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意思確認

「結論から言いますと、クロノスの首都ギネアに要請した援軍は戦争による人手不足のため拒否されました。自分の街は自分で防衛するようにと」


 急遽開かれた全校集会。

 そこで開口一番放たれたフレイムの言葉に生徒や教員の一部から落胆の色が見えた。

 だが、僕たち巡回活動に参加していた教員からすれば特に驚きはない。なにせスイランを倒した相手の正体を僕たちは終ぞつかめなかったのだ。正体不明の手配者にスイラン級の手勢を寄越すほど帝国だって戦力を持て余しているわけではないのだ。


「この巡回活動は元々ポートレイルからの要請に沿い活動していますが、そもそもラムダス魔法学校はそのポートレイルとは一蓮托生の関係です。どちらかを損なえばもう一方も瓦解するのは目に見えています。想像してください。ポートレイルが手配者の手に落ちた時、あなた方の普段の生活はどうなりますか? 食料は? 移動手段は? 街が陥落すれば勉学はおろか、毎日手配者との闘いに明け暮れる日々になるかもしれません」


 フレイムが最悪の状況を生徒に染みこませるようにゆっくりと重々しい口調で話す。エトの狙いが分からない以上、街が手配者の手に落ちる可能性も確かに存在する。フレイムは今、ポートレイルの問題を生徒たちが自分事として考えられるように誘導しているのだ。


「当然、私たち教員も最善を尽くします。現在は私を含め四名の先生方に協力頂いていますが、正直それだけでは人数不足と考えています。そこで私が直接掛け合ったところ、なんと、学長自らが手配者掃討にお力添えしてくださることになりました」


 おお、と観衆がどよめいた。

 これには僕とセシリアもびっくり。セシリアを見ると、彼女も僕と同じ驚いた表情でこちらを見た。


「マスター・モルディが自ら前線に立つのか……?」

「確かこの前赴任したストゥルス先生もかなり強いんでしょ? これなら何とかなるんじゃない?」


 生徒が俄かに活気づく中、フレイムが釘を刺すように告げる。


「ですが当然、学長一人ではポートレイル全てをカバーすることはできません。そもそも手配者を発見できなければ討伐はできませんし、そのためには捜索の目を広げなければなりません。そこで、新たに巡回活動に参加する生徒を募集します」


 フレイムの言葉に場内に屋内競技場に緊張が走った。


「募集生徒も三級魔法師から四級魔法師以上へと制限を緩和します。その分、これまでの二人一組だった巡回態勢を四人一組に変更し、そこに必ず準二級魔法師以上の人員を含ませます。生徒たちだけではこのラインをクリアできませんので、教員の中からも更に声を掛けさせていただいて巡回活動に参加していただきます」


 突然水を向けられた教員たちに僅かに緊張が走った。これまではそれこそ対岸の火事を眺める気分だった教員も少なくないだろうが、マスター・モルディが直々に参加し、そのうえでフレイムに協力を頼まれれば断る方が難しいだろう。観念したような深い吐息が教員席を包んだ。


「治療体制にも万全を期します。フォート先生をはじめ、『上級治療(ハイヒール)』を使える人員を本部へ常駐させ、必要に応じて転移魔法で現場に急行します。転移魔法については、この学校では学長と三年のネロ・リ・クェースト君の二名が扱えますが、魔力切れを防ぐため、転移させるかどうかの判断はこちらでさせてもらいます」


 つまり、よほど緊急性がなければ転移魔法は使わないということか。確かに、『空間転移(スペース・リープ)』は魔力の損耗が激しいと聞く。基本的に動ける者は自力で本部まで戻ってくるようにしないと流石のあの二人でもすぐに魔力切れを起こすだろう。生徒へ安心材料とともにしっかりとリスクについても言及する。このあたりにフレイム・ギャッツという教師の誠実さが見て取れた。


「これらを踏まえたうえで新たに巡回活動に参加してくれる生徒は担任か私の所まで来てください。募集締め切りは設定しません。いつでも参加する意志のある生徒は歓迎します。活動も今日から再開しますので、既に参加している生徒はそのつもりでいてください」


 その言葉を最後に集会の終了が告げられ、生徒たちは各々の教室に戻り始める。その足取りはゆっくりで、隣を歩く友人と参加するかどうかを囁きながら屋内競技場を後にしていく。


「さて、フレイム教諭の演説は見事。今後どうなるかな」


 生徒たちを見つめながらセシリアが呟く。


「そうですね、四級魔法師も参加できるようになりましたが、恐らく四級で参加する生徒は少ないでしょうね。なにせあのスイラン君がやられたという話はもう学校で知らない人はいないといった感じですから」

