有りえざる再開
Twitter企画で人気投票一位になったフィーナの新規エピソードです。ifっぽいですが、思い切り物語上の話にしました。
外で小鳥の囀る声が聞こえた。
目を覚ました僕はゆっくりと目を開ける。
カーテンの隙間からは陽の光が木漏れ日のように光が差し、少しだけ開いていた窓からは朝独特の匂いが運ばれてきた。
こんな穏やかな朝はいつぶりだろうか。覚醒しきっていない意識が暢気にそんなことを考える。だが、確か昨日は明日に回そうと考えていた仕事がいくつかあったはずで、こんな悠長にしていられるのも朝だけだろうな、と徐々に意識がはっきりとしてくる。
頭上にあるはずの時計に目を向ければ、時刻はまだ六時。こんな穏やかな気分なのだ。もう少しだけ眠ろうと布団を掛け直し、仰向けだった体を横に向け、目を閉じようとした時だった。
僕の目と鼻の先に、こちらを見て文字通り固まっているフィーナにそっくりの少女が真っ赤な顔があった。
「…………」
「…………」
しばらく無言で見つめあう時間が続く。
その間、僕の頭を今の状況を必死に理解しようと努めていた。実は僕、まだ夢の中なんじゃないか、と考えて自分の脇腹をそっと抓ったり、昨日部屋に女を連れ込んだっけ、と記憶を呼び起こしてみたりしたが、どれも違うようだった。
え、ていうかこれ、本当にフィーナじゃない? どういうことなの? やっぱり夢じゃない?
「……あの」
僕の頭が疑問符で埋め尽くされそうになったとき、目の前の少女(声もフィーナそっくりだ)が勇気を振り絞ったかのようなか細い声を出した。
「カナキ、先生……ですよね?」
「…………」
「うそ……本当に、夢みたい……」
涙を流し、言葉を震わせる少女。いや、これもう絶対フィーナ君だね……。
「――うん、じゃあやっぱり夢か」
「……え?」
フィーナが生きているわけがないし、よく見たら部屋の様子も、いつも見る私室とは違う。
というか……この部屋は僕が日本にいた時に住んでいた部屋だね。うん、ここまで来るともう疑う余地もないね。
「それじゃあ何も遠慮することはないね」
そう結論付けた僕は、間近にいたフィーナに思い切り抱き着いた。
「~~ッ!? ちょ、何を……!」
「うーん、凄いな。髪の匂いまで本人とそっくりだ」
フィーナの頭を胸に抱くと、鼻腔まで届いたクチナシの香りに、我ながら再現度の高い夢だなと満足する。
他人事のようにそんな感想を抱きながら、フィーナの背中に回した腕をゆっくりと下へと這わせていく。すると、抱いていた身体がぶるりと震えた。
あ、これはやばい。
「流石にそれは……まだ許容できません!」
「おっと」
僕がベッドをするりと抜けた直後、僕がいた場所を膝蹴りが通過し、掛け布団をぶわぁとめくり上げる。そのときフィーナの着ていた服が見えたが、まさかのセルベス学園の制服だった。
「いやいや……今くらいは違うの着せてみようよ……折角の夢なんだし」
「相変わらずの身のこなし……というか、さっきから夢、夢って、確かに夢みたいですが、これは夢ではありません!」
ベッドから跳び起きたフィーナが、大声で僕を指さし宣言する。先ほどまでのしおらしいフィーナはどこへやら、すっかりいつも通りのフィーナに戻ってしまった。
すると、隣の壁が勢いよく叩かれ、「朝っぱらからうるせえぞぉ!」と野太いヤジが飛んできた。
「フィーナ君。近所迷惑だよ」
「ッ……今はそれどころではないでしょう!」
「夢の中でまで融通が利かない所を再現しなくても良いのに……」
「だから……何度言えば分かるのですか!」
「だからうるせえぞぉ!」
僕は溜息を吐く。全く、久しぶりに幸せな夢が見れそうだと期待したのに台無しだ。
「フィーナ君、あんまり本物に近すぎても駄目なんだよ……。夢の中だけで良いから、もうちょっと空気に流されてくれよ」
「く、空気に流されるってどういうことですか!」
「いや、若い男女が同じベッドに入ったらすることは一つでしょ」
「シャツに手を掛けないで下さい! カナキ先生がそんなことを言う人だったなんて失望しました!」
「好きって言ってくれたのにかい?」
「そ、それはそうですけど……」
急激に顔を紅潮させ、気まずいのか、僕から視線を逸らすフィーナ。両手は所在無さげにスカートの裾を握っている。
なにこれ、滅茶苦茶可愛いんだが。
「……とにかく、いつ夢が醒めるかも分からないし、手早く済ませようか」
「だ、だから夢じゃないですって! 私は本物のフィーナ・トリニティです!」
「自分が本物かどうかなんてどうやって証明できるんだい? 例え自分では本物だと思っていても、そうとは限らないってことは賢い君なら分かると思うけれど」
「……その話題については私も思うことがあるのでじっくりお話しても良いですが、その場合ですと時間も掛かりますし、もしこれが夢ならその間に醒めてしまうかもしれませんよ」
「ぐっ……」
冷静さを取り戻したのか、痛い所を突いて来るフィーナ。頭の回転が速いことも本物の彼女そっくりだが、頼むからこういうときはもうちょっと僕の言う通りの素直な彼女でいて欲しいものだ。
「とにかく、お互い少し落ち着いて話をしましょう。もし話し合って、先生が今の状況をまだ夢とおっしゃるなら、そのときはどうぞ私のことはご自由にしてください」
言葉に詰まった僕から会話の主導権を奪ったフィーナは、畳みかけるようにそう提案してきた。
だがそれは、普段のフィーナを知っている僕からすれば驚くべき提案だ。
「……大きく出たね。じゃあもし僕がこれを夢だと判断したら、本当に君のことを好きにするけど?」
「はい」
「具体的には、君は抱かれることになるんだけど」
「ぐ、具体的に言わないでください!」
この程度で動揺するとは甘いね、フィーナ君。既に勝負は始まっているのだよ。
「一応確認さ。それで、良いのかい?」
「構いませんよ。敗けるつもりはありませんから」
「ふ、負けず嫌いも相変わらずか」
最初はなんだこの夢は、とも思ったが、なかなかに面白い趣向だ。
たまにはアリスさんのように結果ではなく過程を愉しむのも悪くないかもね。
「それでは、一度、互いに腰を落ち着けて、ゆっくり話し合いといきましょうか」
「ふん、望むところさ」
こうして決して有りえなかったはずの僕達の再会は、有りえないくらい何の感動もなく起こった。
かなりコメディ感の強い形になりましたが、多分次からいつもに近い雰囲気に戻ります。
ちなみにTwitterで行ったヒロイン人気投票の結果をこの場を借りて発表させていただきます。
1位 フィーナ・トリニティ 36票
2位 エト・ヴァスティ 18票
3位 アルティ・リーゼリット 2票
3位 サーシャ・クロイツェ 2票
5位 アリス・レゾンテートル 1票
5位 その他(カレン、フェルト、ミラ等) 計3票
フィーナが圧倒的でしたが、それよりもサーシャさんに意外に票が入ってて……




