クリスマス的な催し ①
季節なので書きました。
完全なifストーリーのため、時系列や人間関係等、本編とは違うところが多々ありますがそこらへんはご容赦できる方のみ読んでください。
なんでこの世界にもクリスマス的なものがあるんだろう。
「さむっ」
最近は朝起きても朝日はなかなか顔を出さないし、部屋の中が凍えるような寒さになっていることがしょっちゅうだ。冬はやだなぁ、布団から出たくないなぁとか思いながら、そうもいかずにノロノロと布団から這い出ることが多い。
手早く着替えをすませ、軽い朝食を済ませた頃になると時刻は六時。日課のロードワークも雪が降っている日は休みにしたいところなのだが、そんなことをした暁には待ち人にどんな仕打ちを受けるか分かったものではないので、こうして毎日欠かさず鍛錬を行うことが出来ている。
家を出て街を走ること二十分。ようやく太陽が山の向こうから姿を現わし、シールの街並みを照らし始めたとき、目的地である河川敷に到着した。大体、彼女たちが先にいることが多いため、今日も例に漏れず、待ち人であるカレンとフィーナが既に準備体操を始めていた。
「やあ、二人ともおはよう」
「おはようございます、先生」
「あら、おはようございます」
律儀に頭を下げたのが、皇女専属の従者であるフィーナ・トリニティ。そして、朝っぱらから優雅に髪をふわさーって感じでかきあげたのが、この国の皇女様であるカレン・オルテシア姫だ。
二人とはこうして冬休み中は毎朝一緒に鍛錬を行うことを決めた、というか勝手に決められたのだ。
「二人とも今日からやっと冬休みになったんだから、無理してこなくたっていいのに」
「あら、先生。それは自分が休みたいっていう遠回しな願望かしら?」
「あ、あはは、そんなわけないじゃないかー」
思いっきり図星です。
というか、そこで僕はカレンがこの時期に王都に帰られないことを遅ればせながら疑問に思った。
「カレン君、そういえば君だって王族だし、この時期は何かと忙しいんじゃないかい? 王都には帰らないの?」
「ふふ、そういえばって先生、随分な物言いだけど……まあそうね、一言で言えばとっても忙しいわよ」
「え、それじゃあなんで」
「私だって学校が終わり次第、すぐに王都に戻ろうとしていたのだけれど、その前にフィーナがどうしてもあなたと逢いたいっていうから……」
「か、カレン様! 私はそのようなこと一言も言っていません!」
「だってフィーナ、ただの鍛錬ごときのために王都に帰るのを遅らせるって相当なことよ? だからこそ、あなただってこの前、鍛錬を行う必要性についてを、あんな論文みたいな分厚い紙に書いて私に渡したんじゃない」
「あ、あれはただ鍛錬する必要を説いただけであって……!」
「そのためになんで私が一時間もかけてあなたの意見書読まなきゃならないのよ。気合の入り方が違いすぎるわ」
「そ、それは……」
ごにょごにょと語尾を濁らすフィーナ。彼女が言い争いで負けるところなど初めてみたかもしれない。
「そ、それより鍛錬です! カレン様はこれから一時間後には王都へ向けて出発せねばならないので時間がありません! 早く始めましょう!」
「ふふ、まあいいわ。先生も、準備はよろしくて?」
「あーうん、それは大丈夫だけど」
今一時間後に王都に出発するって言った? まだ朝六時過ぎなんだけど、どんだけ過密スケジュールなのこの子たち。
二人の予定に驚きつつも、トレーニング自体はつつがなく行われた。彼女たちとのトレーニングは、僕に体術を教えてもらうことに重きを置いているようなのだが、今日はこの後王城で行われる舞踏会やらなんやらで、万が一にも体に傷を負うわけにはいかないため、練習自体はとても軽いものだった。ていうか、それならそもそもそんな日にトレーニングなんてするなよ……。
