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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
第二部 神曰く、死とは救いであり殺めるとは善行なのである
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マティアスを超える男 2

少し長めです(久しぶりに言った気がする)

 ―――やったか。


 そう感じたと同時に僕は気を引き締める。大抵自分よりも格上の相手とは、自分が倒したと思ったときは死んでいないというのが僕の経験則だった。


 ――――邪知眼(イビルアイ)強化(リィンフォース)疾風(ゲイル)


 探知の魔術、そして身体強化の魔術を発動させると、上空に反応。見上げれば、片足をシャロンの腹に食い込ませた状態のまま聖天剋の姿があった。まさかあの状態のまま片足であれだけ跳躍したのか。

 だが、上空なら魔法を使えない奴に回避は今度こそ不可。僕が再び終末(デストラクション)を放つと、聖天剋はシャロンの体から足を引き抜き、その体を蹴って落下の速度と角度を変更。壁を蹴る要領で再び必殺の魔法を回避された僕はならばと今度は焔刃による数による同時攻撃を試みる。


「ッ」


 しかしそれも防がれる。まるで落ち葉が風にあおられるように空中で幾重にも回転した聖天剋の腕が、足が、その全ての刃をたたき落とす。そのままこちらに落ちてくる聖天剋に僕は覚悟を決める。


魔力執刀(チャクラメス)……!」


 両手に使い慣れた魔力の刃を表出させると、僕は聖天剋と切り結ぶ。

 魔術で強化された体でも付いていくのがやっとの聖天剋の体技。しかし、魔力執刀によるリーチの長さと身体能力が向上したおかげで、先ほどのような一方的な展開にはならない。これには聖天剋も仮面の奥で息を呑んだのが分かった。動揺はないものの、多少驚いたことは確かなようだ。そして、驚いたとき人間というものは咄嗟の判断が迫られたとき必然的に回避や防御を選択する。


「フッ!」


 僕の上段を狙った廻し蹴りを、聖天剋はギリギリの、しかし完璧に計算された最小限の動きでよける。普通なら鼻先一センチの距離で空振りし、片足になったところをカウンターされるところだろう。

 だが、それを僕は狙っていた。


「……!?」


 僕は攻撃が空振りになる瞬間、爪先から魔力執刀を展開、突如リーチが伸びた僕の蹴りに、明らかに驚いた聖天剋だったが、先ほど見せたようにブリッジして躱す。魔力執刀は狐の仮面の表面に傷を入れたのみにとどまる。


「ッ!」


 しかしそれは明らかな好機。僕はそこに追撃の足払いを仕掛ける。先ほど顎を破壊された蹴りはもちろん警戒している。同じ轍は踏まない。

 だが、聖天剋はブリッジのまま跳躍するという雑技団のような動きで回避。しかも空中で体勢を立て直すのだからタチが悪い。

 着地した瞬間、今度は聖天剋からハイキックが飛んでくる。それを両腕でガードするが、重い。しかも驚くことに、魔力執刀の刃で蹴りを受け止めたというのに、奴の足は全くの無傷なのだ。


「一つ、良いものを見せてやろう」

「? ――――うおっ!?」


 蹴りの衝撃で一瞬痺れた両腕にまたも衝撃。完全に受け止めたと思われた蹴りから再び力が生まれ、展開していた魔力執刀がはじけ飛ぶ。

 そのとき、僕は邪知眼で見た。聖天剋から微量の神聖力が僕の魔力執刀に流れ込み、展開していた魔法の理を変え、魔法を強制的に排除したのを。


 魔法を無効化する能力? まさか――――


 そのとき、聖天剋が掌底を放った。僕は自ら後ろに跳ぶことでその衝撃をほぼ完璧に殺す。聖天剋の掌が僕の鳩尾に軽く触れた程度だ。


()(きょく)――――」

「ヅ――――ごほっ!」


 聖天剋の掌からまた微量の神聖力が流れ込んだ。それが僕の体の内に染み入るように浸透すると、僕の体を内から破壊した。強制的に高速で回り始めた血流に血管が耐えられず体の至る所が血が噴き出し、内臓器官軒並み狂ったように痙攣し、手足は急に他人の物になったかのように動かなくなった。


「想像以上の強さだ。これまで使わされるとは……ん」


 膝を突いた僕の首を刎ねようとした聖天剋だが、そこに回復を終えたシャロンが斬りかかる。それを難なく躱し、返す手刀をシャロンはナイフで受け止めるが、そこにまた微量の神聖力が流されるとナイフはたちまち粉々になる。魔力無効能力に加えて対象を破壊する能力だって? なんだいそのふざけた能力は――――

 得物を無くしたシャロンを犬でも蹴飛ばすようにあしらった聖天剋だが、その数秒は僕が再生を終えるのに十分な時間だった背後で立ち上がった僕をみて、聖天剋はうっとうしそうに溜息を吐いた。


「どうにも面倒な連中だ。持ち帰って体を調べたいのだが、こうもキリがないと辟易する」

「それじゃあいい加減諦めてくださいよ」


 僕の言葉に聖天剋は答えなかった。それは僕の言葉に応じないという意思表示でもあり、同時に本当に彼は辟易しているんだ、と考えた。

 ストックは今、物凄い速度で減ってしまっている。戦争中は前の世界ほど魂魄を貯蔵する暇がない。つまりは今。お互い殺しあうことに嫌気がさしている状態ともいえるのだ。そんな無意味な争い、一刻も早く終わらせる必要があるだろう。

 僕はそこで、ずっと検討していた案を採用してみることにした。なに、失敗したところで失うものは何もない。折角殺し合いに飽きて――正確にはこちらが殺され続けているだけなのだけれど――話し合いに応じてくれているのだ。この状況を生かさない手はないだろう。


