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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
第二部 神曰く、死とは救いであり殺めるとは善行なのである
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トレーニング 1

神曰く編、二幕開始です。


 頭上に伸びる堅牢な国境線の関所で爆発が起こった。


「――合図だ」


 同時に、囮として中に送り込んでいたエンヴィの擬態の効果が切れたことを悟る。あれだけ派手に動いたんだ。見張りの注目も中に向いているはず。僕は後ろに控える部隊に手を挙げて攻撃開始の合図を送った。


「へっ、任せな!」


 エイラが得物である二丁拳銃の精霊装『カドゥケウス』を合体させ、“砲”へと変形させる。

 直後に放たれたのは、拳銃のサイズとは比較にならないほど膨大な、神聖力による砲弾だった。

 それは城壁に直撃し、奥に鎮座していた関所にも大きな穴を開ける。離れたこちらからも、中にいるザギール軍が慌てふためく声が聞こえてきた。


「それじゃあ、ティリア君」

「はい、サポートはお任せください、少佐」


 頼りになる副官に頷くと、僕は先陣を切って飛び出した。


 ――最も危険な役割をタダで引き受けるなんて、以前の僕なら考えられなかったことだね。


 身体能力向上の魔術を行使し跳躍。一息でエイラの開けた穴から壁内部へと侵入する。家の中にお邪魔すれば、そこには十数人のザギール兵が出迎えてくれた。


「やあ、お邪魔するよ」

「お、お前はっ!」


 口をパクパクさせ、こちらを見る兵士の一人を射殺すると、それでようやく周りも状況を理解したようだった。

 次々に迫る弾丸を肉眼で捉え、ことごとくを躱していく。もっと手早く彼らを無力化する方法もあったが、今の僕の最優先事項は殲滅ではない。“奴ら”に比べればこの関所、いやザギールの国内全てを見渡しても、あれほどの障害となり得る敵がいるとは思えなかった。

 もちろん、これまで慢心して、何度も痛い目を見てきた僕だ。そろそろ学習しないと、生徒達に会わせる顔がないからね――


「フ――」


 一呼吸。その間で兵士たちとの距離をゼロにする。彼らからすれば、僕が弾丸をすり抜けて眼前に現れたような錯覚に陥っただろう。

 右足を地から離し、一閃。

 『魔力執刀(チャクラメス)』を爪先に展開する応用技で放った蹴りだ。触れた者は一様にブツ切りになる結果となった。


「ば、化け物……」


 まだ若い兵士の一人が僕を見てそんなことを言うので、思わず溜息を吐く。

 今の僕にとってそれは皮肉以外の何物でもない。


「いやいや、僕なんて本当に可愛いものだよ、ほんとにね……君も、これから生きていれば嫌でも分かるだろうさ」


 よく見ればまだ成人しているかも怪しそうな青年だ。僕の趣味に没頭する暇は残念ながら戦場にはない。なら、無力化するだけで殺す必要もないだろう。

 周囲には死体と戦意喪失者しかいないことを確認すると、関所の内部へと向かう。急いだりはしない。どのみち悲鳴を聞きつけて、どんどん敵が集まってくるだろうさ。






 今の僕は、ナマクラだ。

 認めたくはないが、あの事件からひと月を歳月が流れ、僕が感じた感想だ。


「オオオォ!」


 敵は既に一般兵士から精霊騎士へと変わっていた。

 とはいえ、量産型のデミシリーズを扱うE級精霊装だ。前の世界で言えばせいぜい三級魔法師止まりの相手。敗れる要素はなかった。

 片手剣精霊装『デミアグニ』を持った敵兵が上段から剣を振り下ろす。それを手の甲で流し床に“噛ませる”と、無防備になった相手の首に魔力執刀を突き刺す。

 崩れ落ちる相手を見ながら全身を細かく揺らし身体の調子を確認する。

 シスキマの関所から自ら最前線で戦い始めた僕を、最初ティリアは心配し、エイラは怪しんだ。

 彼女たちの反応は最もだったが、それでも僕は切り込み役になることを強硬した。

 それもこれも“修羅道”――翠連に手も足も出なかったことに対して、激しい焦りと屈辱を覚えたからだ。


「――カナキ少佐、前方から精霊騎士、しかもD級持ちです」


 そのとき、レンズを使って偵察していたティリアから報告が入り、直後に槍の穂先が眼前に迫る。


「はぁああ!」

「おっと」


 すんでのところでそれを避けると、一陣の風とともに柑橘系の香りがふわっと香った。戦場ではなかなかないことだ。


「ちっ!」


 新手の精霊騎士はティリアたちと同じくらいの、まだ若い少女だった。日本で言えば高校生くらいだが、槍の精霊装である『トライデント』を持っているのを見るに、精霊騎士であることは確実だ。それに、彼女はどこかで見覚えがあった。


「ウラヌスでもいた精霊騎士でアッシュ・カタロンですね。階級は少尉。若いですがエイラに引けを取らない実力者です」


 僕が質問するより早く、インカムを通してティリアから情報が入る。彼女の“眼”としての働きにはいつも頭が下がる。


「せりゃ!」


 気合と共にアッシュが動く。トライデントの恩恵であるスピードの向上を活かした刺突。シンプルだが、純粋に強い一手だ。だが、本当に危険を感じるほどではない。


「ッ!?」


 それを躱した僕は、そのまま槍の弱点、側面に回り込む。アッシュもそれは理解しており、持ち前の機動力を活かして、なんとか逃れようとするが近接戦は僕の方が上手だ。気づけば、彼女は壁際まで後退し、槍の間合いも潰されてしまっていた。


「くっ」


 最後の足掻きとばかりに、詰まった距離で強引に槍を突き出すが、それは駄々っ子が地団駄を踏むに等しい。

 槍を掴むと、そこそこに加減した膝を入れ失神させる。最後まで槍を離さなかったのは意地か。まだまだ伸びしろがありそうな少女だった。


「あとで回収して捕虜にする。確保しておいてくれ」

「分かりました」


 そのまま更に上へ登り、ついに司令部と思われるところまでやってきた。

 人気は無く、中に入ると案の定既にもぬけの殻だった。どうやらこの関所は放棄したらしい。これで任務もクリアというわけだ。


「少佐、今すぐ一階に降りてきてくださいませんか!」


 しかし、切迫したティリアの声が、緊張を解きかけた僕に待ったをかけた。


「どうしたんだい」

「撤退するザギールに追撃をしかけたエイラの隊がカターナ・ロッドと交戦、戦況は芳しくありません」


 カターナ・ロッドという名には聞き覚えがある。なにせ、ザギールでは精霊騎士として一目置かれている実力者だ。使っている精霊装も『バオウ』と呼ばれるC級の精霊装、この関所内では一番強い獲物ではないだろうか。


「わかった、すぐ向かうよ」


 敵もあらかた片付けたので、登ったときの倍以上の速度で下ることができた。

 そして、ティリアの誘導のもと、エイラたちの元へ向かえば、確かに一人の男がエイラの隊を圧倒していた。


読んでいただきありがとうございます。

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