに徹しろ」


 通信機越しに聞こえた閻魔の言葉に更に混乱を極める前線だったが、セシリアに察せられる前に閻魔は即座に判断を下し、手っ取り早く前線を焼野原にすることにした。「砲撃」


「やば」


 彼方から聞こえた百を越える砲撃と魔法の音にセシリアは素早く後退を選択する。防御魔法で防ぐ手もあったが、障壁を創り出せば閻魔に高確率で察知されると考えたからだ。


「そこか」

「チッ!」


 とはいえ魔法を使わず逃げていれば到底間に合わない。最低限の強化魔法『疾風(ゲイル)』を使って逃げようとしたセシリアだったが、その僅かな魔力の熾りを閻魔は逃がさなかった。攻撃魔法とは違い、強化魔法は魔力の残滓がどうしても体に残ってしまう。逃れていく魔力の僅かな気配を頼りに、閻魔は街と更地となった前線の間に十数メートルの高さがある巨大な土壁を創り出す。

 それを跳躍して飛び越えようとしたセシリアに対し、高所から閻魔が砲弾のように突っ込んだ。間一髪それを躱したセシリアだったが、再び地面へと戻るのを余儀なくされ、砲弾と魔法の雨を受け止めるしか無くなってしまう。


「これはキツいな……!」


 『透化』を解き、『無限鎧(インフィニティ・メイル)』で受け止めることを選択したセシリアは、その圧倒的な物量の砲撃を前に思わず苦笑を浮かべた。最上級魔法といえど、防ぎきれるかはギリギリだった。本当はもっと強力な防御魔法を発動させたかったが、この位置でそれを使ってしまうと、障壁の内側に閻魔と二人きりになってしまい、それこそ自殺行為だ。


「……とはいえ、結果はそう大差なかったかもしれないか……?」


 砲撃の雨が終わった後、前線で立っていた者は誰もいなかった。セシリアも体のあちこちから出血し、頭からも血を流して倒れていたが、奇跡的に致命傷には至らなかった。


「貴様一人に前線がほぼ壊滅か。割に合わんな」

「ふっ……地中に逃げられるなんて、ずるすぎやしないか……?」


 泥沼から這い上がるようにして地中から姿を現した閻魔にセシリアはそう言って半笑いを浮かべるが、閻魔は「姿を消せるお前も大概だろう」と言って、すぐに攻撃を仕掛ける。


「一つ!」


 その時、上空から飛んできたスイランが気合いの掛け声と共に『フラムルクス』を閻魔へと振り下ろした。それを当然のように手甲で受け止めた閻魔はそれと同時に攻撃を地面からの攻撃へと切り替えセシリアにトドメを刺そうとしたが、出現した足元からの岩の棘達をセシリアは華麗に跳び起きて回避する。


「既に虫の息に見えたが……」

「ふん、すまんな。見ての通りまだぴんぴんしている。見た目の割に頑丈なものでな!」


 セシリアは言葉とともに『風刃』をいくつも発射すると、閻魔はスイランを退け、岩の弾丸を創り出し相殺させようと射出させるが、セシリアの卓越した魔法操作でそれらをすべて掻い潜り、閻魔の体に掠り傷ながらダメージを負わせる。


「その魔法ならば傷一つ付かないはずだが……」

「生憎と魔法には人並み以上に精通しているのでな。ただの下級魔法を私ほど昇華させる者はいないと思うぞ」

「なるほど、これまで前線に出てくることはなかったが、お前も主力の一人ということか」


 そのとき、閻魔の体に突然巨大な重力がのしかかる。『フラムルクス』の能力を発動させたスイランが斬りかかり、そしてセシリアが同時に複数の魔法を発動させる。


「『雷魔弾(ガンド)』」

「二つ!」


 即席コンビとは思えない完璧な連携。だが、二人の攻撃が閻魔に届くことはなかった。


「――そろそろ私も参加させてもらえるかしら?」

「……カナキの母か」


 自分の剣を鉄扇で受け止めた静香を認め、スイランが呟く。同じくセシリアは閻魔の『大旱の赦炎』により魔法を無効化されていたが、彼女は閻魔から目を離さないようにしながらも、怪訝そうな声を上げた。


