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犯罪者会議

「なんだよ、気づいてたんならもっと早く言えってんだ」

「仕方あるまい、旧友同士で積もる話もあったのじゃろう」


 入ってきたのはガトーとミラだった。

 空気を読んで入るタイミングを待ってくれていたのはおそらくミラの配慮だろう。ガトーがそんな気を遣うとは悪いが到底思えない。

ミラが僕の横に座るマティアスの姿を見ると、驚いたように目を開き、扇子で口元を覆い隠した。


「……驚いた。そなたとよもやこんなところで再会するとはのう。生きておったのか」

「……お前こそ、まさかカナキに力を貸しているとはな。引きこもりがちなお前にしては珍しいこともあるものだ」

「ふふ、そなたは昔から繊細に見えて、案外大胆な男じゃったからな」


 どうやら二人は知り合いだったようだ。旧友同士が久しぶりに再開したときの独特なその雰囲気の中で、僕はガトーがいつも通り悪態を吐きながらも、歩き方にどこか違和感があることに気づいた。


「ガトーさん、もしかしてどこか痛めてます?」

「アン? そんなわけあるかよ。ピンピンしてんぜ」

「ふん、こやつは先ほどの戦闘で受けた『雷光千鳥』のダメージが未だ抜けておらんのよ。いくら『幻獣化』で頑丈になろうと、最上級魔法を体一つで受けては、いくらそなたでも無事ではすまんよ」

「ミラてめえ! それは言わねえ約束だったろ!」


 なるほど。確かに、あれだけの魔法を受けてはガトーといえども無事ではすまなかったか。

 僕が視線を向けると、ガトーはバツの悪そうな顔を作った。


「余計な気遣いすんじゃねえぞ。ちょっと体に痺れが残ってるだけで、こんなのどうってことねえ。それより、早くこれからの作戦について聞かせろや」

「……そうですか、ガトーさんがそう言うなら、分かりました」


 僕がガトーを気遣っているように見えたのか、ガトーがぶっきらぼうにそういうので、僕も乗っかるように相槌を打つ。

 本当はガトーという駒の今後の動きに支障が無いかを確認していただけなんだけどね。

 さて、残るはあと二人。

そう思った直後、扉が音もなく開き、最後の二名が部屋に入ってくる。

 サーシャとフェルトだ。


「申し訳ありません。所要で少し遅れてしまいました」

「あ、私達が最後だったのね」


 ごめんなさい、と言外に告げながら入ってきた二人は、直後にアリスのゴミでも見るかのような瞳の洗礼を受ける。


「……全く、一番雑魚の分際で遅れるとか、何様なのかしら」

「あら? レートでしか判断できない脳無し犯罪者さんでも時間くらいは読めたようですね」


 アリスの挑発に、サーシャが僕の前では考えられないほど高圧的な態度で応じる。

 そういえば、サーシャの『共喰い商人』という由来は彼女の同族嫌悪から来ているものだったな、と他人事のように思い出したが、今はそんなことで揉めているところではない。


「はいはい、それくらいにしてください。時間もありませんから、すぐにミーティングに移りたいと思います」

「はいっ、タイガ様!」

「……カナキ君、あなた、実はそういう趣味だったわけ?」

「……もうそういうことでいいです」


 明らかに多く見積もっても十代中盤くらいのサーシャが、僕のことを様呼ばわりしていることに、アリスが疑惑の眼差しを向ける。それを弁明すれば、また話が先に進まないので、一旦保留しておくことにした。


「……カナキ」


 マティアスに呼ばれてそちらを向くと、彼は珍しく無表情ではなかった。

 瞼をいつもより上に持ち上げ、小さく口を開いている様は、見ようによっては驚いているようにも思えた。


「はい、なんですか?」


 兎にも角にも僕が返事をすると、マティアスは部屋のいる一同を見渡して言った。


「これだけのレベルの手配者を、お前一人で集めたのか」

「ええと……はい。やっぱり足りない、ですよね。ただ、二ヶ月で僕の人脈を使って呼べる人達は、大体これくらいしか――」

「………………惹き寄せる才能、か」

「はい?」


 僕が訊き返すと、マティアスは小さく首を振った。


「なんでもない……話を始めろ」






「皆さん、ひとまず作戦の第一段階は問題なくクリアされました。そのことについてひとまずお礼を言わせてください。本当にありがとうございます」

「そ、そんなタイガ様! 頭を上げてください!」


 僕が頭を下げると、頭上からサーシャの焦ったような声が聞こえ、素直に顔を上げる。

 サーシャは畏れ多いとばかりにテンパっていたが、それを隣に座るフェルトは醒めた顔で溜息を吐いた。フェルトさんの洗脳は相変わらず難航している。むしろ、洗脳もされてないのに、ここまでよく付き合ってくれたものだな、と逆に感心するくらいだ。


