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最初の三人

書いていて少しだけ懐かしい気持ちになりました。

 Sideカナキ


「ふぅ……」


 大きく息を吐き、手近なソファに座った僕はネクタイを緩ませる。

 VIPルームということもあり、なかなか上等なソファを使っているのか、柔らかくスポンジのように自分の体を沈めていくそれにもたれかかっていると、もう何もかも忘れて眠ってしまいたい衝動に駆られる。


「……まあ、そうもいかないよね」


 僕は大きく伸びをすると、ソファに座り直し、背筋を伸ばす。これからやってくる人たちに情けない態度では応じられない。

 そして、その直後にノックもなくアリスが入室してくる。その後ろにはマティアスの姿もあった。


「あら、私達が一番乗り?」

「そうみたいですね。まだ集合時間には早いですし。マティアスさんはともかく、アリスさんがこんなに早く来るのは意外でした」

「失礼ね。この三人は最初に少し話しておいた方がいいと思ったからよ」

「おお、珍しくまともな意見だ」


 僕が座るよう促すと、マティアスは僕の対面に、そしてアリスもその横に座ったが、マティアスはそれを見て一つとなりのソファにずれた。これに対してアリスがむくれた顔を見せる。


「ちょっとマティアスさん。こんな美人が隣に座ったんだから喜ぶならまだしも、無言で遠ざかるってどういう了見よ」

「お前の過去の行いを振り返って考えてみろ」

「なによ、まだあのときのこと怒ってるの? あれはちゃんと謝ったじゃない」

「そもそも、あれだけのことをやって、謝って許されると思ってるアリスさんがすごいですけど……」


 僕が溜息を吐くと、マティアスがこちらを向いた。

 相変わらず何を考えているのか分からない、全くの無表情だ。

 それがどこか、僕には懐かしく感じた。


「カナキ、事情を説明しろ。そもそも、私はどうなったんだ」

「え」


 僕が驚いてアリスの方を見ると、彼女は上着を脱いだところだった。


「アリスさん、マティアスさんに何も話していないんですか?」

「? うん。だって、自分を殺そうとした相手の言う事なんて普通信じないでしょ」


 何でそういうときに限って正論言うんだよ……。

 僕がしかめ面で睨んでも、アリスはどこ吹く風だ。僕達がいるにも関わらず、シャツをペロンと捲り上げ、カレンにやられた傷の具合をチェックしている。


「……カナキ」

「ああ、分かりましたよ。僕から説明します!」


 いつまでも説明しない僕達に流石にマティアスも焦れたのか。

 催促するように呼ばれた僕の名前に、半ば自棄になりながら答えた。


「ええと、まずマティアスさん自身の体についてなんですけど……一応聞きますけど、心の準備は出来てますよね?」

「問題ない」


 マティアスは表情を変えずに言った。


「ですよね……ええと、マティアスさんの最後の記憶は、僕と一緒にアリスさんを倒したところだと思います。あのあと、マティアスさんが賢者の石のレプリカを使って、エト君を蘇生させようとしたことまで良いですよね?」

「ああ……」


 そこで、マティアスの表情が僅かに変化した。


「……あれは、失敗したのか?」

「あ、いえいえいえ! そこは問題なく成功しました! あれからエト君は無事に蘇生して、友人の家に住まわせてもらって学校にも通っていました」

「……そうか」

「あれ、マティアスさんってそんなパパみたいな顔もしてたっけ」


 説明する気がないのなら黙っていればいいのに、外野から余計な一言を入れてくるアリス。もうこの人収容所に返品してしまいたい。


「セニ……アリスさん、本当に余計な茶々入れないでください。こうしている間にも王宮は着々と攻め入る準備をしているんです。もう昔のマティアスさん家みたいなノリで話さないでください」

「あは、やっぱりカナキ君もあの頃を思い出してた? まだ三ヶ月くらいしか経ってないのに、随分昔のことのように思えるなぁ……あの頃は愉しかったね」


 ……アンタがそれを言うかよ。

 喉まで出かかったその言葉を呑み込み、僕はコホンと咳払い。これから先、アリスを始末出来る機会などいくらでもある。セニアの時ならともかく、今は本体がこうして目の前にいるのだ。やりようはいくらでもある。


「それで、話を戻すんですけど、エト君が蘇生するとき、マティアスさんは自分の体を媒体にして、エト君を造りだしましたよね。あのとき、マティアスさんの身体は分解され、新しくエト君の肉体として再構成されたわけですが、実は、分解されずに残っていたものがあったんです」

「…………」


 マティアスが沈黙して先を促すので話を続ける。


「それは、人間の超重要な一部でありながら、視認できないもの、つまり魂です。マティアスさんの魂を、今回新しく用意したその体にくっつけて、今のマティアスさんがあるわけです」

「待て。それはおかしいはずだ。今生きているエトとて魂はあるはず。ならばエトを新たに造り上げた際、それはどうしても必要になるはずだ」

「ええ、今のエト君にも魂はあります。ただ、それはマティアスさんが再構成したものではなく、本来からあったもの――結論から言うと、あのとき、エト君の魂は消滅していなかったんです」


