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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
第二部 神曰く、死とは救いであり殺めるとは善行なのである
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ザギール激震 7

「~~~~~~~ッッ!?」


 聖天剋が初めて苦痛と驚きでうめき声を漏らす。当然だ。似たような攻撃であるエリアスの『次元斬』を散々見た僕でさえ初撃を避けられたのはまぐれだったのだ。これを初見で避けられていたら僕に勝ち筋はなかっただろう。

 しかしこれなら――


「チッ」


 右足を血で汚した聖天剋だが、即座に左足で地を蹴りこちらの懐に入り込もうとする。僕は再び『歪曲切断』を放とうとするが、その直前に聖天剋が懐から拳銃を取り出したのを見て驚愕する。この世界で最強の拳法家が普通拳銃を使うなんて!

 一発の銃弾は僕の右肩に着弾。コンマ数秒僕の動きを止める。そして、その僅かな時間で聖天剋は僕を必殺の間合いに捉えていた。


「――――」


 気合いや力みなど一切ない、まるで息を吐くかのような自然体で貫き手が放たれる。体を弛緩させ、液体化させる。聖天剋の言葉は、そのまま彼自身の体術に体現されており、全く反応できなかった僕の顔面を貫通する。


「――――どういうことだ」


 そして、その顔面を貫いた張本人である聖天剋は驚愕の言葉を漏らした。

 自分が放ち、今現在相手の体を貫通させた右手。そこには全くの“手応え”がなかった。

 僕は思わず口を弧に歪めた。僕が手に持つ得物――シャロンの能力とは、ここまで馬鹿げた能力なのか。


 S級精霊装『シャロン』は刀身が紫がかった大鎌である。また、柄の尻には透明な鎖が付いており、それは所有者の意志またはシャロン本人の意志によって自由に操作することができる。

 これだけでも充分に優れた武器であるが、何よりも強力な効果が次元を歪めることによる『歪曲切断』や、あらゆる場所に移動できる空間を転移する能力だ。そして、この転移の能力を応用して、自分の体の一部分だけを別空間に飛ばし、攻撃を無力化することもできる。唯一の欠点といえば、魔晶石を一つ砕いてやっと発動できる分解魔法が省エネだと思うほどの燃費の悪さくらいだが、魂喰のストックを強引に削れば数分なら保つだろう。その分、再生能力はほぼ使えなくなるので、使うとなればまさに命がけだが。


 聖天剋が僕の頭から手を引く前に大鎌の鎖が腕を搦めとる。大鎌を持っている手とは逆手に『魔力執刀』を展開し、腕に振り下ろす。聖天剋は鎖を強引に引き寄せ、鎖で魔力執刀を防ごうとしたが想定内の動きだ。鎖と刃が触れ合う直前に手刀を返し、肘から肩口へと狙いを変え、遂に刃が聖天剋に届いた。

 魔力執刀から伝わってくる重い感触。人間の体とは思えないな。まるで鋼鉄の壁に刃を突き入れたみたいだ。しかし、この下級魔法『魔力執刀(チャクラメス)』とは僕にとって最も慣れ親しんだ魔法だ。魔法を習得してからというもの、この魔法こそ最も使用頻度が多かったに違いない。鋼鉄程度、斬れなくてどうする。


「ッ!」


 呼気と共に両断。聖天剋の右腕が宙を舞い、切断面から流れ出た血飛沫が放物線の軌跡を描く。もちろん、肩口の切断面とてそれは同じだ。途方もない量の出血で処置をしなければ数分もしないうちに失血死するだろう重傷。ただ、これで勝てると一瞬でも気を抜けば状況は一変する。この程度で崩れるような聖天剋では――――


「ごっ!?」


 油断していたわけではない。それでも腕を斬り飛ばされた直後に放った聖天剋のハイキックは見事に僕の顔に炸裂した。どこからかビキリと異音が聞こえた。

 宙を舞い吹っ飛んだ僕は、真横にあった家屋を突き破り、その奥にあった家屋の壁にぶち当たる。いつもならその一秒後には全快するだろう傷だが、ちろちろと僕の体に走る赤い紫電の反応は鈍い。移動、攻撃、回避と歪曲切断を三回使用しただけで既に大量に魂魄のストックは尽き欠けている。それでも『シャロン』を手放せばこの程度の怪我を即時回復する程度の魔力は残っているが、それは一握りの勝算を手放すのと同じこと。近づいてくる人影を睨みながら、僕は痛みに耐えて立ち上がる。一瞬の痛みならばどんなものでも耐えられる自信があるが、痛みが続くことはしばらく経験がないため、戦闘中の動きに支障が出ることだけは避けたかった。


「――四肢を失う経験は初めてだが、やはりバランスが若干崩れるな。これから慣らしていく必要がありそうだ」


 やがて姿を見せた聖天剋。その右肩から先には当然何もなく、彼の言う通り確かにバランスが悪そうだ。というか、それよりも今さっき利き手を失ったっていうのにどうしてこの人はこんなに冷静なんだろう。やれやれ、体だけじゃなく、精神性までもが人外ってことだね。


「落ちてる腕の状態によっては、あとで僕が治しますよ」


 聖天剋に気圧されてしまえばなるまい。僕も薄い笑いを浮かべてそう返すと、仮面の奥でその双眸が細められた気がした。


「……確かにお前ならそんなことまで出来てしまいそうだな。そのとんでもない鎌といい、底知れない男だ」

「そんなこと言ったらあなただって。たった今腕を斬り飛ばしたばかりなのにどうしてもう傷口の出血が止まっているんですか。応急処置をしたとしても、この数秒でそこまでの処置を施せるわけがない」


 あるいは知らないだけで、この世界の医療とはそこまで発達しているのかだが。


「応急処置などしていない。ただ肩口の筋肉を膨張させて血流の流れを止めているだけだ」


 いや、簡単に言うけどそれ普通の人は出来ないからね? そりゃ、僕だって多少は出血を抑えることは出来るかもしれないが、あんな一滴も血が流れないなんてことはあり得ない。


「まあどのみち治療は受けねばなるまい。怪我の治りが遅いところを見ると、お前もその武器の影響でなんらかのデメリットがあるみたいだ。次で終わらせたいのが本音だろう」

「まあ、そりゃそうなんですけどね」


 それでも、怪我の具合で言えば圧倒的に聖天剋の方が酷い。右腕を無くし、左足は出血で赤く染まっている。あの状態の足で蹴られるとは想定していなかったからこそ僕の顔も今こんな状態になっているわけだが、あれで五体満足だったら今頃僕の首から上は無くなっていただろう。

 だが、これでやっと戦力は五分。奴は武器の半分を失い、僕も再生能力を失い、歪曲切断も残り一回きり――――


 次で全てが決まる。


間延びしているとか言わないで…。

次回斉天剋戦、決着です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新お疲れ様です 次かその次の200ピッタリで決着するのかな?
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