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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
第二部 神曰く、死とは救いであり殺めるとは善行なのである
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マティアスを超える男

まちがって終末の方に更新してたみたいです…

「やあ、初めまして。聖天剋さん、かな?」

「…………」


 僕の問いかけに仮面の男――聖天剋は無言を貫いた。仮面のせいで、その表情は全く読み取れない。

 それとは対照的に、僕は涼やかな笑みを浮かべているわけだが、内心は違った。

 ちょっとこれはまずいかもね。

 前の世界にいたエリアスに匹敵する実力者、ラーマがそう警告していたわけだが、今のところ空間ごと斬り飛ばしたりといった超常現象は起こらず、戦い方は徒手空拳のみ。ある意味ではマティアスの暗殺拳と似ているところがあるわけだけれど。

 しかし、目の前の男の力量は正直未知数だ。先ほどの一戦、恐らく向こうは少しも本気を出していない。彼と相対したとき、僕は密林の奥にひっそりと潜む底なし沼を想像した。目立たず、静かに、しかし明らかな殺傷能力を持って、沼の底でソレは僕を引きずり込もうとしている。その深さは分からない、が、入れば僕はあっという間に溺れ死ぬことだろう。そして既に僕は片足をそこに踏み入れてしまっている。嵌まった片足をトカゲのように切り落とせばまだ逃げられるだろうか。


「う」


 聖天剋が動いた。体の“起こり”もなく、殺意もない。マティアス並みの“抜き”による奇襲。辛くも反応できたのは、少しは戦闘勘が戻ってきたということか。

 背丈は聖天剋の方が僅かに高く、その分どうしてもリーチで劣る。スピードも恐らくは向こうが上。だが、一撃の破壊力は――

 聖天剋の右腕が動いた。やはり、恐ろしく疾い。狙われたのは視覚、目潰しだ。それを首を逸らすことでギリギリ回避した僕は、お返しとばかりにパンチを放つ。体勢もめちゃくちゃのまま撃った、理想の突きとはほど遠い手打ちの攻撃。しかし、既に魔晶石は砕いている。拳にはグローブのように纏わりついた必殺の消滅魔法が込められていた。

 普通ならただ小突く程度の威力、しかし霧幻泡影(デストラクション)を発動させた今なら掠るだけで致命傷になるその拳を聖天剋は当たり前のように避けた。攻撃直後、しかも速度を重視した僕の突きをだ。


「ッ!」


 反撃される前に足払いを仕掛けると、聖天剋は跳んで躱す――そして、僕の蹴り脚に着地した。


「良い体幹だ」


 唖然とする僕の足の上で彼は初めて言葉を発した。僕が次の行動を起こす前に聖天剋は手刀を一閃。僕の首を刎ねる。

 宙を回る視界。その中で右腕に喪失感。次いで両足が折られる。まずい、いまこの瞬間にも再生が始まっているが、このままでは実質生け捕りに――

 そのとき、視界の端に黒い影が過ぎ去った。僕の手足を執拗に破壊していた攻撃が止まり、数秒の間再生する余裕が生まれる。頭が再生し、視界が元通りになったとき、そこには聖天剋と相対する蒼い炎の瞳があった。


「シャロンさん」


 僕は彼女の名前を口にした。そうだ、彼女は人間ではない。S級という最高位精霊装『シャロン』だ。

 彼女は武器であり、人間の姿はあくまで外見だけであり、中身は全く異なるものである。大量の神聖力を消費する代わりに、彼女の肉体には自動再生機能が備わっており(とはいえ、魂喰の再生速度には及びもしないが)、たとえ致死性の怪我であっても時間とともに再生するのだ。そして、同時に人間時の彼女は、かつてロイが護衛として使役していたほどの実力者であり、今も僕が再生を終えるまで時間を稼いでくれたのだろう。あのままでは最悪ストック全てを使い切り、両手足を失ったミノムシのような状態になっていたかもしれない。僕は心中で彼女と、今現在遠くから神聖力をまわしているのだろうモネに感謝を述べた。


「不死が二人、か」


 聖天剋がつぶやいた。それは僕たちに聞かせるつもりで言ったわけではない、ただの独白のような響きであった。

 シャロンが来てくれて一時的に状況は拮抗したが、正直、シャロンと僕の二人がかりでも奴を倒せるかはかなり微妙だ。そもそも、奴の近接戦闘は次元が違い過ぎる。魔術による肉体強化を行っているわけでもなく、神聖力を熾している様子もない。なのに、あの身体能力とはどういうカラクリなのか。前の世界でマティアスという奴と同じような存在を知っているが、正直言って、聖天剋の強さはそれを優に超えている。もしもマティアスと僕が今同じように戦っても、こうも一方的な展開にはならないだろう。こういう手合いは遠距離から広範囲魔法の火力で圧殺するのが有効なのだが、生憎僕は点による魔法ばかりで、面による制圧を期待できる魔法は習得していない。近接戦で不利になることの少ない僕にとっては相性の悪い相手だろう。魔法のないこちらの世界の住人であるシャロンも同様だ。

 僕が逃走を視野に入れたとき、シャロンが動いた。「ちょっ」と僕が情けない声を上げるが無視して突っ込む。連携とかを碌に考えていない攻撃だ。


 影が伸びるように一直線に聖天剋に肉薄した彼女は、両手に持っていたナイフで首を狙う。それが届く前に、聖天剋の前蹴りがシャロンの腹を貫通していた。僕は瞠目した。突きが人の体を刺し貫くのは見たことがあるが、面の広い足が人体を貫く光景など見たことがなかった。

 刺し貫かれたシャロンは一度動きを止めたが、それでも再び動きだした。ナイフが届かないギリギリの距離を一歩詰め(貫かれた箇所から嫌な音がした)、ナイフを振るう。

 それを聖天剋は手首に手刀を当てて止める。反対の手で振るわれた追撃は頭をのけ反らせて躱した。しかし、そこに僕は勝機を見る。今奴は片足で立ち、右腕は防御に使い、姿勢も崩れている。

 魔晶石を砕いた僕は、ここで初めて遠距離魔法を選択する。霧幻泡影(デストラクション)を応用して遠距離に放てるようにした終末(ジャッジメント)――――


 精霊装一つで先代の仇を討てるんだ。安いものだろう?


 僕はシャロンの体で死角になる位置から消滅魔法を発動。次の瞬間、黒い粒子がシャロンと聖天剋の体を呑み込んだ。


お騒がせして申し訳ありません。

読んでいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 絶対死んでないだろ
[良い点] やったか!?
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