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懐かしき仇敵

「『幻獣化』! だとすればあれは『戦争屋』のガトーですか!?」


 そう叫んだのはネロ。そして呼ばれたガトーはそれを無視し、視線をアンブラウスへと移した。


「ああん? お前はあのときいた爺、ローウェン・マナ・アンブラウスじゃねえか? おいおい、まだ生きてんのかよ。こりゃ幸運だぜ!」

「待て、ガトー!」


 次の獲物に向けて突進しようとしたガトーをセシリアが一喝する。その声に頭に血が上っているガトーでさえきっちりと静止した。


「げっ……セシリアか!?」

「セシリア“師匠”だ馬鹿者。いくつになっても相変わらず短絡的な男だな……」

「おいっ!?」


 セシリアの『電撃(サンダー)』が飛ぶ。『幻獣化』により中級魔法以下ならかすり傷さえ付けられない体になっているはずのガトーは、それでもセシリアの攻撃が直撃すると苦痛に顔を歪ませた。(多分あの顔は痛いんだと思う)


「な、なにしやがる!」

「なにしやがる、ではなかろう。お前は今蘇生され、私と敵対しているのだ。なら、その敵に対して攻撃してもおかしくなかろう?」

「セシリアてめえ……俺と殺ろうって――」

「『電撃(サンダー)』」

「うお!?」


 再び放たれたセシリアの魔法をガトーは巨体に見合わない速度で避ける。心なしか声には焦りが混じっていた気がする。


「それやめろよ! 来るならもっと俺を殺せるような本気の魔法で来いよ!」

「何を言っている。お前を倒しきるなど今の私では骨が折れる。見たところ、外部から魔力供給もされているようだしな。ならば私ができることとすれば時間稼ぎくらいしかなかろう。幸い、お前の動きの癖や手順は把握している。お前が修行中最も浴びたであろう『電撃(サンダー)』を久しぶりに与えてやろう」

「いらねえよそんなもん!」


 叫び突撃するガトーを容易く躱し、次々と『電撃(サンダー)』を入れるセシリア。一見ただの嫌がらせだけにも見えるが、『電撃(サンダー)』は数多の魔法の中でもかなり速い部類に属する魔法だ。それをセシリアのような高速発動に加えガトーの『幻獣化』すら貫通するほどの威力であれば時間稼ぎにはもってこいだ。まったく、いつもいつも彼女の老獪さには脱帽するよ。


「――まったく、本当にガトーはだらしないんだから」

「なっ……死体が……!?」


 驚き指さす連邦兵の先で、先ほどガトーに狩られた魔法師たちが一人、また一人と起き上がる。だがそれは明らかに生きていられる傷ではなかったし、表情は虚ろで、口は常に開いていた。


「アリスさんか……」

「せいか~い♡」


 姿を現したのは、人形のような可愛らしい容姿のアリス・レゾンテートルだった。


「ひっさしぶり~! どう、最近人、殺してる?」

「…………」

「え、無視!?」


 ロラン・フォートとして僕を見ている人が多数いるのでアリスの言葉も完全無視。彼女はショックを受けたような表情をしていたが応じるつもりはない。


「『屍術姫』か! だが本体が姿を現せば……!」


 アンブラウスが即座に『雷光千鳥』を発動させる。最上級魔法の中でも最速の技を即座に放つ判断力には感嘆するが、向こうもアリス潰しをしてくることは想定済みだ。


「お主、矢面に立つ必要があったか?」

「! ミラか!」


 『時空の壁』でアンブラウスの攻撃を防いだミラは扇子で口元を隠し、一瞬だけ僕に視線を送った。僕が少しだけ首を縦に振ると満足したように視線を中央に戻した。


「ありがと、ししょ~。これで私は気兼ねなく攻撃に集中できるわ~」

「お主、師匠を盾にするなど……!」


 抗議の声を上げるミラを無視してアリスが次々と魔法を発動させる。流石に格上のアンブラウス達には阻まれるが、奇襲で狼狽えていた一般の連邦兵たちは次々とアリスの魔法の餌食になっていく。