 あのとき、エトは確かに絶命した。

 しかし、マティアスが蘇生を施したのは、彼女が完全に死亡してからそう時間の経っていなかった時だった。

 ここから先は結果から読み取った僕の推測であるが、あのとき、エトの魂はまだ僕達の周囲に留まっており、エトの体が再び造られたことで、そこに憑依。結果、マティアスの魂を使うことなく、エトは蘇生したということだろう。

 それを説明すると、マティアスは再び疑問を口にした。


「いや、だとしても、あれから三ヶ月経っているということは、私の魂は既にこの世には無かっただろう。仮に私の体はアリスがなんとかするとしても、魂の方はどうやって……」


 そこでマティアスは僕の表情に気づいた。


「カナキ……お前……まさか」

「あー、はい」


 こういう時は下手に言い訳せず、堂々と謝るのが吉だ。

 そう思った僕は、正直に頭を下げた。


「エト君が蘇生したあと、マティアスさんの魂を『魂喰(ソウルイータ)』で魔晶石にしてました。ごめんなさい」

「ぷっ、あはははははははははははッ!!」


 マティアスが何か言う前に、話を聞いていたアリスが破裂したように笑いだした。


「あれだけ私に散々偉そうに言っておきながら、やっぱりカナキ君だってちゃっかり美味しい所かっさらってるんじゃない! ていうか、マティアスさんを魔晶石にするって、私でも考えられなかったわ! あっはははははははは……げほっ、げほっ!」


 笑いすぎて咽せるアリスだったが、今回ばかりは僕も言い返せない。

 というか、マティアスさんの方を見れないよ……。


「……(チラッ)」

「…………………………………………………………………………………」

「ほ、本当にすみませんでしたっ!」


 それでも覚悟を決めて視線を上げると、能面のような無表情でこちらを見つめるマティアスと目が合い、全力で額に床を擦りつけていた。

 もうアリスさん、大爆笑。

 幸い、マティアスは鬼人とは呼ばれていても、本当の鬼ではなかった。


「……過ぎたことはもういい。それより、話の続きをしろ。今、お前達は何が目的で私を呼び出した」

「あ、それは……」


 それから今に至るまでの事情を話すと、マティアスは少しの間目を瞑った。


「そうか……あの時いたエトの友達がエトを守ろうとして死んだのか……」

「……はい」


 アルティのことが脳裏に浮かび、僕は自分の感情が昂っていることを自覚する。

 そうだ、アルティを殺し、エトを連れ去ったあの騎士団長に、もう少しで会う事が出来る。それに、僕の正体が露見する直前、明らかに不審な態度だったあの生徒。彼女も、次はおそらく出張ってくるだろうと予想している僕にとっては、むしろこれまでが下準備で、これからが本番だと言っても過言ではなかった。

 やがて、目を開いたマティアスは、手を組むと肘を太もものあたりに乗せた。

 マティアスは、覗きこむように僕の瞳を見上げる。


「……状況は分かった。ならば、私がこのタイミングで呼ばれたことも、何故ここにいるのかも理解できる。ではカナキ、私はあとどれくらい保つ?」


 咄嗟に言葉を返せなかった。

 まさか、向こうから切り出してくるなんて。


「……気づいていたんですか?」

「私が賢者の石を使ってやっと成しえた死者蘇生だぞ。いくらアリスが優秀なネクロマンサーで、お前が魂の使い方に長けていようと、そう易々と出来るものではない。おそらく私は、アリスの『完全なる骸パーフェクト・アンデッド』と近い状態にあるのだろう」


 ここで初めてマティアスはアリスに視線を投げかける。

 流石のアリスも、少しバツの悪そうな表情を浮かべていた。


「せめてもの謝罪ってことで、出来れば完全に蘇生させたかったんだけどね。五百人の死体で実験して、更に三百体の人間を素材にしても、今のマティアスさんの身体は三日と保たない。魂を接着剤みたいにして、継ぎはぎの体を強引に纏め上げてる状態だから、その体が朽ちれば、魂も今度こそ完全に消滅することになると思う」

「アリスさん! 何もそこまで教えなくても……」

「カナキ、いい。私の体のことだ。全てとはいかないにせよ、それなりに違和感のようなものは感じていた」


 マティアスは自分の掌を見つめると、やがてぎゅっと握り込んだ。


「むしろ、これは感謝せねばならんことだ。既に死した私が、短命ながらも、再び生を受け、愛娘を救う機会を貰えたのだ。以前は死に際にすら立ちあってやれなかったからな。生きている姿をもう一目見られるかもしれないだけで、私の来世全てを捨てる価値はある」

「マティアスさん……」


 マティアスがここまでエトの事を話すのは初めてだった。

 いつも寡黙だったこの人が、内心でここまで娘のことを案じていたのかと思うと、何故か少しだけ安心している自分がいた。


「カナキ、お前の作戦を聞かせろ。お前のことだ、これからの動きについても全て考えているのだろう?」

「ええ、それは勿論。……ただ、この続きは扉の向こうにいる人達も交えて話しましょう」


 先ほどから扉越しに感じる気配の方に視線を投げかけると、扉がゆっくりと開いた。


読んでいただきありがとうございます。

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