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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
友曰く、出会いとは可能性であり、別れも等しく可能性である
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貴公子と血斧

曰く編最終章です。

 ミッシェルから伝えられた皇国の大攻勢――おそらくこの世界の趨勢を決める戦いは、両軍共に地平線まで届くであろうほどの大軍が睨みを利かせていた。

 聖天剋と呼ばれる知る人ぞ知るこの世界最高峰の暗殺者からもたらされた情報を、カルガンチュア軍は最初こそ情報の信憑性を訝しんだが、その直後に皇国軍で大きな人の動きの報告が次々とあがったことから、上層部はこれを決して無視できない情報と判断。共和国の盟主である竜族代表のウルクがすぐに各種族の代表と連絡を取り、こちらも最大戦力を準備することを取り決めた。

 そして、時が流れるにつれ、続々と集結する皇国軍を見て、ウルクは皇国も最大戦力をぶつけてくると判断。各種族代表の名のある勇士達を惜しみなく前線へ注ぎ込み、共和国もこれを最後の戦いにすると決めた背水の陣を敷くこととなった。


「……それで、こういうときに僕ら人類が一番危険な場所に配属されるってわけね」


 そう呟いたのは元イスカン帝国の将軍、ソルシオ・コミューンだ。S級精霊装「イグニス」を操り、「緋色の貴公子」と呼ばれた彼も、人外種中心の国、カルガンチュア共和国では奴隷兵士や罪人兵士と同様に最前線に就かされていた。


「将軍…しかし奴らのいいなりで良かったのですか? いくら人間蔑視の傾向が強いとはいえ、将軍の実力は上層部なら誰もが認めています。あんなドワーフのいいなりになる必要などなかったのでは?」


 帝国随一の槍使いであり、ソルシオの側近でもあるグロウ・シムバック大佐の言葉にソルシオは肩をすくめる。


「ドワーフの部族長っていうあのおじさんに何を言ったところで無駄だよ。それに、俺個人としても話したい人がいたからね」


 ソルシオの視線の先には丁度、皇国軍から抜けてこちらに向けて歩いてくる二つの人影が見えた。共和国軍が俄に活気だったが、それを各部隊長が宥める。あの人影が開戦前の最後通告をしにくる向こうの使者であることを指揮官クラスは理解しているのだろう。


「それじゃあ俺らもいこうか、大佐」

「将軍自ら行かれるのですか?」


 少し驚いた顔をするグロウにソルシオは当然とばかりに頷く。


「大人しくこの配置に就いたのはこれが大半の理由だからね」


 やがてソルシオ達と皇国の使者は丁度両軍の真ん中、にらみ合いの中央にて対面した。


「我が聖アーノルド皇国大司教、イリヤウス・アグィナ・ヴァリニャーノ様のお言葉を伝えに来た」


 開口一番にそう言ったのは、燃えるような紅蓮の髪が特徴的な女性、レイラ・ブラウニー大佐だ。傍には連隊長を務める爽やかな青年、ミッシェル・コンスタンも控えており、特段武器も持たずに構えているが、何かあればすぐに対応できるようにしていた。


「我々の主、エーテル神は他宗教に対しても寛大な御方です。それ故、我々皇国の民も、神々に倣い、他者に寛容な心を持っています。今すぐ全軍武装解除すれば、あなた方の国に住まう民をいたずらに傷つけたりはしません。降伏し、同じ神へ祈りを捧げる同士になりましょう――この提案が呑めない場合、我々は即刻貴国に対して聖戦を敢行する」

「残念ながらそれは出来ない相談です」


 レイラの言葉に対して瞬時にソルシオはそう言った。


「それに、あなた方の国がどれだけ横暴なことを言っているのか、敬虔な信者であるあなたでも分かっているでしょう?」

「黙りなさい。エーテル教のなんたるかも理解していないあなたにエーテル教の、ひいては聖イリヤウス様の深淵なお考えなど理解できるはずもありません」


 二人の応酬を聞きながら、グロウはなぜ将軍がわざわざこんな平行線の論争をするために最前線を選択したのか疑問に思った。特に、全面対決に向けて秒読みの今、いつどのタイミングで襲われてもおかしくないほど緊迫したこの場面、進んで志願するなどよほどの酔狂か狂信者だけだ。


「……これ以上は埒があきませんね」


 そして、当然の如く吐かれたレイラの言葉にミッシェルも肩をすくめる。始めから事の展望は見えていただけで、彼もなぜわざわざレイラが使者としての任を買って出たのかが不思議だったのだ。


「……レイラさん、今回ばかりは退いてくれませんか?」


 しかし、直後に放たれたソルシオの言葉にグロウとミッシェルは驚愕した。


「言葉を慎みなさい。あなたのような異教の信徒にそのような言葉遣いで話される謂われはありません」

「レイラさん、俺はあなたに恩を感じています。出来ることならあなたを殺したくないし、他の奴にだって殺させたくないんだ」


 ソルシオの珍しく熱の入った口調にグロウは驚きを隠すことができず、まじまじと彼の横顔を見つめてしまう。帝国の歴代最年少で将軍の座に就き、緋色の貴公子と恐れられていたソルシオが、今は年相応の少年のような口調と態度で、敵国の武将に語りかけているのだ。


「……ソルシオ、あなたも一国の将になったのなら慎みなさい。私には命を預ける沢山の部下がいるように、あなたもあなたのことを信頼しているたくさんの部下の命を握っているの。そこに私情を持ち込むのは将として失格よ。もう子どもではないのだから弁えなさい」

 そして、言っていることは厳しいが、その実諭すような優しい声音でそう言ったレイラの言葉を聞き、今度はミッシェルが驚く番だった。カナキからウラヌスの丘でのレイラの様子は聞いていたし、自分自身ここ数週間レイラの補佐として傍にいて、彼女の自他ともに厳しく接する態度を目の当たりにしていたので、こんな彼女を見るのは初めてだった。


「ッ、それでも、俺は……!」


 更に続けようとしたソルシオだったが、結局彼が語りたかった言葉は彼の中へと戻り、最後には押し殺したような、重たい口調で「……分かりました」と言った。


「……話は以上ですね。では、十分後に開戦としましょう」


 レイラも言外に少し思うところがあるようだったが、自分の立場の重さから、それを完全に殺し、ソルシオに背を向けた。

 ソルシオとグロウも踵を返し、自軍へと引き返す中、グロウは迷った末に「作戦通り、よろしいのですか?」と聞いた。


「ああ……できることならしたくなかったけど、彼女自身に諭されたんじゃ仕方ないよ」

「その、あの使者の女性とは知り合いだったのですか?」

「うん。昔俺が将軍になる前、もっと天狗だった頃にちょっとね。あのとき彼女――レイラさんに色々諭されたことがあって、今の俺があるからね」

 そう言うとソルシオは首をコキコキと鳴らし、「それじゃ、始めようか、大佐」

「はっ」


 たとえあの使者と将軍の間に自分の知らない何かがあっても、将軍が自分で割り切り、作戦通り行動することを決意したならば自分も従うのみ。

 そうしてグロウは自分の部下――狙撃手のフィーに合図を出した。


「やれ」

「ヤー」


 その瞬間、レイラ・ブラウニーの背中を、一筋の閃光が突き刺した。


読んでいただきありがとうございます。

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