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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
第二部 神曰く、死とは救いであり殺めるとは善行なのである
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聖天剋 2

あけましておめでとうございます。

「殺した……前大司教を?」

「ええ、しかも他国の人間に殺されるなんていう皇国成立後最大の失態、もちろん、厳重な箝口令が敷かれたから、知っているのはほんの一部だけどね」


 あまりに予想外のことで、僕はしばらく言葉を返すことが出来なかった。

 大司教とは言っても所詮地位であり、その地位にいる人間が殺されることには何ら不思議はない。問題は、それを国でもトップの警護が付いているであろう大司教を暗殺し、更にはまだ生きているということだ。警護にはおそらく六道の面々も絡んでいたはずだ。あの化け物たちを相手に暗殺を成功させ、生き延びるとは、正直今の僕には想像すらつかない。

 あまりの動揺に、それが表情に出ていたのか、モネは嘆息交じりに補足した。


「言っておくけど、そのとき警護に付いてたのは当時の人間道――空離よ。その騒動であの人、責任を追及されて結局餓鬼道まで格下げ、その後釜で私が人間道になったわけ」

「なるほど」


普段なら人間道と餓鬼道で格差があるのかとか聞くのだが、問題なのは、普段ならこちらが引くくらい喰いついてくるエーテル教の話にもモネが一切反応を示さないことだ。これは相当機嫌が悪いと見える。これは彼女に話したのは失敗だったね。


「よしっ」


 モネは残っていた食べ物を一息に頬張り、水で全て飲み下すと、


「それで、聖天剋のことをここで聞いたってことは、これからの話にあいつが関係するんだよね?」


 青い炎を獰猛に揺らし、そんなことを訊いてきた。

 こうなっては変に遠ざけても自分で勝手に行動するだろう。それならばこの話に乗せ、手綱を握った方がいいか。

 それから、出来るだけかいつまんで、レジスタンスのこと、聖天剋を倒さねばならないことを話した。もちろん、そのときにはラーマと交わした「契約」は省く。


「つまり、レジスタンスを使ってザギールを中から潰すには聖天剋を探し出してぶっ殺せばいいってわけね」

「ぶっ殺すって……まあ、概ねその通りですが、厳密には僕達は奴を探す必要はありません。というか、六道が血眼になって探しても見つからなかった人を僕達だけで見つけるには無理があるでしょう」

「うっ……じゃあどうするのよ」

「簡単です。聖天剋がターゲットにしそうな獲物を見張っていればいいんです。そうすれば撒き餌に勝手に向こうから喰いついてくれます」

「そりゃ、言うのは簡単だけど、誰が狙われるかなんて早々分から――――あ」


 そこでモネの言葉が止まる。彼女もどうやら僕が言いたいことが分かったようだ。


「レジスタンスからの信頼が高い情報が寄せられましてね。どうやら次に狙われる確率が高いのは、僕みたいなんです」






 こうして大物を釣る餌となった僕だが、海でただ浮かんでいるルアーのように、僕の生活にも特別な変化はない。強いていうなら、いつ何時“襲ってもいい”と思われるように、ひたすら警戒心を解いて、つまりリラックスして生活することだろうか。

 あれからも診療所は大繁盛で、経営形態も確立させたら、もう今度は僕が四六時中いなくてもなんとか回るようになった。それでも、カウンセリングも兼ねて行っていた患者については、僕と話がしたい、異国の宗教の話を訊いてみたいということだったので、これまた譲り受けたもう一つの空き家を使ってお話をすることにした。

 それは僕がこの世界に来てから、比較的安穏とした日々だった。もちろん、その間は常に自分が狙われていることを意識せざるを得なかったため、真に心が休まることはなかったが、それでもイリスの監視が絶対に付かないであろう国外での生活は、まるで初め一人暮らしを始めたときのような解放感をもたらした。

「あとはシャロンさんの目さえなければ文句ないんですけどね」

「マスターの命令は絶対ですので、その要望は請けかねます」

「分かってますよ。ただぼやいただだけです」


 僕が狙われている以上、必然的に護衛を付けるかという話になったが、レジスタンスからの申し出は

「こちらが警戒していては向こうが現れない可能性がある」という言を以て丁寧に辞退した。しかし、前大司教の仇だというモネは、護衛を譲らず、それどころか当初は六道の戦力を総動員して奴を、聖天剋を潰すべきだと訴えた。


「イリス様にも事情を話せば動いてくれるはずよ! エーテル神が与えてくださったとしか思えないほどの好機なのよ!? 動かせる戦力は総動員すべきだわ!」

「だから、その六道を以てしても聖天剋は見つけられなかったのでしょう? しかも、今度は国内ではなく、他国での話です。その間にイリス様に何かあったらそれこそ本末転倒でしょう」

「ッ……なら、せめてイリス様にこのことを報告して、判断を仰ぐべきだわ! 今回の話は、私たちで解決する範疇を超えている!」


 いつも自信家のモネがそこまで慎重になっていることに驚いた。それと同時に、今回の相手というのがそれほどに警戒せねばならない相手だということに改めて気を引き締める。

 ラーマとの“取引”がある以上、今回の件については極力本国の力を借りずにすませたい。本音を言えば、報告さえも辞めさせたいところだが、忠誠心の高いモネがいる手前、それは難しいか。

 なればこそ、イリスへの報告はせめて事後に回す。


「モネさん……おまけの僕はともかく、あなたは六道の、しかも上位に位置する人間道なのですよ? 当然、イリス様も六道には多大な信頼を寄せています。その信頼をあなたは『自分の解決する範疇を超えている』という言葉で裏切るのですか? いくら天才とはいえ、イリス様はまだお若い、しかも戦争中となれば、国を回すことでもかなりの重荷です。そこに更なる負担を強いても良いのですか?」

「くっ……」


 痛い所を突かれたらしい。モネの顔が苦悶に歪む。

 おそらく、今の言葉が僕の本心ではないことをモネは理解しているはずだ。成り行きとはいえ、六道の中で僕と最も過ごす時間が長かった人物であり、エーテル教では『審問』を担当する、いわば僕と同じカウンセリングのエキスパート。だが、同時に今の僕の言葉が本心ではなくとも事実であることも理解しているはずだ。つまり、経緯はどうあれ、このことを相談すれば、イリスの負担になることは変わりないのだ。だからこそ、国外の雑事について、モネがイリスに相談することはない。僕はそう踏んでいた。


「……分かったわ」


 その一言が出るまでに、予想以上に時間は掛かったものの、僕の思惑通りに事態は進んだ。

 だから仕方ないのだが、モネが僕の警護につくにあたって、人間よりもはるかに生命力の高いシャロンを僕に四六時中べったり付かせるのには、いい加減僕も辟易していたところだった。


今年もよろしくお願いします。

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