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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
カナキ・タイガ
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 Sideカナキ


「金木……亮」


 シズクの呟きは小さいながらも一時的に静かになった廊下にしっかりと響き聞こえてきた。

 僕は大げさに肩を竦めてみせる。


「はぁ……シズク君、こっちでは僕はカナキ・タイガで通ってるんだから、あまり紛らわしいことを言わないでくれたまえよ。みんなが混乱するじゃないか」


 そう言いつつ、僕が左手を持ち上げ、茫然と僕を見つめる手近な人質に向けると、『終末(ジャッジメント)』を放つ。

 黒い光線が人質を呑み込み、そのまま周りの人々も次々と巻き添えにしたところで、やっとパニックが再開した。


「ぎゃああああ!」


 狂ったような叫びをあげて出口に向かって逃走する人質に向かって、更に魔法を放とうと左腕を持ち上げた時、何かが高速で過ぎ去るのと同時に腕が吹き飛んでいた。


「これ以上好きにはさせません!」


 見ると、シズクが杖をこちらに構え、威勢よく叫んでみせた。

 今のはおそらく魔弾(ガンド)だろうが、あまりにも早すぎるな。レインの透化(インヴィシブル)による不可視の魔弾も厄介だったが、シズクの場合は視認すら出来ないほどの速さで放たれるが故の不可視の魔弾か。僕の魔力強化した動体視力でも捉えきれない速さとは大した速さだ。見てから回避するんじゃ遅いってことだね――


「ッ!」


 僕は次弾が放たれる前に人混みに逃げ込む。

 パニックになった集団の中に紛れれば姿を隠せるだけではなく、人質たちが壁となって、シズク達からは下手に攻撃できなくなる。そのうちに接近し、格闘戦に持ち込めば、生粋の魔法師タイプであるシズクに勝ち目は無い。

 そう考えて取った行動であったが、その予想は外されることになる。


「……なに?」


 出口へと殺到する人混みの中に上手く紛れたはずの僕を、シズクは何故か見失わず、確実に僕へと視線を向けていた。

 良く見るとシズクの瞳は金色に染まり、瞳の奥には紅玉のような光が差していた。あの瞳には見覚えがある。確か、ミラも『天眼』を使う時にはあんな瞳の色に……。


「……そこですっ!」

「チッ!」


 狙い澄まされたシズクの魔弾は、民衆の隙間を縫って、僕の左肩に着弾する。灼けるような痛みの直後に、傷口が瞬時に塞がり始める。人質にした生き残りの魔法師たちを軒並み平らげたおかげで、残りストックは今までにないくらい沢山残っている。この程度のダメージなど一秒とかからずに再生するので問題はない。

 だが、シズクが『天眼』持ちというのは少々厄介だ。僕を見失わない眼と、あれだけの精密な魔法制御能力では、近づく前に足を止められる可能性が高い。それでも再生能力に物を言わせれば突破できるかもしれないが、シズクの他にも騎士たちがいる手前、足を止められるのは避けたいところだったが……。


「まあ、多少の消費には目を瞑ろうか……ッ」


 考えている間にも他の騎士たちが後衛であるシズクを護ろうと集まってきている。僕は綺麗な勝ち方を探すのを諦め、多少泥臭くても強引に勝利を得る方を選ぶ。

 突進してくるのかのようにこちらへ走ってくる人質たちを全て躱しながら、僕はジクザクな軌道を描き、シズクへと接近する。

 彼女もこちらの意図を察し、牽制するように魔弾を放ってくるが、人々の合間を縫って、正確に撃ち込んでくる彼女の魔弾は、逆に狙いを予測しやすい。魔法が放たれる直前に少し体を逸らせば、多少の傷は受けるものの、足が止まるような致命傷だけは避けられる。

 そうして、僕とシズクの距離があと五メートル程度になったとき、僕は人の波から飛び出した。


「ッ!」


 シズクから飛んできた魔弾が胸を貫くが、僕は止まらない。

 『魔力執刀(チャクラメス)』を展開し、シズクの喉元に刃が届こうとした瞬間、眼前を眩い光が通過した。


「『光輝点(ビット)』」

「ぐっ……!」


 次の瞬間には、シズクの周りに無数に現れたスーパーボールくらいの大きさの光の玉が、僕の体を一斉に貫いていた。

 光の玉は一つ一つが有りえないほど高熱で、僕の体に触れた瞬間に皮膚を溶かしながら直進し、あっという間に背中から飛び出す。それを体の数十ヶ所でやられるのだ。

 全身を虫食いのように食い破られるというB級ホラーの死体みたいになった僕は、瞬時に再生するが、再び襲い掛かってきた光の玉に後退せざるを得ない。


「恐ろしい魔法を持ってるね! 禁忌指定されてもおかしくないと思うけど!」

「人に使ったのはあなたが初めてです。最も、これを使う相手はあなたが最初で最後だと思いますが!」


 毅然とした口調で言ったシズクは、再び人の波に隠れた僕を見て、光の玉を周囲に展開させながら、魔弾を放つ構えを取る。そのうちに近くにいた四名の騎士たちもシズクに合流したため、状況は更に悪くなってしまった。

