ザギール激震 3
Side カナキ
「暗殺者ほど暗殺される側になったときに弱い、とある人が言ってましたけど、まさにその通りでしたね」
そう言って僕が笑みを浮かべたとき、それまで隙という隙がなかった男――聖天剋に僅かばかりに動揺が走った。
「――――」
それをもちろん見逃す手はない。僕は殺気を完全に殺しつつ、シャロン(今は大鎌となっている)の尻部分に付いている不可視の鎖を放る。モネが扱っているときにはジャラジャラと耳障りな音がしていたが、一通りの武器の扱いを熟知している僕にかかれば、それはまさに無音にして不可視の攻撃へと変貌する。
「ぐっ……」
当たった。流石の聖天剋もこの攻撃は見破れなかったらしい。鎖の先端に付いた鏃が聖天剋の頑丈な腹筋を突き破り、血を滴らせる。
腹部を貫通するつもりで放ったが、奴の頑丈な腹筋のせいか、はたまた僕が単にシャロンを扱い切れていないせいか、致命傷を与えたという手ごたえはない。今の一撃で仕留めることが出来ていたら話は早かったのだが、やはり事はそう簡単に運ばないということかな。
「…………血を流したことなど久方ぶりだ」
そして今の攻撃で聖天剋も完全に動揺状態から脱したようだ。僕が鎖を引き抜く前に聖天剋は鎖を掴むと、僕を手繰り寄せるように引っ張った。
「うぉ……!」
片手で無造作に引っ張っただけなのにこの力。僕は瞬時に力勝負を諦め、自ら地を蹴って間合いを詰める。
鎌の射程内に入った瞬間に振るった僕の横薙ぎの一撃は当たり前のように躱される。聖天剋が一歩踏み込み、蹴りの間合いになった瞬間、今度は聖天剋の弾丸もかくやという速度の蹴りが撃ち込まれる。
「シャロン!」
僕の声に応じてシャロンが動いた。具体的には彼女の鎖部分が一人でに動き、聖天剋の蹴りを“張った“鎖で防いだのだ。
予想外の動きで攻撃を防がれた聖天剋が喉を鳴らす。僕が再び鎌を構え直すと、聖天剋が鎌の有効範囲外に入ろうと、また一歩距離を詰める。だが、まさにそれこそが僕の狙いだった。
「ここ!」
聖天剋の動きを読んで放ったハイキック。それは狙い誤らず、一歩近づいてきた聖天剋の頭に炸裂した。寸前に鎌へ意識を誘導したうえに、そもそも鎌と体術を合わせてくるとは思ってもいなかったのだろう。魔術で身体強化されている並の人間なら即死の攻撃だったが、聖天剋はスリッピングアウェーで蹴りの威力を半減、加えて丈夫な僧帽筋が脳の揺れも最小限に抑えている。これも致命傷にはならないか。しかし、決してダメージは少なくないはずだ。ここで畳みかける――
蹴り足を引く反動を利用して放った横薙ぎの鎌、それは聖天剋のこめかみに食い込む直前でピタリと止まる。息を呑んだ。振るわれた鎌は、聖天剋が親指と人差し指でつまむようにして止めていたからだ。
僕は前の世界――ファンタゴズマでの最後の戦いの前、今とは逆にシリュウの剣を指二本で止めたことを思いだした。どんな攻撃だとしても、タイミングと振るわれる場所さえ分かっていれば無理な芸当ではない。しかし、あれは僕が話し合いの場で彼を挑発した挙句、そこに来ると分かっていたから出来たことだ。それをこの男は頭にダメージを受けた直後にやってのけるとはね……!
シャロンがすぐさま鎖を動かすが、聖天剋はまるで見えているかのようにそれを回避。逆に掴み取り、そこに微量の神聖力を注ぎ込む。これはこの前も見た――
「づっ!」
鎌を手放さなかったのを自分でも褒めたいような衝撃が、鎌を通じて伝わってきた。神聖力の流れを変え、暴走させる技術。確か破極といったか。直接触れていないのにこれだ。シャロンの方には相当の負荷がかかったことだろう。もちろん、所詮は武器だ。壊れなければ後はどうでもいいのだけれどね……!
「フ――」
鎌を奴の二本の指から引き抜こうとするが、ピクリとも動かない。その指の力に驚嘆しながらも、僕はすぐさま鎌を放棄、両手を離す。僅かにバランスを崩した聖天剋に自由になった右手で突きを放つが、聖天剋は空いていた片手でそれを防御、逆に搦めとり、片手で一本背負いに持っていく。
地面に叩きつけられる直前、僕は片手を地面に付き、ダウンを拒否するが、その腕をあえなく蹴りで”斬り落とされ”、肩から地に叩きつけられる。僕はトドメの一撃が来る前に爪先に『魔力執刀』を展開、寝たままの態勢から体を捩らせ、聖天剋に爪先蹴りを放った。
それを躱した聖天剋だが、その瞬間腕を掴んでいた力が緩むのを見逃がさず脱出。シャロンに命令して鎖で奴の動きを封じるよう命じたが、その前に聖天剋は掴んでいた鎌を明後日の方向に投げ飛ばす。その隙に立ち上がり態勢を整えた僕を見て狐の面の奥で溜息が聞こえた。
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