大鎌の死神 2
「……うふふっ、びっくりしたぁ。カナキ君、そんなに喧嘩が強いようには見えなかったんだけど……なっ!」
それでも笑みを保っていたモネの表情が、僕を見てついに固まる。
その視線は僕の左手――真紅の紫電により既にほぼ再生を終える腕に注視されている。
「あなた……本当に何者なの?」
「それも“あの方”とやらに聞いたらどうですか?」
「ッ!」
どうやらモネは腹芸が得意な方ではないらしい。
露骨に顔を歪ませたモネが表情を引き締める。彼女からの殺気が桁違いに跳ね上がる。どうやら“あの方”とやらはトップシークレットらしい。挑発したのは失敗だっただろうか。まあ今更考えても後の祭りか。
どのみち、僕も『魂喰』のストック能力を晒したのだ。殺すには色々と惜しい相手だが、いざとなれば口封じのために処理することも検討しなければならないだろう。
まあ、つまりはお互い退くことが出来なくなったってことだね。
「……」
「……」
先ほどまで軽口を叩いていたモネも、僕ももう喋らない。
久しぶりに殺し合いをするのだという感覚。アリスやガトーのことをいつも軽蔑していたが、この空気がヒリつく感覚は懐かしく、緊張とは別に、胸が高鳴っている自分に気づいた。おいおい、勘弁してくれ。これじゃああとでイリス宛てに前線希望の志願書を送ってしまいそうだ。
まあまずは、この場を乗り越えることから始めなきゃいけないけどね――
「はっ!」
先に仕掛けたのは僕。下級魔法『焔刃』を放ち、モネの出方を伺う。魔法による遠距離攻撃はこの国では見慣れないもののはずだ。少しでも出鼻を挫ければよいのだけれど。
「そんなもの!」
モネは迫る炎の刃を大鎌で掻き消す。あれだけ巨大な鎌をああも軽々扱うか。僕の本分は近接戦。いざ懐に入るときには注意しておこう。
「『岩氷柱』」
僕は続けざまに魔法を放ち、今度はモネの足元に鋭く尖った岩を複数出現させる。
モネは跳躍してそれを躱すが、魔法のないこの世界では原則として空中では身動きは取れない。
「これでどうかな」
――『終末』。それは『霧幻泡影』を改良して遠距離攻撃として使えるようにした消滅魔法。
空中で逃げ場はなく、叩き落とそうにも、消滅魔法は防御不可の攻撃だ。触れた物は何であっても消滅させる。
「くっ!」
そして、それを知らないモネは迎撃を選択する。手にした大鎌で終末を両断――できず、その得物ごと黒い奔流に呑み込まれた。
「…………」
やがて黒い奔流が消えると、後には何も残っていない。はみでた両脚だけがぼとぼとと床に転がった。
――あっけないものだ。
手加減できなかったらしょうがないとはいえ、情報源をみすみす消してしまったのは悔やまれる。彼女が結局何者だったのか分からずじまいだったわけだが――――
「良い夢は見れた?」
目覚めると、眼前に柔らかい笑みを浮かべたモネがいた。
「なっ」
「おかえりなさい、ここが地獄よ」
次の瞬間、振るわれた大鎌が、僕を脳天から寸断した。
脳は破壊されたため、しばらくは思考能力が著しく低下する。
だが、脳の再生が完了しても僕には何が起こったのかが分からなかった。
ただ、目の前には消したはずのモネがいて、口を手で覆い、目をまん丸に開いていることだけは確かだった。
「うそ……、真っ二つにしても再生するわけ……? エーテル教の教えにはないけど、他の宗教なら絶対悪魔とかに分類される存在だね、きみ」
「僕は、正真正銘……人間ですよ……」
脳を破壊されたからか、まだイマイチ思考がまとまらないが、彼女はどうやら生きているらしい。
では先ほどの光景はなんだったのだ? まさか白昼夢を見ていたというわけではあるまい。自分の頭が異常なのは知っているが、よもや戦闘中にそんな間抜けなことをするほどとは思えなかった。
「とにかく、色々試してみようかしら……!」
「ちっ!」
泥沼にハマりそうな思考を停止し、目の前のモネに意識を集中させる。
モネが跳躍し、一気に距離を詰め、大鎌を振るうが、それをバク転で躱し、一旦距離を取る。
「逃がさないって!」
「なにっ!?」
そこにモネが大鎌を、ブーメランの要領で投げ放った。
その予想外の攻撃で胸を浅く裂かれるが掠っただけだ。マティアスとの訓練や他の手練れとの死闘で培った反射神経はまだ衰えていなかったらしい。
とにかく、武器を投げ捨てた今のモネは丸腰。僕が一気に距離を詰めようとしたとき、モネが空を掴み、何かを引き寄せるようなジェスチャーをした。
「ッ!」
その瞬間、投げ放った大鎌が突如進路を百八十度変え、猛スピードで僕の背中から迫る。すぐさま『鉄の籠手』で迎撃するが、刃先に触れた手が斬り落とされる。魔術で強化していたはずなのに、なんという切れ味だ。
「ふふ、どこ見てるの!」
「くっ!」
そして、いつの間にか背後に迫っていたモネが大鎌をキャッチ、それを袈裟斬りに振るうモーションに入る。
「調子に、乗るな!」
だが、その動きは手慣れてはいるが、達人ではない。
予備動作でそれを見切ると、最小限の動きで躱し、逆に必殺の一撃をモネの胸に打ち込む……が。
「いやだ、女の胸に手を入れるなんて紳士とは言えないんじゃなくて?」
冗談っぽくウインクしたモネの胸を貫通した僕の腕は、何も手応えを感じなかった。
「う、そだろ?」
まるで空を切ったような感覚に動揺した僕は、
「はい、二個目!」
次に振るわれたモネの一撃を防御できず、首から上が宙を舞った。
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