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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
カナキ・タイガ
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仇敵

「アリスさん、マティアスさん達の状況は?」


 エト達と別れた後、僕はすぐに思念(メッセージ)でアリスと連絡を取った。

 本当は、実際に現場にいるマティアスさんかガトーさんと話したかったのだが、マティアスは魔力がないから思念(メッセージ)の魔法を使えないし、ガトーは戦闘に夢中で返事が返ってこなかった。


『マティアスさんは今のところ問題なく騎士団長を抑えてるわね。あれ、人の次元の戦いじゃないわよ。バデス以外の死体じゃ加勢にすら入れないわ』

「でしょうね」


 しかし、流石はマティアスさんだ。ということは、やはりマティアスさんは一人で騎士団長を相手にしているということか。僕達の逃げる時間を稼ぐために戦うマティアスは、この調子ならもうしばらくエリアスを釘付けすることは出来るか。


『ガトーの方は……正直微妙ね。そもそもあいつの頭の中に足止めっていう概念がないから、玉砕覚悟の博打攻撃を平気でするから、どっちがいつ死んでも分からない状況ね』

「……でしょうね」


 やっぱりね。ガトーは所詮頭が空っぽの傭兵。

 今、彼の頭の中には目の前のシリュウを殺すこと以外、何もないのだろう。

 そこで僕は、ふと気になったことをアリスに問うてみた。


「あの、ガトーさんと今戦っているのは誰ですか?」

『カナキ君がシリュウって言ってた学生よ。ほら、エトちゃんの足をちょんぎった子』


 その言葉を聞いただけで、僕の背中が冷たくなる。わざわざ僕の神経を逆撫でする言い方をしたのはアリスの趣味だろう。本当に殺してやりたい女だ。

 だが、今はそんなことを気に掛けている余裕はない。


「そこに妹の方はいませんか? アリスさんに教えたシズクという女生徒です」

『あー、あの娘? 最初にお兄ちゃんに加勢しようとしたけど断られて、ご武運をーとか声かけた後にドームの中に入っていったから、今頃そこらへんにいるんじゃない?』

「……なるほど」


 僕は立ち止まり、少しの間だけ考える。マティアスとガトーが今にも負けそうな劣勢だったら、すぐに助けに向かおうと思っていたのだが、出来ることなら済ませておきたいこともある。

 僕はしばらく考えたのち、マティアス達にはもう少し頑張ってもらうことにした。


「僕は少し寄り道してからマティアスさん達のところへ向かうとします。アリスさんはそれまでマティアスさん達へ加勢して、何とか足止めさせてください」

『もう、だから私の今持ってる死体じゃ加勢さえ出来ないんだから! ……分かってるわよ。それでも何とかしろって言うんでしょ。……これで前のことがチャラになるならいくらでもやってやるわよ』


 最後の言葉には、いつものアリスらしくない感情が含まれているような気がした。

 だが、それに触れる前に思念が途切れたので、僕も自分の仕事に集中することにする。ともかく一分一秒でも時間が惜しい状況だ。本当はじっくりと遊びたいところだが、TPOを弁えた行動を取らなくちゃね――






「皆さん、慌てないで! この通路の先に出口があるので、前の人を押さないで移動してください!」


 ラグーンドームの入り口でシリュウと別れたシズクは、別動隊と合流して、人質の解放を行っていた。

 人質となっていた人達は半ばパニックになりながら我先にと出口へ殺到するので、統制をとるのがなかなか難しい。一体、人質となっていた半日でどんな目に遭ったというのか。


「ん――ッ」


 シズクの『天眼』に、列を飛び出して後ろからこちらへ駆けてくる人物の姿が映る。その女性の体の内からは、急激に膨れ上がる魔力反応。

 そちらへ振り向いたシズクは、素早く杖を構えて『魔弾(ガンド)』を放つ。両脚を射抜かれたその女性は地面に膝を突き、そのあと爆発した。小規模な爆発ではあったが、決して小さくない破裂音と共に、女性の体を形作っていた物が四散し、それを見た人達がパニックを起こす。

 人質の解放を始めてから、しばしばこのようなことが起きるので、事態を収拾することが尚更困難になっていた。あれらの正体は、おそらく人質の中に特攻用の人間を紛れ込ませたうえで、助けに来たシズク達王宮の人間を巻き添えで殺すために仕組んだカナキの罠だろうが、これだけの人数の中にあれほど巧妙に紛れられると、こちらも判別しようがない。

 それでも、人質解放にきた王宮側に甚大な被害がないのは、シズクの瞳に秘められた異能である『天眼』の力が大きかった。

 人間離れした魔力検知能力と全方位に及ぶ視界、更に遠見に近い能力まで授かる『天眼』は、こちらの世界に来てすぐに、シズクが覚醒した異能力の一つだった。エリアスによると、王国でも十年に一度『天眼』を持つ者が現れるかどうかというほどに希少な能力らしいのだが、この能力のおかげで今までも、そしてたった今も自分の命を守れているのは事実だった。

 なので、あちらの妨害はあるが、今のところ人質の解放というシズクの任務は順調に進められていた。逃げていく人々に声を掛けながらも、シズクの頭には、入り口に置いてきた兄の存在が離れない。

 ――兄さん、どうか無事で。皆さんを逃がしたら、私もすぐに……。


「……ッ!?」


 急に膨れ上がる魔力を察知して、シズクは避難する人々の先にいる何かを視た。

 直後、逃げる人々の波を突き破り、漆黒の光線がシズクに向かって放たれていた。

 先んじて魔力を察知出来ていたことの賜物だろう。直感的に障壁で防ぐことをやめたシズクは倒れ込むようにして床に伏せ、黒い光線をやり過ごす。壁にぶつかったはずの光線が何の破壊音も立てないため、シズクは嫌な予感を持ちながらそちらを見る。


「……え」


 壁は、光線の当たった部分だけ丸く齧りとられ、小さなトンネルが一つ出来上がっていた。

 続けて悲鳴が上がり、シズクが悲鳴の方を見ると、そこには手や足を消失させた人々が苦痛にのたうちまわっていた。

 生きている者は手や足を失い、一人では立ち上がることも出来なくなった者もいれば、頭や胸を消失し、既に息絶えている者も少なくない。

 シズクは、一瞬で地獄へと変わったその光景を呆然と眺める。だが、すぐに事態の深刻さを理解したシズクは、やがて現れたこの地獄を作った男の顔を見て、疑惑を確信へと変えた。

 その男は、シズクが自分を見ていることに気づくと、困ったように笑った。


「やっぱり今のを躱しちゃいますか。魔法師としてもやはり君は優秀だね」

「金木……亮」


 元いた国でも散々人を殺し、この世界に来てからも人を殺し続けている生粋の殺人鬼は、シズクの呟きに反応して肩を竦めた。


読んでいただきありがとうございます。

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