 全く……今日はつくづく思い通りにならない日だ。

 魔法剣を構えた騎士たちがジリジリと間合いを詰め、光の玉を空中に展開させたシズクが僕を睨む。


「はぁ……」


 思わず溜息が漏れる。僕はここまで見通しの悪い人間だっただろうか。変に力を残しておこうとしたせいで、結果的に無駄な時間と労力を使うことになってしまった。

 僕はポケットに手を入れながら自嘲する。

 こんなことなら、最初から本気を出しておけば良かったね――

 僕は魔晶石を砕くと同時に、前方の騎士たちへと疾駆する。


「ッ!?」


 魔晶石の魔力を両脚に込めると、踏み抜いた床が爆発するように抉れた。

 一瞬にして目の前に現れた僕を見て、騎士たちの顔が目に見えて強張る。

 次の瞬間、僕の振るった魔力執刀(チャクラメス)が騎士の首を深く切り裂き、瞬時に絶命させる。

 倒れ込んだ仲間を見て、慌てて他の騎士が襲い掛かってくるが、精彩を欠いた状態で僕に接近戦を挑もうなど論外だ。

 右から来た騎士の大振りの攻撃をいなし、返す刃で首を獲ると、左から刺突を放って来た騎士の剣は、魔晶石の魔力が残っていた左足で蹴り砕く。直後にシズクの操る光の玉が飛んでくるのを感じた僕は、更に魔晶石を一つ砕き、


「――『霧幻泡影(デストラクション)』」


 一斉に飛んできた光の玉二十六個を、全て素手で叩き落した。


「…………え」


 思考が追い付かなかったらしいシズクが呆けた声を上げる。

 その間抜け面は隙だらけだったので、拳を思い切りめり込ませたかったが、人間の規格外の動きをした僕の両腕の筋線維はズタボロになり再生を要すため叶わない。

 まあどのみち、彼女にはまだ利用価値があるので殺すことはないのだが。


「ッ、おおおおおっ!」


 両腕をだらりと下げた僕が隙だらけに見えたのか、残った騎士二人が同時に仕掛けてきた。咄嗟の判断にしては見事な連携だ。

 両腕が再生しきっていなかった僕は、逆に騎士に肉薄し、振り下ろされた魔法剣の鍔に蹴りを入れて弾く。

 そこに、すぐさま後ろから騎士が斬りかかってくるので、背後に向かって回し蹴りを放ち、剣を弾き飛ばす。


「ッ……ぅおおお!」


 得物を失った騎士は、それでも雄たけびを上げながら、僕に拳を振り上げる。良い判断だと思うし、最後に一発くらいは殴られても良かったのだが、生徒でもない彼にそこまでする義理もないな、と考えて、再生し終えた腕で防御し、カウンターで目つぶしを決める。


「うぎゃあああああ!」


 指先から伝わるドロリとした感触をそのままに、目から引き抜いた指を、後ろから斬りかかろうしていたもう一人の騎士の前に突きつける。顔が引き攣り、動きが鈍った騎士の顎を魔力の籠った拳で打ち砕く。


「この……」


 シズクの方から再び魔力の気配があったので、目を押さえて蹲る騎士をシズクに向かって放り投げると、襲い掛かろうとしていた光の玉の動きが止まる。そのうちに、魔晶石を砕いた。


「しまっ」

「――『終末(デストラクション)』」


 慌てて杖をこちらに向けたシズクの右手は、次の瞬間には黒い光線に呑まれて消失する。


「あ、ああああああああッッ!! う、うでっ! うでがぁああ!」


 普段のシズクからは考えられないような心地よい悲鳴を上げ、僕は一瞬の幸福感に包まれる。いくら大人びているシズクでも、己の片腕が無くなればパニックにもなるだろう。

 無くなった右腕の付け根から零れる血を抑えて震えるシズクに、僕は歩いて近づくと、彼女は蒼白になった顔を上げた。シズクの顔は真っ青になっていても美しい。

 残った左腕を加減しつつ蹴り飛ばして折ってみると、彼女は声にならない悲鳴を上げた。


「ぐああああああ!!」

「――はは」


 痛みにのたうち回るシズクを見ていると、僕の口から自然と笑いが漏れた。全く、折られるだけでこれほどの痛みなのに、両脚を斬られたエトは一体何故ああも穏やかな顔が出来たのだろうか。


「痛そうだね」

「くぅう……」

「なんとか言えよ」


 折れた左腕を蹴ると、彼女は咆哮とも言える叫びをあげた。


「ほら、血も止まってないし、このままじゃ失血死だ。頼れるお兄さんに助けを求めた方がいいんじゃないかな?」

「……ぅう」


 シズクの瞳に理性の光が戻ったことを確認した僕は、大げさにならない程度に肩を竦めた。


「……ま、遊ぶのはこれくらいにしておいて、僕もそろそろ逃げるとするかな。時間もあまり残されていないからね」


 シズクに背を向け、走り出した僕の背中にシズクの視線はしばらくの間付いていた。

 やがて角を曲がり、シズクの視線も消えたところで、僕は歩みを止める。

 さて、あまり待つことも出来ないが、彼女は上手く釣り糸に引っ掛かってくれるだろうか?

 多少期待を込め、再び歩き出すと、僕はアリスに連絡を取った。


読んでいただきありがとうございます。

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