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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
終わりが始まるまでの30日
401/461

それは唐突な終焉だった

Outside


 アーザロマネフ連邦ではその日、カナキ・タイガを対象に行われる皇国の大攻勢についてどう対応するのかの最終確認が行われていた。


「これまでの話をまとめると、積極的に支援するほどの義理はないが、だからといってただ静観するだけというには皇国に損害を与えられる滅多にない機会だということだな」


 議長であるアルナミネスの言葉にゼロが頷いた。


「ああ。数こそ圧倒的に足りないが、今のあいつの周りには一級相当の魔法師が結構いる。勝利なんていうことは万が一にも考えられんが善戦することは考えられる。漁夫の利は好かんが、今はそうも言ってられんだろう」

「うむ。できればカナキにも多少は援助を送りたいがそこまで余裕はないからな……ナトラ、分かっているだろうが、今は我慢だぞ」

「む、分かってるよ母様。それくらいボクだって弁えてるさ」


 心外だとばかりに頬を膨らませるナトラにアルナミネスは憂慮の溜息を吐く。母である彼女とて娘がそこまで短慮だとは思っていないが、日頃の子供っぽい仕草を見るとどうにも不安が拭えない。数百年を生きる魔人であるアルナミネスでも、母としての悩みは普通の人間と同じだった。


「――しかし、それでも妾達が勝てる保証はどこにもないのじゃ」


 ゼロの隣に座っていた女性の言葉に全員の視線が向く。唯一隣に座るゼロは小さく溜息を吐きながら。


「ナターシャ様……ご懸念は分かりますが、今更そんなことを言っていても仕方ないでしょう」


 ゼロの言葉にもナターシャ・クロノスは傲然とした態度で表情を変えなかった。


「嫌じゃ。妾は何よりも不安を嫌う。それはお主も分かっておるじゃろう?」


 現代最強の魔法使いのゼロにも態度の大きいこの少女こそ、クロノス帝国唯一の生き残りの王族であるナターシャ・クロノス。世間では『妖術姫』とも呼ばれており、卓越した魔法の才能で帝国ナンバー2となった逸材である。しかし、その性格は我儘の一言に尽き、連合国内のこのような会議でもまぜっかえすような意見が多く、ゼロでさえも手を焼いていた。


「ナターシャ様、いい加減大人になってください……戦場に絶対はありません。帝都が滅んだ時、それは身をもって体感しているはずです」

「だからこそじゃ。妾はあの経験から、安全ということの大切さを知った。何が起こるか分からないからこそ、策を幾重にも練り、戦う前に勝つ。別にこれはおかしくなかろう?」

「それはそうですが……」

「ほれ、そうじゃろう? 分かったら早く“絶対に勝てる策”を出せ」

「おい、アイン殿……いい加減私も限界ですよ」


 堪忍袋の緒が切れたとばかりに席を立ち忌々し気にナターシャを見るエリアス。「これまでは他国とはいえ王家なので黙っていましたが、これ以上彼女のせいで会議の場を荒らされるのはうんざりです」


「ほう、貴様、エリアスと言ったか? 妾に向かって随分な態度じゃのう?」

「お待ちくださいナターシャ様。おい、エリアスも。仲間内で揉めても仕方ないだろう」

「フン、仲間じゃと? 所詮こやつらとは利害が一致しておるから一時的に手を組んでいるのみ。ここで絶対の策がなければ妾にも考えがあるぞ?」

「考えがあるだと……? 終始話し合いの場で余計なことしか言わないあなたにどんな考えがある!?」

「エリアス、ここは抑えてくれ」


 ゼロが仲介するという珍しい光景にバトレーやシリュウは目を丸くするばかりだったが、アルナミネスだけはナターシャの様子に違和感を抱いていた。


「妾の考えより、先に質問に答えよ。貴様は、貴様らはここで絶対に勝つ策があるのか、否か」

「戦場に絶対はない! カレン様と違い、自らは王城に籠っていたあなたには分からないかもしれないがな!」

「そうか……なら、もう良い」




 その瞬間、天井がひしゃげ、灼熱の暴風が部屋にいた全員を襲った。




 直前まで魔力の反応に一切気付かず、全員が生身のまま、その特級魔法を喰らった。


「あー、流石は特級魔法じゃな。初めて見たがやはり最上級と比べても桁違いじゃのう」


 幾重もの強化魔法を施されて作られた連邦の議会場が瓦礫と化し、その中心で唯一無傷だったナターシャが周囲を茫然と見渡し発した一言目がそれだった。そんな彼女を魔法の術者である静香は宙から降りてくるとにこやかに笑みを浮かべた。