「あはっ! 死体はすぐに私が有効活用してあげるから安心して死んでいいわよ!」

「させるか……『真断(トゥルーブレイク)』」

「これは、アリス!」


 見たことのない魔法だった。

 アルナミネスは右手から半透明の拳ほどの大きさの魔法弾を放った。その速度は決して遅くはなかったが、ミラの『時空の壁』の生成の方が明らかに早かった。確実に防がれる。そう誰もが思った攻撃はしかし、アルナミネスの魔法がミラの魔法に触れた瞬間、両者は跡形もなく消え去った。それこそ最初から存在しなかったかのように完璧に、だ。


「ッ……アリス!」

「悪いけど後退するなら師匠だけして!」


 一瞬の攻防で彼我の魔法師としての実力を理解したミラが後退を指示するがアリスは当然の如く無視。逆に突進する形になった弟子をミラは悲痛な顔で静止する。「よせ、我々とは次元が……」


「『光輝点(シャイニング)』!」

「む?」


 だがそこで後方から迫りくる幾つもの光の球体にアンブラウスが反応した。

 それらの魔法を“上級魔法で”一つずつ相殺させた時、その後方から凄まじい魔力が包まれるのをアンブラウスとアルナミネスは感知した。


「王女サンの仲間を誘拐するなんて、血迷ったのかよお前らは!」


 懐かしい光の奔流。その後に放たれるは最上級魔法すら断絶する必殺の刃。ラグーンドームでの彼との死闘を思い出し、思わず目を細めた。

 視線の先、シズクが傍に控える中、イドウ・シリュウはまさに主人公の如く大剣を大上段から振り放った。「『閃空(ライトニング)』ッッ!!」


「あのうつけめ……!」


 珍しくアンブラウスが罵りながらも即座に迎撃の魔法を発動させようとする。だがそこに意外な人物が割って入った。


「受け止めろ、『カオナシ』」

「――いちぎゃ!」

「なにぃ!?」


 突然現れた異形の怪物は正面からシリュウ最大出力の魔法を受け止めた。カオナシの異能である絶対的魔法耐性は相当なもので、『閃空(ライトニング)』を受けても消し飛ぶことなく受け止め切ったが、それでもかなりの威力らしく、その身体に痛々しい火傷を負っていた。


「カオナシをあそこまで追い込んだ?」

「マサト君! 彼の魔法の威力は絶大だ! いくら防御力に秀でた『守護者』でも正面からは厳しい!」

「――だが助かったぞ!」


 アンブラウスが『流動(フロウ)』で一気に間合いを詰めると、シリュウではなくシズクを狙って攻撃を仕掛ける。アンブラウスの多彩な魔法を前にすぐに劣勢に陥るシズクだが、彼女のもっている『天眼』とシリュウの迅速なフォローによって束の間の膠着状態が生まれる。そして、シリュウ達の支援が無ければ劣勢になるのがアリスだ。


「がっ!」


 アルナミネスの魔法を前に防御しきれず、小さな体躯はゴムまりのように跳ねる。致命傷とまではいかないが、それなりに大きなダメージを負ったアリスは口元を手で拭った。


「これが『救済の魔人』……あの頃のお姫様の非じゃないわね」

「お前も禁術とはいえよくもそれだけの魔法を使いこなす。真っ当な道を生きれば歴史に名を残す魔法師になったろうに」


 アルナミネスが追撃を加えようとしたそのとき、横合いからそれを阻止する手勢が現れる。


「『蒼穹の矢』!」


 それは空を貫く蒼い流星のようだった。

 アルナミネスはそれを“一瞥もせず”叩き落すが、直後に折られた矢から青い煙が彼女を包む。


「これは……」


 これには流石にたじろぐアルナミネスだが、様子からしてあの煙に毒性などはない。精々しばらく彼女を足止めするくらいものだろう。


「カナキくん」


 そのときだった。

 いつの間にかこちらへ来ていたアリスが僕の耳元で囁く。「不自然にならないように私に付いてきて。それで“全部上手くいく”」


「……信用しろと?」


 そう返すと、アリスは目と鼻の先の距離でウインクした。「もちろん。殺し合った仲じゃない?」


「はあ……」


 僕は溜息を吐いた。だがそれだけだった。

 僕の解答を理解したアリスが嬉しそうに破顔すると付いてきてとばかりに僕に魔法をぶち込んだ。


「次の獲物はアンタよ! 頑張って私を“殺しちゃいなさい”!」


シリュウ・シズクは第一部の「主人公来訪」編が初登場ですね。

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