「じゃあこういうのはどうでしょう。あなたにいずれ大司教の首とともに皇国をささげます。だから、それまではどうか僕の敵にならないでもらえないですか?」

「カナキさん、どういうことです」


 僕がそう言ったと同時に、シャロンが僕の方に目を向けた。そこには感情らしきものは見つからない。ただ、蒼い炎は一層激しく燃え上がったように感じた。


「いいから。ここは僕に任せてくれ。このままじゃどのみち勝てないだろう?」

「……」


 シャロンは納得した様子ではなかったが、一応理解はしたようだった。彼女は精霊装とて人格を持ち、人間と同様の知恵もつけている。彼我の実力差について思うことがないわけではないのだろう。彼女は口を閉じてそっと成り行きを見守った。


「……馬鹿げた話だ」


 聖天剋がつぶやいた。しかし、そこには数秒の間があった。少なくとも、彼にとって即答するほど馬鹿げた話ではなかったということだろう。

 僕はおどけたように肩をすくめた。ここでこそ僕のポーカーフェイスが試される。下手に力むな。自然体であれ。僕の自然体こそが最大のコケ脅しになることはこれまでの人生で十分に理解していた。


「もちろん、今すぐに、というのは無理です。ですが、この国、ザギールの反乱軍とは既に話はついているんですよ。この戦争に勝てば、国は僕の意のままに支配できることになるし、それはイリス――ああ、聖イリヤウス様にも分からないように密かに行われることになっている」


 聖天剋は無言だった。その沈黙は先を話せ、というサインのように感じられた。


「まとめると簡単な話です。味方になる必要はない。ここで手を引いてくれれば、その後にそれなりの見返りを差し上げる、という、ただそれだけの話ですよ。つまりはビジネスパートナーにならないか、という申し出です」


 本当は完全に味方に付けたいところだが無理はしない。聖天剋のこれまでの主な活動をモネから情報として受け取ったとき、まず感じたのは彼が利己的な人間だということだ。彼の活動は主に要人の暗殺だったが、そのターゲットは完全なランダムで、法則性などは全く見受けられなかった。つまり、彼は報酬次第ではどこの味方にもなるし敵にもなりうるということだ。そして今の彼を雇っているのはザギールならば、それよりも魅力的な報酬を提示することができればこちらに寝返ってくれるのではないだろうか。そう考えての交渉だったが、果たして反応はどうか。


「――――ビジネスパートナー、か。面白い勧誘だな」


 しばらくの沈黙の後、聖天剋はつぶやいた。

 そこには多少の好意的な意思が込められていた。


「しかし、お前如きが私のパートナーとして務まるかはなかなか疑問だな」

「その面に付いた傷じゃあ証明になりませんか? かすり傷だとしても、あなたほどの人に攻撃を当てられる人なんてめったにいないと思いますが」

「驕るなよ若造。想像以上の強さとは言ったが、あくまでそれは言葉通りにすぎん。蠅が蚊に変わったくらいで評価は大して変わらん。それにかすり傷とは言うが、俺の体には未だ傷一つついていない。それに、たとえ傷を付けられたとしても、俺のパートナーになる条件がそれだけだと思うか」

「なら、その条件というのを聞かせてもらっても?」


 聖天剋は顎を撫でた。指は細長く、ベティナイフを連想させた。


「……一週間だ。その間にザギールを降伏させろ。ただし、外にいるお前の軍は使うな。あくまでお前と、そこの女、そしてこの国のレジスタンスを使って陥落させろ」

「……あなたはその防衛に加わるのですか?」

「防衛はしない。ただ、お前を殺せという命令はまだ生きているからな。お前が出てくれば必然的に俺はお前の首を狙いにいく」

「……そりゃまた、無理難題を吹っかけてきましたね」


 ただでさえ目の前の男を倒すことは困難を極めるというのに、それに加えて一週間以内に戦争を終わらせろというのだ。無茶を通り越して無謀にも思えてくる。


「俺が皇国の先代を殺したときよりはマシな条件だと思うがな。できなければ手を組むのはナシだ」


 どうする――とばかりに聖天剋は僅かに首を傾けた。


「受けますよ、もちろん」


 それに僕は即答した。当然のことをきくな、とばかりに。

 聖天剋が少しだけ間をおいてから言った。


「自信はあるのか」

「無理難題だとは思いますが、あくまでそれは僕以外がやるんだったら、という話です。手はいくらでもあります。それに――」

「それに?」


 僕は小馬鹿にするように鼻から小さく息を吐いた。


「あなたは随分過去の自分の行いを過大評価しているようですが、“それくらい”なら僕だってできますよ。現に過去、ある国の王女を大観衆が見守る中で生け捕りにしたことだってあります。裏でコソコソ殺すことしかできないあなたとは違いますよ」

「――――面白いな、お前」


 驚くことに、聖天剋から殺意は向けられなかった。

 シリュウ達と交渉したときと同じように挑発して殺意が見え見えの攻撃を軽くいなしてやろうと思っていただけに僕は肩透かしを食らったような気になるとともに一層目の前の男を警戒した。あんな安い挑発に乗らないだけならまだしも、僕は聖天剋と相対してからまだ一度も、彼から殺意を感じることがなかったからだ。


 それだけ完全に“気”を操っているってことか――


「ここは退いてやる。さっきの言葉、忘れるなよ」


 そうして聖天剋は消え、僕とシャロンだけが残された。

 いつの間にか夕暮れは終わり、辺りには薄い闇がたちこんでいた。


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