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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
第二部 神曰く、死とは救いであり殺めるとは善行なのである
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大鎌の死神 1

Side 金木


「……これはどういうことですかね」


 まさに一瞬だった。

 ロイの後ろに突然影が差したかと思うと、次の瞬間にはロイの胸を二本の剣が貫いていた。十分に手練れといえたシャロンと見比べても、手際は雲泥の差だった。下手をすればガトー、いや、マティアスクラスの……。

 そして、何よりも驚きだったのが、その犯人だ。


「どういうことっって言われても、こういうことだとしか言いようがないわよ、カナキさん」


 ロイを屠った張本人――モネはいつものように朗らかに笑う。その笑顔だけ見ると、ここがいつもの酒場だと勘違いしてもおかしくないくらいだった。

 僕は反射的に足元に倒れているシャロンを見る。目の前のモネとシャロンは同一人物だと思っていたが……。


「?」


 足元には既にシャロンの姿がなかった。ならばやはり目の前のモネこそがシャロンと同一の……?

 そう考えたのと同時に悪寒を感じ、反射的に背後に『魔力執刀(チャクラメス)』を振るう。

 ギィイン、と甲高い音を立てて、首筋に刃を振るったシャロンの一撃が防がれる。少しでも遅ければ僕の首が吹き飛んでいたところだ。


「……」


 シャロンはそのまま空中で器用にバランスを取り、着地と同時にモネの元まで一足で後退する。追撃を仕掛けることも不可能ではなかったが、僕はあえてその機会を逃す。

 代わりに放ったのは、モネ“たち”に対する問いだ。


「……まるで手品でもみているかのようだよ。どうしてシャロンさんは無事なんだい?」


 モネのそばに降り立ったシャロンには目立った外傷は見受けられない。先ほど、確実に頸椎を破壊し、殺したはずだ。よもや自分が仕留め損ねたのかとも考えるが、あのときの慣れた感触は間違いなくシャロンを殺すに足る一撃だった。


「私こそ驚きよ。まさかいつも酒場で呑んでいた人が、こんなにも魅力的だったなんて。これなら、私と戦う資格があるわ」


 モネがそばにいたシャロンの肩に手を置く。二人がかりで仕留めに来るつもりか。

 僕のその考えは、しかしすぐに間違いであったと悟った。

 シャロンの体が突然光となり溶け出した。

 驚く僕をよそに、シャロンは静かに目を閉じ、人間としての形を失っていく。そのまま消えていくのかと思われた彼女は、次の瞬間には新たな物体となっていた。


「……鎌?」


 それはモネの体躯よりも大きい、巨大な大鎌だった。

 濃緑の柄に刀身は黒く、達人の業物を彷彿とさせる武器だが、あれもおそらくは……。


「それも精霊装、つまりはシャロンさん自身が武器、精霊装だったというわけですか。人間の姿になれる精霊装があったなんて知りませんでしたよ」

「知らなくて当然よ。こんなこと、皇国でも一握りの人間しか知らないから」


 そのモネの言葉に、僕は小さな引っ掛かりを覚える。


「皇国で、ですか? てっきりあなたはザギールの手の者かと思ってましたが」

「あら、口滑らせちゃった。駄目だなぁ、わたし。カナキ君の前だといつもそう。ペラペラ喋りたくなっちゃう」


 そう言うモネは、大鎌を半身になって構える。

 明らかに臨戦態勢だ。


「え、ちょっと待って。なんで僕を殺します的な雰囲気なのかな。君が皇国の人間なら、そんなすごいものを持っているんだから位も高いはずだ。僕のことだってイリス君から聞いているはずだろう?」

「うーん、なんのことー? わたし、エーテル教以外のことは全く興味ないからわかんなーい」

「……そうですか」


 どうやら戦闘は避けられないらしい。溜息を吐きつつも、僕も戦闘態勢に入る。


「あ、殺る気になってくれたんだ?」

「安心してください。色々訊きたいこともあるので、続きはベッドの上で聞かせてもらいます」

「いやーん、もう、エッチ!」


 モネが床を蹴るのと同時に僕も一歩目を踏み出す。二歩目で、僕は驚嘆する。

 モネの身体能力は先ほどのシャロンにも引けを取らない、むしろ脚力だけなら上回るほどだ。あのシャロンに化けていた精霊装が身体能力を向上させているのだとすれば、まずはあの武器から消しておくか。

 僕は左手で魔晶石を砕き、右手に『霧幻泡影(デストラクション)』を発動させる。いくら精霊装が強力な武器とはいえ、所詮は武器だ。


「フッ――」


モネの上段からの振り下ろしに対して右手の掌底を合わせる。漆黒の瘴気が大鎌に触れる刹那、


ジャラジャラッ


「ッ!?」


 突如右腕に衝撃が走り、掌底の角度が逸らされる。まるで、蛇に絡みつかれたような――


「もらいっ!」

「ぁ……」


 振り下ろされた大鎌は、寸分たがわず僕の右腕を斬り落としていた。

 久しく感じていなかった激痛に、僕は思わず叫び声をあげる。


「大の大人がそんなに騒がないの」

「がっ」


 大鎌の柄で器用に顎を打ち抜かれ、僕は白目を剥いて横たわる。

 足元に伏した僕に、モネは退屈そうに溜息を吐く。


「なーんだ、あの方直々の命令だから、どれだけ強いのかって期待しちゃったけど、やっぱり所詮はこんなもの――――」


 モネの意識が僕から逸れた瞬間、僕は左手一本の力でバネのように起き上がると、モネの顎を消し飛ばすつもりで左足をふり抜いた。


「~~~~ッ!」


 耳元で、再び金属の擦れ合う音。

 そして、僕の一撃はまたも不可視の何かに阻まれる。音と手応えからして鎖だろうか。それならば先ほど右手に絡みついた感覚にも合致するが。


「こんなもので……!」

「ぐっ……!」


 モネからの押し返す力が強まった瞬間、僕は即座に蹴り足を引き、今度は逆に下段、足払いを仕掛けに行く。

 これは予想していなかったらしく、モネはバックステップするも片足を掬われバランスを崩す。上半身に拳一つ分の隙間が生まれる。


「フ――」


 雷手(カンクー)。マティアス直伝の、音すら置き去りにする最速の一撃。

 防御が間に合わずに吹き飛ぶモネ。手ごたえはあったが左手の再生が不十分だったため、必殺と呼ぶには威力が足りなかったようだ。

 マティアスの暗殺術は五体揃って初めて本当の威力が発揮される。今更実感するとは、僕も体が鈍っているのかもしれないね――

 そして予想通り、モネは壁際まで吹き飛ぶが、すぐに体勢を整え構え直す。これには僕も驚いた。流石に膝くらいはつくものと思ったが……。

 しかし、顔を上げたモネの表情には、驚嘆の色が濃く表れていた。


読んでいただきありがとうございます。

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