「ふっ、そのスイランといい、お前のクラスの生徒は大丈夫なのか? 確かテオ・レオタレィも負傷したと聞いたが」

「テオ君は龍人種ですからね。かなりぼこぼこにされましたが命に別状はありませんよ。それよりもどちらかというと、スイラン君の方が大変ですね」

「大変? 重傷ということか?」


 僕は力なく首を振る。こういう考えは不謹慎かもしれないが、重傷であった方がどれだけ良かったことか。


「怪我は大したことありません。問題は自分が苦渋を舐めさせられたことが相当頭にきているみたいで……碌に治療も受けず、また姿を眩ましているんです」


 セシリアは呆れた表情を浮かべた。


「懲りない奴だな。お前の話だと、よほど一方的な敗北だったのだろう? 再戦したところで結果は同じだろうに」

「そうとも限りません。スイラン君はあの戦いで魔法、そして精霊装の能力を使っていません。多分、彼女は彼女なりに周辺のことを考慮して戦闘していたのでしょう」


 まあそれでも十分建物は破壊されたのだが。


「では次にスイランがアレと対峙したときは……」

「ええ、本気も本気。それこそ、手配者を討伐できたとしても、街が修繕不能になるくらいまで破壊され尽くすことになるかもしれません」

「大火力突出系の魔法師の戦いはそれだけで周辺環境を変えてしまうからな……」

「セシリアさんが言うと説得力がありますね……」

「まあ範囲魔法は得意ではない私でも、やろうと思えばポートレイルくらいの街なら一発で吹き飛ばせるからな」


 さらりと恐ろしいことを言うセシリア。僕の周りはなんでいつもこんな規格外の人しかいないのだろうか。


「まあ私もこの学校での生活は気に入っている。もしお前の想定するような事態になったときは、私も最大限周辺の被害を抑えられるように動いてやるよ」

「ありがとうございます」

「なに、気にするな。それよりも、お前も早く自分の立ち位置をはっきりさせるといいさ。迷っているままではいざという時に判断が鈍るからな」


 そう言って生徒と同じく自分の教室へと歩き始めたセシリア。彼女の言葉に僕は頬を掻きながら苦笑いを浮かべる。本当に僕の師匠はなんでもお見通しなんだな……だが、確かにセシリアの言う通り、僕の立ち振る舞いもはっきりしておかないといけない。

 エトのこと、スイランのこと、自分自身のこと……考えるべきことはたくさんあったが、一つずつ解決していくしかない。そう考えながら、僕も自分の教室へと足を向けた。






 全校集会の後、僕は特別クラスのホームルームで早速先ほどの話を切り出した。


「ということで、先ほど全校集会でもあった通り、改めて巡回活動に参加する生徒を募集する。これは、以前まで参加していた生徒も改めて参加するかどうかを決める最終確認と言ってもいい。この中には直接手配者と戦った人も少なくないだろう。それを踏まえ、参加する意志があるかどうかを尋ねたい」

「もちろん、参加させていただきます」


 僕の問いに即答したのはソフィーだ。彼女の瞳は義勇に燃えており、街を守りたいという意志がはっきりと見て取れる。


「うん、わかった。お願いするよ」

「お任せください」


 力強く頷くソフィー。それに続いて意外なところから手が挙がった。


「私も参加します」

「ッ、アルティ君もか……」


 アルティもまっすぐに手を挙げ、力強い瞳で僕を射抜いた。そこにはソフィーと同じく確固とした意志が見て取れる。


 ――エト君と戦うことになるかもしれない。それでもいいのかい?

 ――うん。エトちゃんが何をするつもりなのかは分からないけど、私はこの街を、学校を守りたい。エトちゃんがそれを壊すっていうなら、私が止めなくちゃいけないの!


 『思念(メッセージ)』を用いて短いやりとりを終えた僕は、ふう、と小さく溜息を吐いた。


「わかった。君も参加リストに加えておくよ」

「なんかソフィーちゃんの時と比べて私への対応冷たくない!?」

「まあ正直ソフィー君は戦力として期待できるけど、アルティ君の場合は逆に心配になって仕事が手に付かなくなりそうだからね」

「戦力どころかむしろ足手まとい扱いなの!?」


 がーんとショックを受けるアルティに教室からくすくす笑い声が上がった。アルティのすごい所は魔法ではなく、ただいるだけで周りをこうも簡単に活気づけることかもしれないね。


「アルティなら参加するかもと思ったっすけど……しょうがない、私も参加するっす」

「ええっ、テオちゃん大丈夫なの!?」


 そして、隣に座るテオの発言にアルティが驚いて大きな声を上げた。僕や他の生徒も驚いたように視線を彼女に向ける。

 テオは、まだ痛々しく包帯が巻かれている腕を擦りながら、「あはは……」と困ったように笑った。


「ぶっちゃけ、あの手配者ともう一度戦うのは勘弁してほしいっすけど、ここで私が不参加になってアルティに何かあった時の方が何よりも避けたい事態っすからね……街のためっていうより、アルティのために、私も人一肌脱ぐっすよ」

「て、テオちゃん……!」


 感極まったようにじーんとテオを見つめるアルティ。それを見て前方に座っていたネロが合点が言ったように手を叩き、


「つまりテオさんもアルティさんのことが心配だということでは?」

「ま、そういうことっすね」

「ええええっ!」


 項垂れるアルティを見て、今度こそ教室に朗らかな笑いが満ちる。


「まあそれだけテオ君もアルティ君が心配だということだよ。それで、残るネロ君とマサト君はどうするんだい?」

「私は元々参加するよう学長にも言われているので参加します。ここにはいないスイランさんも心配ですし」

「ああー、スイランのことっすから、今頃血眼になって自分を負かした手配者を捜してそうっすよね」

「はい。そして見つけた暁には周囲のことなど関係なく全力で敵を倒しにいくでしょう」

「瓦礫となったポートレイルが目に浮かびますね……」


 ネロ、テオ、そしてソフィーがクラスメイトの性格を考え、冷や汗を浮かべる。うん、僕もその光景が容易に想像できるよ……。


「余計、急いで手配者をこちらで捕まえる必要がありそうだね。それで、マサト君は――」

「参加しますよ。スイランのことは僕も心配ですし」


 こちらを見もせずそう言ったマサト。何となく参加はするだろうとは思っていたが、スイランを案じる言葉が出たことは意外だった。どこか達観したような雰囲気のあるマサトだが、こう見えて案外仲間想いなのだろうか。

 ともかく、特別クラスはこうして全員が参加することが決まった。その日の夜の集合場所と時間を伝え、僕はホームルームの終了を告げた。


読んでいただきありがとうございます。

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