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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
カナキ・タイガ
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従者との離別

 Sideカナキ


 人間の頭は石のように硬い。

 シズクの頭を踏み砕いた時の最初の感想はそれだった。

 シリュウを見ると、彼は目の前で起こった光景をまだ理解できていないようだった。それも徐々に怒りか喪失感へと変わるだろうが、襲ってくる前に事を済ませておいたほうがいいだろう。


「いてて……」


 僕は自分の眼球をえぐり出すと、再生する前にシズクから奪った目をはめこむ。最初は眼窩に異物感があるだけだったが、やがて視神経がつながり視界が戻る。いや、厳密に言うと、新しい視界が開けた感じか。

 シズクの瞳の『天眼』は、一言で言えば素晴らしいに尽きる。この瞳越しから見る世界はいつもより心なしか明るく見えた。それと同時に、今まで決して視ることが出来なかった様々な物も見えるため、一時的に脳がパンクしそうになる。


「ッ……おおおおおおおおおお!!」

「ッ、待てシリュウ!」


 すると、やっと状況を理解したシリュウが雄たけびを上げ、勢いよく突っ込んできた。エリアスが制止の声を上げるが無視し、まさに猪突猛進といった具合だ。

 僕は足元に転がるシズクの亡骸を持ち上げ、シリュウの前に掲げると、剣を振り上げたシリュウも流石に躊躇した。

僕は、そのままシリュウに死体を投げ捨てると、マティアスに向かって叫ぶ。


「引き続きそっちは任せます! なんなら倒してくれても良いですから!」

「無茶を言うな」


 冷静に返事したマティアスは既に僕を見ていない。遠目からでもエリアスが本気になったのが分かった。一瞬でも目を逸らせばやられるという判断だろう。

 僕は反転すると、そのままラグーンドームの中に逃げ出す。シズクの亡骸を丁寧に横たえたシリュウが、燃える瞳で僕を睨んだのが肩越しに見えた。うん、ここまでは目論見通りだ。あとはあそこに向かえば、シリュウの持つ、あのとんでもない威力の魔法を封じることが出来る。

 僕は、時折後方から飛んでくる魔法を避けつつ、目的地へと急いだ。






「……もう逃げるのは終わりかよ」

「ああ、ここで君とは決着を付けることにするよ」


 目的の場所へとたどり着いた僕は逃走をやめ、憤然とこちらへやってきたシリュウと相対する。


「そうかよ、それじゃあこっちも遠慮なくやらせてもらうぜ……!」


 最早、シリュウは僕と話す気もないらしい。

 剣を上段に構え、急激に魔力を練り上げ始めた彼に、僕は慌てて言った。


「おいおい、君は本当に僕がただ逃げてただけだと思っているのかい? 君はもうその魔法を使えないよ」

「……なんだと」

「こういう状況で悪党がすることと言ったら一つだろ?」


 そう言って僕は、物陰に隠していた人物の腕を掴み、シリュウにも見える位置に引っ張り上げた。

 シリュウの血相が変わる。


「なっ……フィーナ!?」

「あなたは……」


 そう、僕がここに待機させていたのはフィーナだった。

 手足を縛られたフィーナは、虚ろな表情でシリュウを見るのに対し、僕の意図を理解したシリュウは、顔を憤怒の色に染めた。


「お前……どれだけ卑怯なことをすれば気が済むんだ!」

「おいおい、それをシリュウ君が言うかい? エト君にあれだけのことをした君が僕を非難する権利はないと思うんだけど」

「……ああ。確かにそうかもしれない。咎は受けるさ。だが……それでもお前だけは倒す! じゃなきゃ、ここまで犠牲になった人達が報われない! お前が全ての悪の根源なんだ!」

「はは、酷い言い草だなぁ。僕なんて、せいぜいどこにでもいる小悪党なのに」


 乾いた笑いを浮かべた僕は、目の前にフィーナを突き出した。


「ま、だからこそ小悪党らしくこんな言葉も言えるのさ――武器を捨てて降参しろ。さもなくばここにいる女の命は無いぞ……ってね」

「ッ……断る」

「……なに?」


 一瞬表情を歪めたシリュウは、それでもきっぱりと、そう言った。


「言っただろ。皆を殺したお前だけは何があっても倒す。そのためなら俺は手段を選ぶつもりはない」

「おいおい、フィーナ君は君のクラスメイトだろう。仲間を助けるために、君は戦うんじゃないのかい?」

「ああ。だから、これからも沢山の人を殺すお前を倒すことは、その人達を護ることになる」

「それは詭弁だよ。不確定の未来を護るために、今救える命を見殺しにするのかい?」

「ああ」


 即答か。僕は溜息を吐いた。

 これはちょっと想定外だった。レインのような例外ならばともかく、シリュウのような覚悟も定まっていない少年なら、武器までは捨てなくても、せめてフィーナを護ろうとするくらいはやると思ったのだが。

 僕も、まだまだ人を見る目が甘いって事かもね。


「……そうかい。それなら、この道具は本当にお払い箱ってことだね」


 そう言った僕は魔力執刀(チャクラメス)を展開し、フィーナの手足を縛っていた縄を断ち切る。

 驚いた顔を浮かべるフィーナを突き飛ばすと、冷淡な口調で言った。


「フィーナ君、君はもう用済みだ。どこへなりとも好きに消えるが良いよ。まあ、僕と戦うっていうんなら止めはしないけど、貴重な命を散らすことになるかもね」

「…………先生」


 君はまだ僕をそう呼んでくれるのかい。冷淡なようでお人好しなところは君の長所でもあるけど致命的な短所にもなりかねないよ。

 そう伝えることも既に叶わない。僕は魔力阻害の石を起動させると、意識を戦いのみに集中させる。シリュウもそれを見て大剣を構えた。


「フィーナ、俺を恨むのは結構だが、今は避難してくれ。その感じじゃ魔力は空っぽみたいだし、戦いにお前を巻き込みかねない」

「……私は」

「お前までここで死んだらカレンはどうなる! あいつとはそこまで仲良くもないが、あいつが人一倍責任感が強いのは知ってる! 今回のことは自分のせいで起こったって自分を責めてるときにお前までいなかったらあいつはどうなっちまうんだ!」


 シリュウ君め、意外にカレン君の気持ちを分かっているな。

 破天荒な一面が強かったが、やはりシリュウは頭自体も切れるようだ。妹に才能を取られた残りカスだとばかり思っていたのだが、なかなかどうして、こうも厄介な相手になるとはね。

 ともかく、一教師として、生徒の別れの挨拶を邪魔するほど無粋でもない。そのあとも何度か言葉を荒げた二人の口論は、やがてフィーナが折れる形で決着した。


「……シリュウ。出来れば、先生は……」

「無理だ。こいつはここで俺が倒す。それ以上のことは期待すんな」

「……分かった」


 フィーナは、最後に僕の方を一瞥すると、背を向けて走り出した。あの後ろ姿は、もう二度と見ることはないだろう。

 さようなら、フィーナ君。

 心の中でそう告げると同時に、僕は地面を蹴る。

 次の瞬間、振り下ろされたシリュウの大剣を僕は横から思い切り殴り飛ばした――


読んでいただきありがとうございます。

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