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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
第二部 神曰く、死とは救いであり殺めるとは善行なのである
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ホウレンソウ

久しぶりの更新です。

 モネのいる小屋に戻ると、彼女は険しい表情で僕を睨んだ。


「……おかえり、無事で良かったわ」


 どう見ても喜んでいるようには見えなかったが、僕は無難に苦笑いを返しておいた。次に彼女から何を言われるのかはすでに察しがついていた。


「それで、さっきの話はどういうこと? 冗談にしても度が過ぎてると思うんだけど」


 モネが言っているのが先ほど聖天剋に話した内容、つまりイリスの首を差し出すという発言についてだろう。

 モネ、というか六道の連中はイリスに対して絶対的な畏敬の念を抱いているように見える。少なくとも、あのとき話した修羅道の翠蓮とこのモネが敬愛していることは確かだ。そんな彼女と感覚をリンクしているシャロンの前であんなことを言ったのだ。僕はここに来るまでで考えていた通りに謝罪の言葉を口にする。


「それに関しては申し訳ないとしか言えません。しかし、あの状況で僕とシャロンさんだけで奴を倒すことは不可能でした。あの場を打開するのに咄嗟に思いついた内容でしたが、不敬であったことと自覚しています。申し訳ありません」

「謝ってすむ問題じゃないの。どんな理由があろうと、聖イリヤウス様をないがしろにしてはいけないの。もちろん、敵との交渉材料にも使うのも、ね。“審問”担当として、到底看過できるものではありません」


 彼女の信仰心を侮っていたわけではないが、予想以上の厳しい反応に溜息をつきたくなるのをこらえる。仕方がない、少し攻め方を変えてみよう。


「ですが、それならモネさんがあの場に駆けつけなかったのはなぜです? 事前に決めていた話では、僕とシャロンさんじゃ倒せそうになかったらモネさんが応援に来てくれるという話じゃなかったでしたか」

「……どんなカラクリかは知らないけど、あの男がいる間、あそこには近づけなかったのよ。シャロンがいれば別だったかも知れないけど、『次元歪曲』も使えないんじゃ、限界があるの」

「つまり、奴は高度の人除けの手札も持っているということですか。益々厄介な相手ですね」


 だからこそ、ここで仮に奴をこちら側に付かせることができれば、それだけ戦力の増強を図ることができるということだが。


「それで、どうするつもりなの?」


 モネが挑発するような声音で聞いてくる。無策や愚策を提示しようものなら今すぐ断罪するとでも言いたげな胡乱げな目だった。


「既に考えている案はあります。ただ、その案に本当に穴がないか確認するために、少しだけ猶予をください」

「はっ。猶予とは言っても、その口約束じゃあ一週間が期限なわけでしょ? それに、聖天剋がザギールに警備を強化するよう言っているかもしれない」

「それについては既に考えています。多少の警備の増強は目をつむるしかありませんが、そこは心配しなくて大丈夫ですよ」

「ふうん……それで、何日必要なの、その猶予ってものには」

「三日もあれば十分ですね」

「待って、それは作戦を決行する日じゃなくて、内容を説明する日が三日後って意味よね? そこまで私に内容を隠す理由はなに?」


 疑り深い人だ。ここにきて僕がザギールに寝返るとでも考えているのか。既に敗北が必至の国に好き好んで寝返るものか。僕は諭すように言った。


「いいですか。頭の回転の早いモネさんなら分かっているとは思いますが、奴との取引は僕達にとってとても難しい条件です。少しでも策に穴があればご破算になる危険な橋です。橋を叩いて渡るほどの時間はありませんが、最低限の耐久実験は行ってしかるべきでしょう?」

「それは分かるわ。でも、それをなぜ直前まで私にも黙っている必要があるの?」

「あなたをがっかりさせたくないからですよ。信頼しているビジネスパートナーには、こちらも完璧なものを提供したい。しかし……」


 僕はそこで一旦間を開けた。それからモネを見上げて神妙な顔で頷く。


「ですが、モネさんの言う事も尤もです。自分の命がかかっている内容だ。一日だって早く知りたいに決まっていますよね。分かりました。二日、二日だけ待ってください。それまでに必ず完璧な策を用意してあなたに献上します」


 モネの心に染み入るように、僕はなるべく丁寧に言葉を選び、それを真摯な態度で彼女に伝えた。実際の感情はそこに一分も含まれていなかったが、大切なのは相手にどう受け取られるかだ。幸い、彼女には心の中までは覗けなかったようだ。


「……分かった。ただし二日後、必ず完璧な策を用意して。でなければこのことをイリヤウス様にも報告するわ」

「十分です。ありがとう」


 僕は感謝の笑顔を浮かべながら、内心やれやれ、と溜息をついた。

 既に当初とは想定外の事案が発生しているのだ。本来ならイリスの事情はどうあれ、まずは上司に報告し、今後の判断を仰ぐべきなのだ。日本の社会人なら誰でも知っているホウレンソウだ。いくら、僕の方から誘導したとはいえ、その王道を全く無視して行動することを彼女は容認してしまった。やはり、その程度の思考の持ち主ならば、今、頭の中に描いている絵図の方向で事は進められるだろう。

 難しい局面になったが、その分ここを乗り越えることが出来れば、見返りも大きい。鼻歌を歌いたくなるの我慢しながら、僕は脳内で作戦を反芻した。


読んでいただきありがとうございます。

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