「……私の感覚が間違っていなければ、シズカはまだ上にいると思うのだけれど、これは一体どういうことかな?」

「あら、あの子の師という割には少し鈍感でなくて? 私は『傀儡(パペット)』、あなたの言うように本体はまだ上にいるわよ」


 スイランをはじき返した静香が優雅な笑みを浮かべてそう言うが、対してセシリアの表情は変わらず疑うような表情で、


「あまり私を馬鹿にしないでもらいたいな。イェーマと事を構えた時にその魔法は何度も目にしている。だが、あの魔法により造られた人形の魔力総量は多くても精々本体の三割強だ。今目の前にいるお前のように本体とほぼ同じ魔力総量をもつ人形など聞いたことが――――いや、()()()()()()か」


 何を察したようにセシリアがはっと目を見開いた。それからすぐに表情をこわばらせ、


『ティリア、状況が変わった。カナキ以外の持てる勢力全てをこちらに注ぎこめ』


 とカナキ達全員に聞こえる形の『思念』で指示を出した。

 それに真っ先に反応したのがすぐ傍にいたスイランで、


「おい、セシリア。どういうことか説明しろ」


 と短く質問する。表情こそ平静であったが、額にはじんわりと汗が浮かび、視線は油断なく静香の方へ

と向けられている。目の前にいる静香が『傀儡』とは思えないほどの力量を有していることに彼女も気付いており、状況が自分達にとってよくない方向に運んでいると本能的に察しているようだった。


「話すまでもないと思うが、お前の想像している通りだと思うぞ、スイラン」


 そしてスイランの脳裏によぎった可能性を読み取ったように、セシリアがスイランの考えを肯定する発言をする。「お前の感じているように、目の前にいるシズカこそ本体だ」


「馬鹿な! それじゃあ直上にある膨大な神聖力の塊は一体どう説明する!」

「ふう、まったく、カナキから説明を受けていたが、実際はここまで見事に騙されるものなのだな……つくづく我ながら、どんな存在を敵に回したのかと愚かさを嘆きたくなるな」

「セシリア、説明しろ!」


 戦場では決して感情を見せることのないスイランが必死な表情で叫ぶと、セシリアはどこか茫然としたような半笑いした表情を浮かべて言った。




「上にいるのが、かの聖イリヤウス様だよ」




「……………………………は?」

「大司教のみが有するという精霊装。能力は対象した人間の印象操作と六道の精霊装全ての操作を可能にする、だったか。はっ、印象操作といっても限度があるだろう。まさか我々全員の認識をも歪ませることができるなど魔法でいえば最早特級相当ではないか」


 思わずスイランは静香から目を離し上空を見た。そこに見えるのは相変わらず目の前にいる静香そのものに見えたが、その静香の中から微かに、ほんの微かに感じた気配にスイランは驚嘆する。


「『原初の剣』、『リッパ―』、それに『ウラヌス』まで……? そんな、まさか、六道の精霊装を、そこまでの数扱うなど……」

「驚くのは仕方ないと思うけど、敵を前にそれは感心しないわね~」

「ッ!」


 突如動いた静香の鉄扇はスイランに届く直前でセシリアの『魔力障壁』に阻まれた。


「お前こそ、若者に奇襲など感心せんぞ。それに、絶望した表情を浮かべる娘を眺めるというのも、愉悦の最たるものではないか」

「……ふふ、それには賛同するけど、随分硬い『魔力障壁』だこと。閻魔様も、わざわざ魔法の発動を見逃すだなんて意地悪しないでも良いではないですか?」

「…………」


 無言を貫く閻魔だったが、その実魔法を見逃したのではなく、あまりの発動速度の速さに防げなかったというのが正解だった。先ほど掠り傷とはいえ、自身の体に傷を付けたこの女はどうやら想像以上に厄介なようだ。閻魔は静かに目の前の女に対して警戒心を高め、はっきりと戦闘態勢に入った。


『スイラン、正直戦況は絶望的だが、何もそれは今に始まったことではない。これから私達はこの怪物二人の相手をしながら後退する。お互い、援護する余裕はないから、自分の身は自分で護るのだぞ』


 『思念』によるセシリアの指示にスイランは一度だけ小さく呼吸した。


「まったく誰に言っている……貴様こそしっかり付いてこい!」


読んで頂きありがとうございます。

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