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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
第二部 神曰く、死とは救いであり殺めるとは善行なのである
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異形の住む館 上

「――てんめぇええ!」


 最初に硬直から脱したのはアックスだった。

 壁際に吹き飛ばされて崩れた体勢を整えると、持っていた機関銃を構える。直後に連射された銃弾は、全て異形の体を捉えるが――


「うそだろ!」


 それら全てを受けても、異形はまるで何事もないかのように身じろぎひとつしなかった。アックスに続き、フレシアともう一人の奴隷兵も銃弾を浴びせるが、それらの集中砲火を受けてもなお、異形にはまるでダメージが通っていないようだった。


「あっぼ、あ、あんちょ」

「ッ、銃撃やめ!」


 そして、異形がまたあの意味の成しえない言葉を繰り返したとき、僕は覚悟を決めて飛び出した。

 銃弾が止んだときには、既に自身の体にはいくつもの身体強化魔術が施された後であり、軽くなった体で異形へと肉薄した。


「ッ!」


 異形の首を狙って跳躍すると同時に展開した『魔力執刀(チャクラメス)』を振るうと、異形の体から数センチ手前で不可解な抵抗力。目をこらすと、異形の体の表面には、うっすらと結界のようなものが纏わりついていた。

 はたから見れば、空中でいきなり停止したように見えるだろう僕の目の前で、異形の頭がゆっくりとこちらに動く。本能的に危険を察した僕は、この世界に来て初めて魔晶石を砕いた。


「うぉ……」

「なに、これ……!」


 背中から奴隷兵達のどよめきが聞こえてきたが、今はそれどころではない。

 暴風と化した魔力の奔流は、やがて僕の右足に収束する。


「『颶風炸裂(ウィンダルバースト)』……!」


 右足が異形を捉えた瞬間、凄まじい暴風が異形を吹き飛ばした。

 颶風炸裂は、体の一箇所に魔力を集中させ、蹴りや突きをした瞬間にその魔力を一気に開放する中級魔法だ。近接系が得意な魔法師が得意とするが、魔晶石に溜め込んでいるほどの魔力を解放すれば、たとえ防御魔法が張られていても、余裕で人一人を殺傷するには十分の破壊力を秘めているのだが……。


「……これがほぼノーダメージか」


 壁を突き破り外に吹き飛んだ異形を二階から見下ろすが、多少怯んだ様子はあっても、目立った外傷は見当たらなかった。奴の表面を被膜のように覆う結界は、少なくとも上級魔法並の強度を誇っているということだろう。


「おい、今のでけえ音はなんだ!」


 すると、都合よくエイラの班が音を聞きつけてやってきた。

 僕は手早く指示を出す。


「エイラ、事情が変わった。ティリアの隊と合流した後、町まで撤退する。君が先頭を務めろ。殿は僕がする」

「ちょ、てめえ少しはどういう状況か説明しろ!」

「君がアレを見たら興奮して、アレを刺激しかねない。今は上官である僕の命令に従ってもらうよ」

「チッ!」


 エイラは根っからの軍人気質なため、上官命令だということを伝えれば従うのは便利なところだ。これで悪態もつかなければ完璧なんだけどね。

 フレシアと目配せし、撤退の笛を吹かせる。眼下の異形を見れば、奴の顔、というか口がこちらにちょうど向いたところだった。異形は巨体を丸めたと同時に、僕は次の展開を予想して魔晶石を砕いた。


「――フッ!」


 直後に、砲弾のように飛び込んできた異形の巨体を、僕は先ほどと同じく『颶風炸裂』で蹴り返していた。突発的な暴風に奴隷兵が飛ばされないように身を屈める。


「……ちっ」


 分かってはいたが、やはり異形の鎧と化した防御結界は砕けない。貴重な魔晶石を無駄にしたことに舌打ちをすると、険しい顔でこちらを見るエイラと目が合った。


「てめえ……」

「……君が先陣を切れと命令したはずだ。早くしないとまた奴が来る。急げ、エイラ・ヴァース中尉」

「チッ!」


 納得のいかない表情で、それでもエイラは僕の命令を守り行動する。まずいな。今のエイラの目は、完全に仲間を見る目ではない。何か化け物を見るような、そして疑心に満ちた目だった。ウラヌスの激戦を知っている彼女からすれば、なぜあのときその力を使わなかったのか、という気持ちにもなるだろう。

 ――彼女は結構貴重な戦力なんだけどなぁ。






「エイラ!」

「このクソティリア! てめえ撤退の笛が聞こえてなかったかのか!」


 屋敷のエントランスまで来ると、ちょうどティリアの班と合流した。

 しかし、人数が一人少ない。それを目で問うと、ティリアは悔恨の表情を浮かべた。


「大尉、申し訳ありません。撤退の合図は聞こえていたのですが、その直後に敵と遭遇していしまい、班員であるアベルを犠牲にしてしまいました……」

「敵、というと、あの毛むくじゃらの巨人かい?」


 アベルが死んだことよりもそちらの方が断然気になる情報だった。もしもあの異形が複数いるなら、最早出し惜しみしている余裕もなくなる。


「巨人……? いえ、私が見たのは人間です! それよりも早く、ここから――」

「――おやおや、こんな辺鄙な場所で、よもや一番会いたかったあなたと会えるとは!」

『ッ!』


 全員が素早く銃を声のした方向に向けた。


「……あなたは」

「これもわれらがエーテル神の思し召しでしょうか……ねえ、タイガ殿?」


 二階へと続く大きな階段の上、そこには穏やかな笑顔を浮かべるシスキマの教会の神父、ロイが立っていた。


読んでいただきありがとうございます。

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