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死刑囚、魔法学校にて教鞭を振るう  作者: 無道
カナキ・タイガ
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別れと決意

「ッ! アリスさん!」


 マティアスの意図を察した僕は、思念(メッセージ)の魔法でドームの中に潜むアリスに叫ぶ。


『ッ! やっていいってこと!?』

「はいっ!」

『了解!』


 アリスの返事と同時に、王宮サイドで悲鳴が上がった。

 先ほど人質交換で向こう側に渡した要人たちは既に死体。あれらは全て、アリスが『完全なる骸パーフェクト・アンデッド』で操っていた死体だったのだ。魔法師長であるアンブラウスの目を誤魔化せるかが鬼門だったが、流石はアリスの固有魔法。事態に気づいたアンブラウスが、ここで初めて悔恨の顔を浮かべる。


「くっ――」

「ふっ!」


 事態を収拾しようとしたアンブラウスに、マティアスが高速で迫るが、それはエリアスに止められ、そのまま二人は交戦状態に入る。

 だがこれで、実質王宮最強の二人を足止め出来た。僕はミラに向かって指示を飛ばす。


「ミラさん! 障壁を!」

「ッ……良いのか? 今閉じると鬼人は……」

「あの人も承知の上です! 早くっ!」


 頷いたミラが扇子を一振り。するとみるみるうちに、『時空の壁』がラグーンドームを包みこむ。

 それに気づいた騎士たちがこちらに向かってくるが、間に合うことなく障壁は無事に閉じる。だが勿論これで安心はできない。

エトを抱えて立ち上がった僕は、すぐにこれからの行動について説明をする。


「みなさん、予定とは違いますが、ここが潮時でしょう。僕の作った地下の穴を使ってここから脱出します。先頭はフェルトさん、殿はガトーさんにして――」

「ッ! タイガさま――」


 いきなりサーシャに渾身のタックルをもらい、踏ん張ることも出来なかった僕は何歩か後ろに下がる。

 まさか、ここでサーシャが裏切るのか、と思いサーシャを睨んだ刹那、僕の眼前を白い閃光が過ぎ去った。


「――『閃空(ライトニング)』」


 眩いばかりの閃光は、先ほどまで僕の立っていた場所にいたサーシャを呑み込み、ラグーンドームに突き刺さる。

 激しい轟音と共に、ドームの外壁が崩壊する。見ると、閃光が走った地面は綺麗に抉られ、サーシャの姿も跡形もなく無くなっていた。


「さ、サーシャァアアア!」

「なっ……妾の『時空の壁』をこうも容易く……!?」


 消滅した友を見て絶叫するフェルトと、驚愕するミラ。

ミラの視線を追うと、その先には、大剣を振り下ろした姿勢で止まるシリュウの姿。まさか、今のをあの男一人でやったというのか。


「なんだいそれは……学園じゃあんなものは一度も……」


 だが、考えてみれば当たり前だ。あれほどの魔法を模擬戦などで使えば、相手を怪我させるどころか完全に消し飛ばしてしまう。では、カレンと模擬戦をした時も、本当はあんな切り札を隠し持って戦っていたというのか。

 ここで僕は自分の認識が間違っていたことに気づく。シリュウはシズクのおまけのただの脳筋ではない。奴は今、はっきりとした僕らの脅威だ。


「ちっ!」


 シリュウが再び大剣を持ち上げ、大量の魔力を熾す。まさかあれを連射する気か?

 奴を止めようにも今の僕の両手にはエトを抱えている。どうするべきか悩んだとき、僕の横を一匹の異形が抜き去った。


「あいつは俺に任せなぁ!」


 威勢よく吠えて突っ込んだのはガトー。

 いつの間にか『幻獣化』を完全に終えていたガトーは、大きな翼をはためかせ、何倍にも膨れ上がった巨体でシリュウに突撃した。


「こいつ――!」


 シリュウは追撃をキャンセルし、ガトーを相手取って戦う。

 加勢するとかえって邪魔になると判断したのか。王宮の騎士たちは、戦うエリアスやシリュウを通り過ぎてこちらに向かって駆けてくる。僕達の選択する道は逃走しかなかった。


「ドームの中に逃げ込みます! そのあとは各自交戦しながら撤退を!」


 思念(メッセージ)で全員に呼びかけると、僕もエトを抱えてドームに駆け込む。後方から様々な遠距離魔法が飛んでくるが、それは全てミラが障壁を張って防いでくれた。


「ありがとうございます!」

「礼はここを逃げ切ってからじゃ。あんな大群を相手取っては、流石にこちらが分が悪い」

「――なら、こちらも手駒を増やしましょうか」


 僕はにやりと笑うと、アリスに続けて指示を飛ばす。


「人質に紛れ込ませた死体はそのままで、それ以外の手駒を手筈通りの場所で起動させてください。それと、バデスの死体はマティアスさんたちの加勢に向かわせてください」

『ちょっと、あれは私の護衛用なんだけど!』

「マティアスさんたちが負ければ、どのみち意味がないですよ! 早く!」

『ッ、分かったわよ!』


 自棄になったようなアリスの叫びと共に思念が切られる。マティアスは最後の最後でアリスに殺されたのだ。今くらいは彼女にマティアスに加勢してもらわなければ割に合わない。