「消し屋よぉ、んなことより、早く話を進めろよ。ここで終わるわけじゃないんだろ、今回の戦争は」

「ええ、勿論です」


 僕は皆の中央に置かれたテーブルに一枚の紙を置く。

 そこには、数十名の人の名前が記されていた。


「これは……何かの名簿か?」


 皆の疑問を代表するようにミラが言葉に出し、僕は頷く。


「はい。ここに書かれているのは、今このラグーンドームで監禁している人質の中で、比較的価値が高い人物の名簿です。貴族などのお偉いさんがほとんどですが、中にはレベッカ・ホークマンなどの、魔法師として高い能力を有している人物も含まれています」

「ほぉ……制圧が完了してからまだ一時間も経っていないというのに……相変わらず仕事が早いのぅ」

「いえいえ、今回は僕より適任の方がいたので、サーシャさんにやってもらいました」

「いえ、私は戦力としては全然なので、このあたりでお役に立てて頂かないと……」


 殊勝な態度でサーシャは言う。チラリとアリスの方を見るが、彼女は特に突っかかるようなことを言う気配は無かったので、胸を撫でおろしながら話を続ける。


「ここに書かれている人だけを処刑しても、オルテシア王国内は大混乱するでしょうが、やはりカレン・オルテシアほどではありませんね。彼女を僕達の手中に収めることが今回の目的でしたが、成功して本当に良かった」

「うむ。して、彼女ならば先日拝借した禁忌指定の魔法書の封印を解くことも出来よう」


 ミラが言っているのは、ウィンデルで僕らが盗みだすも強力な封印が仕掛けられていた禁忌指定の魔法書のことだろう。確かに、あれを見つけることはガトーやミラにとっては最優先事項だろうが、手に入れた途端、作戦を放棄して逃げないかというところも心配ではある。


「彼女は見たところ、手に指輪を嵌めていませんでしたから、もしかしたら彼女の指輪は別のところにある可能性もありますね」

「ああん? 冗談だろ! 前回に続き今回も骨折り損だけは御免だぜぇ! あんな大事なモン、どっかに置いてくるはずがねえ!」


 立ち上がったガトーにミラが窘めるように言う。


「待て、ガトー。どこに行くのじゃ」

「素っ裸にして隠し持ってねえか探して来てやる! 俺の連れてきた部下たちも限界だ。ガス抜きが必要だしな」


 まずいな。厄介な方向に話が進んでしまった。


「ガトーさん、それは少し待ってくれませんか?」

「なんだ? てめえとあの皇女の関係は知らねえが、言っとくが俺はそんなことに気を遣うつもりはねえからな」

「はい、分かっています。ただ、彼女には今後、重要な役目があるので、できればそれまで処女で通したいんです」


 処女云々は全くのデタラメだが、僕が言えばそれらしく聞こえるはずだろう。


「ガトーさん達には、別の女性を用意しますので、どうか勘弁してもらえませんか? なんでしたら、僕の他の教え子の方から出してもいいですよ」


 最後のは、僕が生徒に情が移ったと捉えられないように咄嗟に言ったことだったが、それが功を奏したようだ。


「……分かった。それで手を打ってやる。だが、俺たちはあまり気が長い方じゃねえからな」


 あまり待たせるなよ、と言外に伝えてきたガトー。

そのとき、マティアスとミラが不意に外の方に視線を向け、僕も安心させる笑みを浮かべた。


「分かりました。ただ、先にあっちの方を片付けなければならないみたいですね」

「ああん?」

「――王宮からお客様が到着したようです」


読んでいただきありがとうございます。

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