そんなこんなで、実質三十分程度のトレーニングは、お互いが軽い汗を流した程度でお開きとなった。僕としては、むしろ毎回これくらいの方が楽でいいのだが、向上心の高すぎる二人は普段なら僕がひぃひぃ言っても足りないくらいの練習量を求めてくるからたまったものじゃない。
まあそれでも、彼女たちの申し出を断らないのは、これを機会に二人とより親密な関係を持つことが出来る可能性があるからなんだよね……。
「あのぉ二人とも。ちょっといいかな?」
「? はい」
そして、親交を深めるうえで、今日というイベントを逃さない手はない。
僕は収納用の魔導具の中から、用意していた二つの小包を差し出した。
「はい、こっちがカレン君で、こっちがフィーナ君。いつも君たちがもらっているだろう物はこれよりはるかに立派なものだろうけど、受け取ってくれると嬉しいな」
「これは……プレゼントですか?」
「うん」
「あ、ありがとうございます!」
ぱっと顔を輝かせたのはフィーナだ。最近は本当に彼女が色々な表情を見せてくれるようになり、嬉しさがこみあげてくる。
それに対し、逆にカレンの方は懐疑的な眼差しを向ける。
「一教師が特定の生徒にプレゼントをあげるって色々とまずいんじゃありませんか?」
「うっ……いやいや、これはただ単に毎日稽古を頑張っている君たちへの差し入れみたいなものだから」
「さっき思い切りプレゼントって言ってたじゃない」
冷ややかな目を向けてくるカレンだったが、僕達の話も聞かず、嬉しそうな顔でプレゼントを見ていたフィーナを見て、仕方ないなぁ、と言った感じで溜息を吐いた。
「でも、そういうことなら有難く受け取らせていただくわ。ありがとうございます、先生」
「いえいえ、中身が満足して頂けたら幸いです」
「あら、ここで開けてもいいものなの?」
「…………多分」
実は彼女たちへのプレゼント、異性でしかも王族とその従者ということで、流石の僕もどんなものが気に入るか分からなかったため、ある人に見繕ってもらったのだ。直接僕が依頼を出したのはエトなので、彼女が選んだものなら問題ないと思うのだが、その話を聞いていたあの人がもしも選んでいたら下手するととんでもない物が出る可能性もある……。
しかし、そんな危惧は杞憂に終わり、カレンの小包から出てきたのは小さなタオルだった。
「タオルって……一周回って逆に意外な物を選びましたね。私、一応皇女なのだけれど?」
「と、とはいえ、今の君はセルベス学園の一生徒だから、あまり凝ったものを僕があげるのはおかしい話だろう? 君は、鍛錬のときも普段タオルを持っていることをあまり見なかったから必要だと思ったのさ!」
最近、咄嗟に嘘を吐くことが益々上手くなってきた気がする。
幸い、カレンも一応それで納得してくれたようだ。
「ふぅん……タオルを使わないのは、いつも風魔法ですぐに乾かしてしまうからなんだけど……まあ、触り心地もいいし、この際だから使わせてもらうわ。ありがとう」
なんとか切り抜けられたことにほっとする。
おそらく、エトは普段自分が欲しいものを基準にして選んだのだろうが、その相手が皇女様ということをもう少し考えて選んでほしかったのは正直なところだ。まあでも、皇女様へのプレゼントなどなにをあげればいいか分からないのは分かるし、だからこそ僕も彼女に丸投げしたのだ。文句は言うまい。
「…………先生」
「ん?」
しかし、その後に僕は思い知る。
カレンの方はフェイク。犯人の真の狙いは、フィーナの方のプレゼントだったということに――
「私の方はこれがプレゼントって……一体どういうことなのか説明してもらえませんか……?」
「なにって……ぶっ!?」
中身を見た瞬間、僕は包装が崩れるからとプレゼントを確認しなかった自分の浅慮さを呪う。
その中身は、フィーナ、そしてカレンさえも激怒させるには十分な品物だった。
「なんで私のが――イチゴパンツなんですかぁ!」
オチのくだりについては聞かないであげてください。
読んでいただきありがとうございます。