 しかし、僕達が脱出経路である地下の穴に向かって走っているとき、ここでまたもイレギュラーが起きた。

 それは、先に地下の穴から逃げ出していた先遣隊から思念(メッセージ)で伝わってきた。


『くそっ、おい、どうなってんだ! この穴、途中で行き止まりになってるぞ!』

「えっ!」


 悪態と共に飛んできた報告に、僕は声を詰まらせた。


「そんなことはあり得ません! 実際、その穴はフェルトさんに下見をしてもらって、街の外に続いているのも確認済みです」

『んなこと言ったって、実際行き止まりは行き止まり――ぐぁっ!』


 短い悲鳴と共に思念が途切れる。

 それで、僕とミラは顔を見合わせた。


「これは……」

「おそらくじゃが……まあアンブラウス様の仕業に違いない。あの方はウィンデルの図書館の一件で、この方法を知っておる。どういうマジックでこの穴を見つけたのかは不明じゃが、穴の先にはアンブラウス様か、それに次ぐ実力者がいると考えた方がいいじゃろう」

「ッ……どうしてこう次々と計算外のことが……」

「……先生」


 思わず恨み言を吐いてしまうが、すると抱いていた少女が、僕の服の胸辺りをぎゅっと握ってきた。それで、この少女だけでも逃がさなければ、という強い使命感に駆られる。

 ――ここまで好き勝手してきた僕が、まさか最後に使命感なんかに動かされるとはね。


「ミラさん。バデスとレインの死体を付けます。それで魔法師長をなんとかできませんか?」


 僕の提案に、ミラが驚いた顔を作った。


「な……そうなれば、入り口の戦力が不足するであろう! 一体どうするつもりじゃ!」

「代わりの戦力を投入するだけですよ」


 そう言って僕が笑うと(流石に少し引き攣った笑みになっていたかもしれない)、ミラは全てを察したようで、訝し気な顔になった。


「……自己保身に長けるそなたが、一体どういうつもりじゃ」

「はは、師弟そろって同じことを言うんですね。それ、アリスさんにも何回も言われましたよ……知っての通り、僕は異様にしぶといですから、時間稼ぎという意味で考えたら適役なんですよ。……それに、少しやり残したこともあるので」


 僕の脳裏には同郷出身の兄妹の顔。あの二人は僕の手で確実に殺す。

 僕の服を握る力が強まる。それに気づかないフリをしてミラを見ると、彼女は神妙な顔で頷いてくれた。


「……分かった。死ぬ気ではなかろうな?」

「はは、死ぬにしても、向こうは楽には殺してくれないでしょうね」

「やめよ。そなたが今抱いている少女を泣かす気か。勝手に助けられて、あとはそのまま一人にするなど、同じ女として許さぬぞ」


 ミラは存外真剣な顔で言ってきたので、僕も思わず素直にうなずいた。


「……肝に銘じておきます」

「うむ。じゃが、アンブラウス様の相手をするとなると、妾はその娘の面倒を見切れないぞ。一体、誰に任せるつもりじゃ?」

「ああ、それは最初から決まってます」


 僕の言う事は絶対に守って、更に護衛としても申し分のない存在。

 僕はその奴隷の名を、後ろに向かって叫んだ。


「フェルトさん、ちょっと!」

「こんなときになによ!」


 棘のある返事と共に、ガトーの代わりに殿を務めていたフェルトが、瞬く間に僕達の横までやってくる。


「エト君をお願いします。僕はちょっと用事が出来たので、この場を離れさせてもらいます」

「はぁ!? ちょ、こんなときに用事とか、絶対ロクでもないでしょ!」

「まさに正論よな」


 ミラが面白そうに笑い、つられて僕も笑う。話が見えないフェルトだけが、「なによ!」と不満の声を漏らした。

 これくらいは赦してほしいものだ。なにせ、僕のこれからやることを考えると、鬱になってしまいそうになるからね。


「まあ端的に言うと、ミラさんとアリスさんの操る死体で前の魔法師長を、僕は後ろの騎士団長を始末することになったので、フェルトさんはこの娘の護衛をお願いします」

「はぁ!? アンタ正気なの!? 自己保身の塊みたいなアンタが何で――」

「あ、そのくだりもうやりましたから」


 どうやら僕の認識はそれで共通しているらしい。

 だが、フェルトはそこそこ頭も回る。一応事情は察したらしい彼女は、それ以上文句を言う事もなく、「分かったわよ」とぶっきらぼうに言うだけだった。つくづく良い拾い物をしたものだね、僕は。

 最後に、視線を下げると、こちらと目を合わせようとしない少女に声を掛ける。

 チラリと彼女の足を見るが、止血は済んでおり、すぐに死ぬようなこともなさそうだ。


「エト君。話は聞いていたね。ここでお別れだ」

「……そこにいる女の人の言う通りです。勝手に私を助けたと思ったら、今度はすぐに置いて行ってしまうんですか。お父さんみたいに」

「……すまないね」

「謝ってほしいわけじゃありません!」


 エトが怒声を上げる。

 思えば、彼女がここまで怒気を荒げるのは初めてかもしれない。


「すまない」


 僕は、もう一度謝った。


「だから……違うんです! 約束してください、必ず帰って来るって!」

「……それは約束しかねるよ。これからすることを考えると、むしろ――」

「分かってます! けど、なんで嘘を吐いてでも『わかった』って言ってくれないんですか! 先生は嘘が得意でしょう!?」

「…………」


 気づけば、地下の穴の入り口まで来ていた。

 ミラ達は足を止め、僕達の別れがすむのを待つ。あまり悠長にはしていられない。

 僕は表情を緩める。いつも浮かべる人を安心させる笑みは、今はちゃんと作れているか自信がなかった。


「……分かった。約束するよ。必ず君のところへ戻ってくる」

「……分かりました。そのときは、お父さんも一緒にですよ」

「……そう伝えておくよ」


 表情を作るのが限界だった。

 僕は服を掴むエトを半ば強引にフェルトに預けると、来た道を引き返して走り出した。

 後ろから何か声が掛かったような気がしたが、振り返ることはなかった。


読んでいただきありがとうございます。


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