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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
第二部 神曰く、死とは救いであり殺めるとは善行なのである
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偵察

自分でも色々思い出しながら書いてます。

 そして、僕の予想は間違っていなかった。

 例の馬車が関所を越えたときから、僕はエンヴィを呼び戻し、姿形を変えて馬車を徹底マークした。

 馬車は、まるで見せびらかすかのようにシスキマの町の往来を堂々と通って行った。もちろん、そのときには、町にこれだけ人間がいたのかと驚くほどの人だかりができていたから、アレは「商品の宣伝」という意味合いも兼ねているのかもしれない。

 そのため、町中ではエンヴィを難なく監視として付けることはできたのだが、問題は馬車が町を抜け、郊外の森の方へ向かってしまったあとだ。人どおりも少なく、そもそも遮蔽物が少ない道では、人間にしか擬態できないエンヴィは、却って体積の小さいスライム状態のままの方が有効と思われた。

 しかし、そうなると、馬車の走行スピードには付いていけず、馬車が森の中に入ってしまったころには見失ってしまっていた。

 だが、逆に言えば馬車が森の中に入っていったのは確認した。あれだけシスキマの町を大々的に通った以上、森を抜けて遠く離れた隣町へ、という可能性は考えにくい。つまり、森の中にあの馬車の目的地があるはずだ――

 その推察を基に、翌日から郊外の森の探索を始めるようになった。

 とはいえ、多忙を極める僕にそんな暇などなく、関所にはエンヴィを置くようになった。エンヴィは基本しゃべれないので、有事の際以外はただ椅子に座らせているだけだ。そのせいで、アックスやフレシアからは「サボり癖がついた」と言われる羽目になったが。

 しかし、そうやって奴隷兵からの信頼を失ってでも森を探索した甲斐もあった。森の探索を初めて一週間ほどが経った時、遂に手がかりをつかんだ。


「これは……」


 森の中を歩いていると、ふと違和感を感じ、周囲を見渡した。

 そのときは、特に違和感の正体が何か分からなかったが、それからさらに小一時間あたりを散策し、その正体に気付いた。


「なるほどね……」


 木々が密集する景色、その景色がこの一時間で“全く”変わっていないのだ。

 例えば、二時の方向に見える五本の木。その位置はおろか、枝の数や幹の模様まで、先ほど見たものと全く同じものなのだ。今の僕は方位を見失わない魔術を掛けているため、決して道には迷わない。ただ、それはあくまで自然な森を歩いた時の話。外部から方向を狂わせる何らかの力が働いた場合、最下級魔法ではリカバーしきれないのが現状だろう。

 つまりは、今僕は何らかの異能で意図的に方向感覚を狂わされている可能性が高い――


「うーん」


 できれば隠密行動に徹したかったのだが仕方がない。

 僕は『看破(シースルー)』の魔術を発動した。すると、周囲の景色は一瞬揺らぎ、次には同じ景色に戻っていた。

 ただ、先ほどの木々には、小ぶりのナイフのような物が刺さっていた。ちょうど時代劇などで忍者の使う、クナイのような形だ。

 念のため、それには直接触らず、遠目から検分してみるが、何らかの精霊装と見て間違いはなさそうだった。

 どのような効力かははっきりとは分からないが、この精霊装の使い手が結界が破られたことを知られれば、ここに長居して良いことはないだろう。

 僕は静かに、それでいて足早に森の奥へと進んでいった。




 宿舎に戻ってきた時には、既に日はとっぷりと暮れていた。


「ふぅ……」


 安物のウイスキーをグラスに注ぐと、一息で呷る。喉を熱い感覚が通り抜けたが、それがどこか心地よい。

 あの後、森の奥へと進んだ先には、一軒の巨大な洋館がたたずんでいた。

 人の気配はなく、一見すると既に引き払われたようにも見えるが、その周辺につい最近できたと思われる馬車の通った痕が残っていれば話は別だ。間違いない。あそこに例の関所を越えた馬車、ひいては奴隷商人Xが存在するはずだ。

 問題は、それをどうやって攻略するか、だ。


「はぁ……」


 そもそも僕は、あの奴隷たちをどうしたいのだろうか。

 最初は、ゴロツキを使ってちょっかいをかけてきた小物の掃除くらいで考えていたが、今日森に張られていた結界といい、どうやら彼らはそこそこの戦力を有しているようだ。

 そうなってくると、僕が仕事の片手間に掃除するのには大きいゴミだし、だからといって野放しにしているのも、こう落ち着かない。例えるなら、部屋に蜘蛛の巣があって、蜘蛛がどこかに潜んでいるが、それを放っておくような。実害は少ないが、あまり気分の良いものではないということだ。

 だが、前述したとおり簡単には掃除できない。ならば、業者を呼んで駆除してもらうのはどうだろう。今でいうと、タイガ隊をあの洋館にけしかけるとか。……不可能ではないが、あまり良い手とは思えない。部隊を動かすほどの大義名分があるかと言われると……ないとまでは言えないが、弱いと言わざるを得ない。これで、彼らがザギール軍を裏で手引きしているとかなら話は早いのだが――


「……いや」


 そこで僕ははたと気付いた。

 別に、必ずしも事実ではなくても、限りなく事実に近い、つまり疑いをかけることはできるのではないだろうか。

 今回で言えば、そうだな……「森の奥の洋館に潜む集団は、実はザギールの息がかかった者たちで、これが事実かどうか調査にあたったところ、激しい抵抗にあい、やむなく応戦した……」細部はもう少し詰める必要があるが、案外こんなものでも大義名分になるのかもしれない。

  その日は軍本部への『言い訳』を考えているうちに夜が明けたが、そのころには、既に我ながら満足のいく『大義名分』が完成していた。


読んでいただきありがとうございます。

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