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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
第二部 神曰く、死とは救いであり殺めるとは善行なのである
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自覚

「素晴らしい、よもや、六道のモネまで倒してみせるとは。敬服に値します」


 驚くほど透き通った、それでいて大きな存在感を持つ声――その声には聞き覚えがあった。

 瞬時に周りを見渡すが、当然ながら彼女の姿は見受けられない。僕は溜息を吐きながら、言葉に答えた。


「――――イリス、見ていたなら声を掛けてくれていてもいいんじゃないかい?」

「私はあくまで一国の長――そう易々と戦場に顔を出せる身ではありません」


 さも当たり前のように――実際間違いではないのだが――そう嘯く彼女、聖イリヤウスに僕は肩を竦める。全く。つまりは、僕が今まで使った禁忌魔法の数々も見られていたということか。

 だが、それにしても疑問は残る。


「イリス、これは一体どういうことだい? 今君はモネ君を知っているような口ぶりだった。つまりは、彼女は君からの、皇女からの刺客ということかい? 僕はどこかで君の逆鱗に触れるようなヘマをしたのかな――?」


 どこにいるかは分からない、しかし必ず近くにいる人物に対して僕は問いかけた。

 しかし、返ってきたのは、今まで聞いたことのない、寒気がするほどの美しい笑い声だった。


「ふふっ、カナキ、逆よ。あなたは試練に合格したわ。これであなたの死後、エーテル神のご加護は約束されたものになったでしょう」

「なんだって?」


 予想外の答えに眉を顰める。それでもくすくすと、天使の美声は続く。


「合格、と言ったのです。あなたはこれまで、ウラヌス、及びこのシスキマの町で十分に力を発揮してくれました。そして極めつけは、目の前にいる六道が一人、モネまでも退けるほど。これで最早他の上役の文句も通りません。あなたは、正式に国の、“私の”力になれることを証明したのです。この試験に合格した転移者は稀です。十分に誇っていいものですよ」

「…………」


 顔も見えないが、声の主であるイリスが上品な笑みを浮かべて僕を、僕とモネを見下していることは肌を通じて感じた。

 はっきり言って、不快だった。


「……そうか、それは満足だよ――」


 言葉と共に、僕は動いた。

 足を大きく一度踏み鳴らし、音を反響させて周囲の敵を索敵する。

 結果は、洋館の外に華奢な女性が一名――イリスだ。そう悟った瞬間、僕は聖晶析を砕き、瞬時にイリスの眼前へと迫り、




 数秒後には、イリスの前で頭を垂れていた。




「――――――ッッッ!?」


 一瞬、本気で狼狽した。こちらの世界に来て以来、初めてではないだろうか。

 慌てて自分の足を見れば、膝から下が綺麗に切断されていた。


「――こんなのに後れを取るとは、やはり所詮は“人間道”か」


 気づかなかった。

 声のした方を向けば、いつの間にか闇の中に一人の女性が立っていた。身長は百八十に届くだろうか、という高身長で、和服のような着物を着ている美女だ。特に得物を持っていない彼女だが、“アレ” に斬られたということだけは僕にも理解出来た。


「誰の許しを得て私を見上げている。屑は屑らしく頭を垂れよ」


 そしてイリスの傍に仕える彼女は、そう言って僕を侮蔑の念を込めて見下した。久しぶりの感覚だった。それはあのときの、日本にいた頃の周りが僕を見る瞳と同じ色をしていた。

 いいよ、それならとことんやってあげようじゃないか。


「――ッ」


 魔晶石を一度に二つ砕いた僕は、先ほどよりも更に早く、倍速に近い動きで立ち上がり、和服の女に襲い掛かった。女は反応すら出来てない。それなら、足を砕いて僕と同じ目に遭わせてやる――

 角度、タイミング共に完璧だと自負する蹴りが、女に届く直前だった。


「――――遅すぎる」

「え、」


 蹴りが軽く躱された。

 そう理解した一秒後には、僕は再び地面にひれ伏していた。

 おまけに、今度は両脚だけでなく、両腕までもが無くなっている。

――また斬られた!?  どうして、いつ斬られたというんだ!


「……フン。まさに転移者らしい田舎者だな。自分の力量をまだ見誤っているらしい」


 頭上を睨むと、和服の女がそう吐き捨てた。

 やはり、再び僕は彼女にやられたらしい。しかし、理解はできても納得は出来なかった。なにせ、魔晶石を二つ砕いた僕の体術をだぞ? 今まで、それこそ先の世界で十指に入る実力者のエリアスですらここまで完璧に見切れることは出来なかったものだ。それを彼女は精霊装すら展開させた素振りも見せずに返り討ちにしたというのか。


「――――翠連(すいれん)、そこまでにしなさい」

「はっ」


 イリスの柔らかい、しかし威厳のある声に和服の女、翠連は音も無く消える。それで僕が、気配さえもつかめなくなるというのだ。彼女の腕は僕より、いや、さらにはエリアスよりも上だということを認めざるをえないだろう。


「カナキ、少しは私を聞いてくれる気になりましたか?」

「……」


 僕は沈黙で肯定と答えた。この上ない屈辱だった。これまで僕は、自分を弱者と形容し、それを周りにも流布してきたが、ここにきて初めて気づくことができた。




――僕は、僕を弱いとは、本当は露ほども思っていなかったのだ。


ブツ切りですみません。

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