「ようやく決心をしてくれたみたいで良かったわ。あなたが余計なことを言わないかひやひやしながら聞いていたわよ」

「頭上でいつ爆弾が落とされるか分からないのもあなたのことをバラすわけじゃろ。それよりもこれで……」

「ええ、あなたは晴れて皇国の貴族よ。聖イリヤウス様も必ずお認めになるわ」

「よしっ! これで妾も本当の本当に安全じゃ!」


 歓喜して飛び跳ねるナターシャを母親のようを笑みで眺める静香。そのまま彼女は魔力を熾すと、


「『世界創造(ワールドクリエイト)』」

「『世界創造(ワールドクリエイト)』」


 瓦礫を跳ね除け姿を現したゼロが発動した魔法と同じものを同時に発動していた。


「なにっ!?」


 まさか相手が自分の切り札と同じ魔法を使って対抗してくるとは思わず動揺を隠せないゼロ。お互いの魔法は相殺し合い、凄まじい魔力のぶつかり合いで周囲を豪風が渦巻く。そしてゼロと対峙する静香の後ろで同じく瓦礫から飛び出したエリアスが静香の首筋に躊躇いなく剣を振り下ろすが……。


「なっ!?」

「『時空の隔たり』」


 剣は見えない壁に阻まれるかのようにその白いうなじの直前でぴたりと止まる。驚愕するエリアスと対照的に、静香は振り向きざまに鉄扇を振るった。


「がっ――」


 狙い誤らずそれはエリアスの喉元を切り裂き、ただでさえ満身創痍だった剣聖の体に生命活動が続行不可能となる致命的な一撃を与えた。剣を落とし、膝から崩れ落ちるエリアスを最後まで見届けることなく、今度は正面から襲ってきたゼロに対し鉄扇を構える。


「貴様、どうやってここに――」

「――――そりゃ、妖術姫たる妾が招き入れたしかあるまい」


 ゼロの背中から血しぶきが舞った。

 目を見開き背後を見るゼロの視界に、満面の笑みで自分を見つめる主君(ナターシャ)の姿があった。


「ゼロ、意外にあんたは情に脆いから気を付けろと妾直々にあれだけ忠告したというのに……」

「な、たーしゃ……」

「『重力砲(グラヴィティ・マグナム)』」


 ゼロを中心に途方もない重力の塊が落ちる。強化魔法がなくても『絶対魔法・地獄嵐(アブソリュートマジック・ヘルテンペスト)』に耐えたその体も、特級最高威力の魔法の一つであるその魔法に耐えることはできなかった。


「うわあ、グロ。なんかミキサーにかけられたみたいにぐちゃぐちゃだ~」

「念には念を、ね」


 最早元が人間だったのかすら判然としない死体は地を穿ち、深い地中の中で肉塊となり果てていた。現代最強と謳われた魔法師の最期に、二人はこれといった感慨を抱くことなく数秒で目を離した。


「さて、仕事はこなしたし、早いところ撤収しましょう。ナターシャ、彼女はどこ?」

「あそこじゃ。あちらも妾より格上じゃからな。そなたの特級魔法に併せて弱体化の魔法も複数掛けておいた」

「ちょっと、それ下手したら死んでたかもしれないんじゃない? いやよ、聖イリヤウス様の機嫌を損ねるの」

「大丈夫じゃ。アレも十分怪物じゃから、あの程度では死んでおらん。ほら、行くぞ」


 『念動』を使い、ナターシャはその少女――――ナトラ・レンベルを抱えると、静香と共に転移魔法を使って姿を消した。

 この数時間後、これは対皇国最大勢力であった連合国の敗北という題で全世界に流布された。

 『メル』十位内のエリアス・リ・モンドール、ゼロ・アインの両名の死亡。そしてナトラ・レンベルが捕虜として皇国に連れ去られる。そして同時にもう一つ、魔王の魔法を扱う謎の女と、帝国最後の王家ナターシャ・クロノスの離反、その両名に加え地獄道、閻魔が一週間後のカナキ・タイガへの攻勢の指揮官として選出され、カナキの戦う相手が明白になったという事実が、いよいよ決戦だとカナキの覚悟を決める最後の一押しとなった。


やや駆け足?

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