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押し寄せる鉄壁 下

「『終末(ジャッジメント)』」


 カナキの右手から放出された黒い粒子は、一直線に押し寄せる鉄壁へと到達。全てを原子レベルまで分解する漆黒の魔法は、しかしカナキの思う通りの効果を発揮しない。


「ッ!」


 障壁を分解するスピードが遅い。

終末(ジャッジメント)』は通常通りの効果を発揮している。問題はあの障壁にあるのだ。二重になった障壁は、そのそれぞれが高密度の魔力を練り上げて作られたものであり、更に障壁自体も分厚く、いくら分解魔法でも、遠距離から放つ『終末(ジャッジメント)』では、どうしても火力が足りないのだ。そして、カナキはこの問題を解決する術を一つだけ持っていた。

 ――こうなれば、障壁に接近して『霧幻泡影(デストラクション)』を直接叩き込むしかない……。


「くそっ!」


 悪態を吐いたカナキは『終末(ジャッジメント)』を中断し、障壁に向かって走り出す。無論リヴァルもそれを易々と許すはずがなく、障壁の前方に搭載していた『風来槍(ウィンドランス)』を次々と射出。カナキもある程度は躱すことが出来たが、捌き切れなかった槍がカナキの体を貫いていく。


「ぐ……おおおおお!!」

「なにっ!?」


 だが、リヴァルが予想外だったのは、それでカナキの走る勢いが全く衰えなかったこと。動きに支障の出る足や頭の攻撃だけを防ぎ、それ以外の部位への攻撃を全て体で受け止めたカナキが障壁に手の届く所まで来るのに大した時間は掛からなかった。


「『霧幻泡影(デストラクション)』ッ!」


 更に魔晶石を二つ砕いたカナキは、押し寄せてきた障壁と正面からぶつかると、分解魔法を発動した。

 魔法を発動した直後、カナキの体に障壁がぶつかり、その途方もない圧力に吹き飛ばされそうになったが、意地で食らいつき、手を障壁から離さない。


「うおおおおおおお!」

「なにっ!?」


 そして、暴風が吹き荒れるような音がし、遂にリヴァルの絶対防御であった障壁に人一人が通れるような風穴が開いた。カナキは再生が追い付かず、ボロボロになった身体に鞭を打って、既に自己再生を始めた障壁の穴を走り抜ける。

 いくら分厚いといっても、障壁の厚さは精々五メートルほど。武術を修めるカナキにとって、その程度の距離は魔術を使わずとも一瞬で駆け抜けることが出来た。

 光すら遮断されている障壁のトンネルを突破し、リヴァルによって吹き抜けになった天井からの太陽の光にカナキは目を細める。そして、待ち構えていたリヴァルが鉄球のような拳を振るう。既にリヴァルの拳はカナキの横顔の寸前まで迫っており、さしものリヴァルも攻撃の成功を確信していただろう。


「カァアアアアッッ!!」


 だがカナキは、そのパンチの速度に合わせて頭を回転させ、衝撃を殺すことで、難なく一撃を躱すことに成功する。ボクシングで使われるスリッピングアウェーという技術だが、流石のリヴァルもこれは知らなかったようだ。驚愕の表情を浮かべたリヴァルの顔に、カナキは回転した勢いを利用した、渾身の後ろ回し蹴りを叩き込む。狙い澄まされた顎への一撃は、リヴァルの首から異音を発しさせながら、頭を百八十度回転させる。頚椎を完全に破壊した手応えが、足先から返ってくる。

 ――勝った。

かなり面倒な障害だったが、彼には戦闘実践演習などで散々お世話になっていた。僕自身の手で終わらせることが出来たのは、同僚として当然の務めだろう。

カナキがそこまで考えて納得し、踵を返そうとした時、


「――ガアアアアアアッッッ!!」

「な……ごぉっ!?」


 人の物とは思えない咆哮が聞こえ、カナキが振り向くと、そこには拳を引き絞ったリヴァルの姿。目を疑うような光景に絶句したカナキの懐に、リヴァルの拳が深々と突き刺さる。

 特に魔術強化はされていなかったが、それでもリヴァルの拳は鋼のように堅く、七十キロのカナキの体を易々と吹き飛ばした。壁に強かに背中を打ち、突然の激痛に顔を顰めるカナキの視界に、一人の修羅がいた。


「オレノ、セイト……ハ、コロサ……セン!!」

「……ッ!」


 最早限界はとっくに越えているはずだ。にも関わらず、リヴァルは床を踏み抜かんばかりの勢いで近づいてくる。焦るカナキは手元の魔晶石を砕く。


「ッ……『終末(ジャッジメント)』!」

「――――――」


 カナキの放った『終末』は、狙い誤らずリヴァルの顔を消し飛ばした。

 頭部を失ったリヴァルは、それでも数歩こちらに向かって歩いた後、力尽きて倒れた。確認するまでもない。今度こそ完全に絶命している。

 カナキはいつの間にか荒くなっていた息を整えると、額の汗を拭う。冷静に考えてみれば、あれほど死に体だったリヴァルに魔晶石まで消費して『終末』を放ったのはオーバーキルも良い所だ。おかげで無駄に魔晶石を消費してしまった。しかし、あのときは焦ってマトモな判断を自分は出来ていなかったとカナキは自省する。

 ただ、最後のリヴァルの気迫は、カナキの冷静さを失わせるだけのものがあったことは確かだった。


「……大したものですよ。あなたの生徒に対する熱情は」


 カナキは、ひれ伏したリヴァルの死体にそう言うと、サブアリーナを後にする。

 教員の鑑であるリヴァルにそう言った手前、カナキに残された時間はそう多くなかった。



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